私のケースにおける婚姻費用はいくらになるのでしょうか?
配偶者(夫または妻)との別居後、高確率で問題となるもの、それが婚姻費用です。
つまりは、別居後の配偶者や子供の生活費です。
配偶者に支払う婚姻費用の金額がいくらになるのかは、裁判所で利用されている算定表を使用するのが一般的です。
もっとも、算定表には限界もあることから、算定表を見ただけでは婚姻費用の金額がわからないこともあります。
今回は、夫婦双方が子供と同居して世話をしている場合の婚姻費用の金額について、以下の順番でご説明いたします。
・算定表の限界とは
・算定表を利用できない場合はどうするのか
・具体例を挙げて計算した場合をご紹介
1 算定表の限界とは?
裁判所で婚姻費用の計算のために利用されている算定表においては、子供全員を一方の配偶者が監護(同居のイメージです。)していることを前提としています。
このため、別居している夫婦の双方が子供をそれぞれ監護している(同居して世話をしている)場合、裁判所の算定表を利用することができません。
別居した妻から婚姻費用を請求されている夫は、自分が監護している子供がいる場合には、そのことをきちんと前提として婚姻費用の金額を取り決める必要があります。
妻においても、婚姻費用を厳密に計算すると夫から婚姻費用の支払いを受けることができないか、または、逆に夫に対して婚姻費用を支払う必要がある場合もあり得ます。
算定表を機械的に見て婚姻費用の金額を取り決めることは危険ですので、ご注意ください。
2 算定表を利用できない場合はどうするのか?
婚姻費用の算定表を利用できない場合、どのようにして婚姻費用を計算するのかについてご説明いたします。
そもそも、婚姻費用の算定表は、婚姻費用が生活費であるということから、できる限り早期に婚姻費用の月額を取り決めることができるように作成されたものです。
そして、婚姻費用の算定表には、元となった計算方法が存在しています。
婚姻費用の算定表が利用できない場合には、元となった計算方法に立ち戻って計算をすれば、夫婦双方が子供と同居して世話をしている場合の婚姻費用の金額を計算することができます。
婚姻費用の金額の計算は、以下の3段階で行います。
- 夫と妻の基礎収入を計算する
- 夫と妻それぞれの世帯(夫と同居している子供の世帯、妻と同居している子供の世帯)の生活費指数を利用して夫が妻に対して支払う婚姻費用の年額を計算する
- ②の年額を月額に換算する
なお、用語のご説明や一般的な計算方法のご説明に関しましては、別の記事で詳しく行っていますので、そちらをご確認いただければと思います。
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3 具体例を挙げて計算してみた場合をご紹介
以下では、具体例を挙げて婚姻費用の月額を計算してご紹介いたします。
具体例としては、以下の条件とさせていただきます。
- 夫と妻が会社員(パートを含みます。)
- 夫の総収入(源泉徴収票上の金額)が600万円
- 妻の総収入(源泉徴収票上の金額)が100万円
- 夫婦の間には子供が2人おり、それぞれ16歳と12歳
- 16歳の子供が夫と同居しており、12歳の子供が妻と同居している
① 夫と妻の基礎収入の計算
基礎収入(総収入のうち生活費にあてられる部分です。)の計算のためには、基礎収入割合というものを利用します。
基礎収入割合は、総収入(源泉徴収票上の金額)に対応して38%から54%の範囲で決められており、600万円の場合は41%、100万円の場合は50%です。
給与所得者 | 自営業者 | ||
---|---|---|---|
〜75万円 | 54% | 〜66万円 | 61% |
〜100万円 | 50% | 〜82万円 | 60% |
〜125万円 | 46% | 〜98万円 | 59% |
〜175万円 | 44% | 〜256万円 | 58% |
〜275万円 | 43% | 〜349万円 | 57% |
〜525万円 | 42% | 〜392万円 | 56% |
〜725万円 | 41% | 〜496万円 | 55% |
〜1325万円 | 40% | 〜563万円 | 54% |
〜1475万円 | 39% | 〜784万円 | 53% |
〜2000万円 | 38% | 〜942万円 | 52% |
〜1046万円 | 51% | ||
〜1179万円 | 50% | ||
〜1482万円 | 49% | ||
〜1567万円 | 48% |
このため、夫の基礎収入は246万円(600万円×41%)、妻の基礎収入は50万円(100万円×50%)です。
② 生活費指数を利用した婚姻費用年額の計算
生活費指数とは、一般的な家庭において日常生活に必要な生活費を計算するために、算定表において用いられている単位です。
現在裁判所で利用されている算定表(令和元年12月23日に公表されたものです。)における生活費指数は、夫と妻が一人あたり100、14歳以下の子供が一人あたり62、15歳以上の子供が一人あたり85となっています。
夫と妻の基礎収入をまず足し、その後に、生活費指数を利用して妻世帯(妻と12歳の子供)の生活費(年額)を計算します。この際には、妻と12歳の子供の生活費指数を分子、夫と16歳の子供も含めた家族全員の生活費指数を分母として計算を行います。
最後に、妻世帯の基礎収入を引きます。こうして、婚姻費用の年額が計算できます。
具体的には、以下のような計算により、婚姻費用の年額は約88万円になります。
- 246万円(夫の基礎収入)+50万円(妻の基礎収入)=296万円
- 296万円×162(妻の生活費指数+12歳の子供の生活費指数)/347(夫の生活費指数+16歳の子供の生活費指数+妻の生活費指数+12歳の子供の生活費指数)≒138万円(妻世帯の生活費年額、千の位以下は切り捨て)
- 138万円(妻世帯の生活費年額)―50万円(妻の基礎収入)=88万円(婚姻費用年額)
③ 婚姻費用の年額を月額に換算
②で計算した金額を12ヶ月で割れば、月額の婚姻費用が出てきます。
具体的には、婚姻費用の月額は約7万3000円(88万円÷12ヶ月)になります。
なお、こうした計算は、夫婦双方の収入の差や子供の年齢などによって結論が変動します。
また、住宅ローンや子供が私立学校に通っている場合には、別途考慮する必要があります。
場合によっては、夫から妻に対する婚姻費用の支払いが不要になるか、または、妻から夫に対して婚姻費用を支払う必要がある事案もあり得ます。
裁判所の調停手続きにおいては、基本的に婚姻費用の算定表を利用して婚姻費用が決まっています。
しかし、夫婦双方が子供を監護(同居)している事案においては、婚姻費用の算定表を利用することはできません。
今回の記事では、夫婦双方が子供を監護(同居)している事案における婚姻費用の計算方法をご説明しました。
夫婦双方の収入の金額や子供の年齢などによって婚姻費用の月額がいくらになるかは変動しますが、基本的な考え方は今回の記事に記載させていただいた通りです。
今回の記事が、少しでも疑問点やご不安を解消できる助けとなれば幸いです。