不倫をした妻をはじめとする有責配偶者との間で婚姻費用が問題になった場合には以下の記事とともに是非参照してください。
不倫をして出て行った妻。それでも婚姻費用を払わなければいけない!?
不倫をした妻からの婚姻費用請求は、全額拒否又は減額できる
夫婦には相互に扶養義務があるため、別居した後であっても収入の高い側(多くは夫)から低い側(多くは妻)へ婚姻費用を支払わなくてはならないのが原則です。
しかし、収入の低い側に不倫などの別居に至った原因が存在する場合には(このような側を「有責配偶者」といいます)、収入の低い側からの婚姻費用請求は権利濫用や信義則違反として制限されるというのが判例です。
つまり、不倫をした妻からの婚姻費用請求は、全額拒否又は減額できます。
この点は以下の記事で詳しく解説しているので是非読んでみてください。
注意点1:一部を支払わなければならないこともある
妻が不倫をして出て行ったという場合、妻からの婚姻費用は全額認められないケースが多いです。
ただし、全額ではないにしても一部は支払わなくてはならない場合もあるので注意が必要です。
それは、妻だけではなく夫にも責任があると判断された場合、つまり、妻が不倫して出て行った原因の一部は夫にもあったと言える場合です。
例えば以下のようなケースがあります。
① 妻が不倫する以前から、夫による不倫が疑われる状況があったこと及び夫が妻への生活費を一方的に削減したことから夫婦関係が悪化していたケース
→裁判所の判断:婚姻費用の2分の1を減額(大阪高裁平成19年2月28日決定)
② 妻は不倫をしていたものの、別居には不倫とは別のやむを得ない理由が存在し、かつ夫が妻の不倫を知ったのは別居後であったケース(大阪高裁平成20年12月18日決定)
→裁判所の判断:婚姻費用の3割を減額
そのほかには、夫から妻への暴力があった場合なども別居の原因は夫にもあったと判断される可能性があります。
このように、妻だけでなく夫にも別居の原因があった判断される場合は婚姻費用の一部を支払わなくてならないこともあるので注意が必要です。
注意点2:子供の生活費は別
これまで、夫と妻の間の婚姻費用に絞って説明をしてきましたが、実際には子供の生活費も絡んでくることも多いです。
具体的には、妻が不倫をした上に子供を連れて出て行ってしまった場合です。
妻から請求される婚姻費用の中には妻の生活費分と子供の生活費分が存在します。
このような場合、不倫をした妻の生活費分については全額又は一部の支払いを拒否できますが、子供の生活費分(一般的には養育費相当額)については極めて例外的な場合を除いて拒否することはできません。
例えば、夫婦双方の年収に照らして婚姻費用であれば月10万円、養育費であれば月6万円が相場であったとします。
その場合、婚姻費用10万円のうち養育費にあたる6万円は子供の生活費分、4万円は妻の生活費分と考えられます。
そうすると、妻の生活費分である4万円については支払いを拒否できたとしても、子供の生活費分である6万円の支払いは拒否できないということになります。
「養育費の金額が高くて、払うのが大変・・・」「養育費の金額を少しでも下げたい・・・」「収入が下がった場合でも、養育費を払わなければいけないの?」 横浜駅の弁護士の荒木です。 離婚後の養育費に関するご相談は年々増えています。 […]
まとめ
不倫をした妻に代表される有責配偶者からの婚姻費用請求は、原則として権利濫用や信義則違反とされ制限されます。
しかし、妻が不倫及び別居に至った原因の一部が夫にもあると判断される場合は、婚姻費用の一部は支払わなくてはなりません。
また、子供の生活費分については別の話であり、婚姻費用のうち子供の生活費分(一般的には養育費相当額)については減額できません。
このように、不倫をした妻からの婚姻費用の請求であっても一概に拒否できるというわけではありません。
婚姻費用をそもそも全く支払わなくていいのか、仮に支払うとしたらいくらなのかは、様々な事情により異なります。
その判断は極めて難しい場合もあるので、一度弁護士などに相談することをお勧めします。
今回の記事の中では、不倫が立証できることを前提に説明をしています。
しかし、婚姻費用請求の場面での不倫の立証は、離婚訴訟や不貞慰謝料請求訴訟とはまた異なる難しさがあります。
というのも、婚姻費用の請求者は現に生活が困窮していることが多いことから、裁判所は、婚姻費用請求の審判にあたっては、事案の解明よりも迅速処理を優先させるという運用を行っています。
そのため、限られた期間内に限られた資料で立証する必要があるのです。
もし今回のケースのように、不倫した妻からの婚姻費用請求を拒むのであれば、弁護士に依頼した方が望ましいでしょう。