【実務に変化】学費負担は収入按分か?それとも半額負担か?婚姻費用の最前線を解説!

1 はじめに

婚姻費用の金額を決める際、養育費・婚姻費用算定表にしたがって算定を行うというのが基本です。一方で、子供が私立学校に通っている場合の学費(公立学校の平均を超える部分)を、別居している夫婦はどのように分担をし合うべきかについて、裁判所の実務が驚くほど大きく変化し始めましたので、ご紹介します。
通常の婚姻費用に加えて私立学費の請求をされている方には有用なお話です。ぜひ最後までお読みください。

2 学費負担に関する裁判所の判断とその変化

(1)従前の裁判所の見解

裁判所の判断としては、これまで、私立学費については基本的には収入の金額に応じて負担すべきであるとの見解が一般的でした。

例えば、

・平成21年11月17日大阪高裁決定

 当事者の基礎収入に応じて按分するのが相当である

・平成27年6月26日東京家裁審判

 算定表で考慮されている学校教育費等を超える部分については、それぞれの収入で按分すべきである。

といったものです。

(2)変化の兆し

しかし、こうした運用に対しては、既に実務を担う裁判官からも疑問の声が上がっており、平成22年11月発行の家裁月報62巻11号においては、当時の大阪高裁部統括判事である松本哲泓裁判官が、

「(収入額に応じる按分方法によると)権利者に収入がないか非常に少ない場合には、そのすべてを義務者が負担することになるが、その支出が現実には基礎収入部分からなされるのが通常であることからすると義務者の生活費部分を権利者のそれより少なくすることになる。」

と指摘していました。

そして、そうした考えに従って、高裁レベルで判断が下されたのです。

・平成26年8月27日の大阪高等裁判所決定

 標準的算定方式による婚姻費用分担額が支払われる場合には双方が生活費の原資となし得る金額が同額になることに照らして、上記超過額を抗告人と相手方が2分の1ずつ負担するのが相当である。

その後も、平成30年4月10日初版の『婚姻費用・養育費の算定 -裁判官の視点にみる算定の実務-』(新日本法規)では、按分負担が主流となっている現状に対して改めて懸念が表明されました。著者は、前述の元大阪高裁部統括判事で現在は弁護士の松本哲泓氏です。弁護士や裁判官が手軽に参照できる書籍において、改めて明示されたものとして、象徴的でした。

(3)動かない裁判所

とはいえ、裁判所の判断としては、従前の収入按分により負担し合うという考えに基づくものが続きました。調停の話し合いの場においても、学費については基本的には収入按分により負担し合うという運用がその後も続きます。

・令和2年6月23日水戸家裁土浦支部

 長男の学費等のうち75万円(=112万円-37万円)と長女の学費等のうち40万円(=77万円-37万円)を申立人と相手方の基礎収入に応じて按分して負担すべきである

そして、高裁レベルでは最も権威の高い東京高裁もまた、従前の運用を継続させました

・令和2年10月2日東京高裁決定

 抗告人は,学費等の算定に関して,当事者間で二等分すべきと主張する。しかしながら,本件における抗告人の年収が約970万円,基礎収入が約388万円であり,相手方の年収が約130万円,基礎収入が約57万2000円にとどまることを前提とすると,超過分の学費に関しては,特別経費と同様に基礎収入割合とすることが不相当であるとは言えず,この点に関する抗告人の主張は採用できない。

(4)変化への再動

ところが、一部の裁判官がもつ問題意識は、理屈に支えられていることもり、半額負担にすべきとの判断が、とりわけ地方の裁判所で続くことになります。

・令和3年2月10日 大阪家裁岸和田支部

婚姻費用の分担により,申立人と相手方の生活費部分は等しくなることによれば,前記ウの費用(注:学費のこと)は,申立人と相手方において2分の1ずつ分担するのが相当である

そして、前述の元裁判官の松本氏による新たな書籍も、令和3年9月16日に発行されました。『即解330問 婚姻費用・算定表の算定実務』です。ここでは、学費についての負担割合は、算定表で考慮されているものを控除された残額につき、半分にすべきと、分担割合が明言されています。先述の書籍よりも一歩前進したものと言えます。

分担する教育費は、既に分担を決めた生活費の中から出すことになる。婚姻費用の分担においては、権利者も義務者も、生活費指数は同じ100として計算しているからそれぞれの生活費は同額であるので、分担の割合は、原則として、各2分の1ということになる養育費の場合は、権利者と義務者の生活費は異なるので、基礎収入による比となる。

(同書p.55)

そして、極めて直近の裁判例はこの考えに従うことになります。

・令和4年9月22日 青森家裁十和田支部

 相手方から申立人に対して算定表に基づく婚姻費用が支払われることにより、申立人と相手方それぞれに割り振られた基礎収入額は、いずれも同じ生活費指数に応じたものになるのであるから、子らの学費については申立人と相手方とで折半するのが相当であ(る)

その上で、ついに、高裁レベルで再度、半額負担が妥当であるとされました。

・令和5年2月15日 仙台高等裁判所(上記上級審)

 養育費の算定に当たり、加算すべき学費を基礎収入の割合に応じて按分するのとは異なり、婚姻費用の算定に当たっては、権利者と義務者の基礎収入を合算して生活費指数で按分するという計算過程をたどり、両者とも生活費指数は同じ100であって同額の生活費が配分されるのであるから、総収入や基礎収入の割合に応じて追加分の学費を按分すると、総収入や基礎収入の高い側が多く学費を負担し、その反面として生活費の配分が減少することとなって、かえって公平を欠く結果となる以上と同趣旨に基づき、追加分の学費を両当事者の等分負担とした原審判は相当である。

3 現在の実務状況と今後

仙台高裁の判断が上記の通り下りましたが、あまりにも最新の裁判例です。調停レベルでの実務運用は、相変わらず按分負担が続くものと予想されます。
しかしながら、学費について、按分負担ではなく半額負担であることが高裁レベルで再度明言されたことにより、この議論は今後さらに白熱することが予想されます。
夫が妻や子供のための婚姻費用を支払った後は、生活のための可処分所得が実質同じになります。それにも関わらず、学費を収入比率で負担すると、義務者である夫が自らの生活のための所得からより多くを割くことになり、夫の生活レベルが妻よりも劣ることになるのです。これは、公平の観点からは大きな問題です。
現在の判例の趨勢は、そうした問題意識が中枢の裁判官にも徐々に浸透してきていることを示していると言えるでしょう。
最高裁または東京高裁による最新の判断が待たれるところと言えます。

※その後令和5年7月19日に東京高等裁判所第14民事部が、「双方の収入格差は、標準算定方式に基づき義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定する際に既に考慮されている。」と述べ、私立学費を按分ではなく半額負担とするのが相当である旨の判断を下しました(ウエストロー・ジャパン搭載判例)。(令和5年11月17日追記)

※令和5年12月22日千葉家裁市川出張所決定もこれに続いていますが、同判決は、当事者の収入差が10倍(夫2000万円弱、妻200万円弱)ながら、学習費を半額負担すべきとしている点が注目されます。(令和6年3月8日追記)

弁護士の本音

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弁護士のホンネ

婚姻費用の判例の趨勢が変われば、離婚調停や交渉に大きな変化が生じる可能性があります。

というのは、上記仙台高裁の考えに立つと、学費については、婚姻費用では半額負担養育費では按分負担になります。従って、夫が妻に支払わなければならない金額の総額は、離婚の前後であまり変わらなくなる可能性があるのです。例えば、離婚前の婚姻費用が10万円と学費3万円負担の場合と、離婚後の養育費が7万円と学費6万円負担では、総額に変化はありませんよね。つまり、離婚が長引くほど、婚姻費用(離婚後の養育費より高いのが通常)を支払っている夫に不利になるという、現在の離婚事件の構造そのものが崩壊する可能性があるのです(この構造に関する解説は、ぜひこちらの書評記事をご参照ください。https://riko-net.com/divorce-column/book-review-of-losing-marriage)。

もし、この構造が崩壊すれば、婚姻費用の支払いを続ける夫としては、離婚の話し合いについて急ぐ必要はなく、腰を落ち着けて、妻と対等な交渉を行うことが可能になります。

今回の学費問題が重要なのは、こうした離婚に伴うお金の動き全体に関わってくるからなのです。今後も注意して情勢を追って行きたいと思います。

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