養育費を払わないという約束は有効?それでも請求できる場合とは?

弁護士

 プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

早く離婚をしたくて、養育費の支払いを求めないという合意をしてしまった。

離婚の時に妻との間で養育費を支払わなくていいという合意をしたい。

このような養育費に関する相談を受けることがあります。

今回の記事では、養育費の支払いをしないという合意について、これが有効かどうか、有効な場合でも、どうにか請求できる方法はあるのかについて、解説します。

1 離婚時の夫婦間の合意としては有効。ただし子供は依然請求できる!

離婚した後、通常、子供を監護する親は、もう片方の親に対して、子の監護にかかる費用の一部、つまり養育費を請求する権利があります。

もっとも、この養育費を請求しない合意は、父母の間では有効です。例えば、母が子供に発生する費用を全て負担し、父には請求をしない合意があれば、原則として母は父に対して養育費を請求することはできません。

ただし、それはあくまでも父母の間の権利義務関係についてです。母の養育費の請求権とは別に、子供は自分を扶養するよう求める権利、具体的には扶養料の支払いを請求する権利があります。そしてこの権利は、子供を監護する母が勝手に処分・放棄することはできません。これは、民法上にも規定があります。

(扶養請求権の処分の禁止)

民法第八百八十一条 扶養を受ける権利は、処分することができない。

札幌高裁昭和43年12月19日決定も、これを論じています。

(札幌高裁昭和43年12月19日決定(家月21巻4号139頁))

A(母)が・・・B(長男)とC(二女)を引き取るに当つてX(父)に対し養育費を請求しない旨の念書を差し入れた事実は本件記録により認めることができる。しかしながら仮にA(母)が右念書を差し入れることによつて、BとCの親権者として右両名を代理し、抗告人に対して生ずる将来の扶養請求権を放棄したものであれば、およそ扶義料請求権はあらかじめ処分することのできないものである(民法八八一条)から、その効力がないことは明らかである。また仮にAがBとCの扶養義務者として、他の扶養義務者たる抗告人との間でAが負担する養育費を抗告人に求償しないことを定めたにすぎないものであれば、右協議は両扶養義務者間でいわば債権的な効力を持つにすぎないから、被扶養権利者たるB(長男)とC(二女)とがその具体的必要に基づいて抗告人に対し扶養料の請求をすることは何ら妨げられないはずである。

以上のとおり、札幌高裁も、父母間で養育費を請求しない取り決めについてはその有効性を認めつつも、子供が自身の扶養請求権に基づいて扶養料の請求をすることは依然として認められることを明言しています。

2 子供を代理して扶養料を請求する方法

1で述べたとおり、仮に父母間で、離婚時に養育費の請求をしない(母は父に請求しない)旨の取り決めをしても、子供自身は父に対して、扶養料を請求する道は残されています。

そのため、離婚後、母が子供の法定代理人として、扶養料の請求を父に対して行う道は残されていると言えるでしょう。もっとも、養育費を請求しないという合意自体は有効なので、扶養料の請求が実質的に母の養育費の請求とほぼ同視できる場合は、請求が信義に反するなどとして請求が認められない可能性もあるでしょう。

3 事情が変わったとして請求をする方法

一方、養育費の合意をして離婚した後、子供の年齢が上がるにつれて、学習費用が増えたなど、合意をした時点に前提となっていた状況に変化があれば、養育費の請求が可能になる場合があります

それは、民法上も認められています。

(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)

第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる

過去の審判例も見てみましょう。

・大阪高裁昭和56年2月16日決定

(大阪高裁昭和56年2月16日(家月33巻8号44頁))

右規定(※上記の民法880条のこと)の趣旨からすれば、抗告人と相手方が離婚する際相手方の方で子供三人全部を引取りその費用で養育する旨約したとしても、その後事情に変更を生じたときは、相手方は抗告人に右約定の変更を求め、協議が調わないときは右約定の変更を家庭裁判所に請求することができるものというべきである。・・・

相手方(※母)は・・・実家に同居しているが、相手方(※母)の両親とも次第に老齢となり、体力が衰え、相手方の父は公民館長を・・・退職することになっており、それ以後は年間約三九万円程度の農業収入が同人の主な収入であること、右離婚後予期に反して相手方の叔父から祖父の遺産につき分割の要求があり、相手方の父は・・・事件本人ら(※子供たち)の養育費にあてるべく予定していた有価証券の大部分を、遺産分割として・・・譲渡したこと、事件本人ら(※子供たち)はいずれも大学進学を希望しており更に教育費の増加が予想されるのに、・・・長女が満一八歳となったため、同人に関する児童手当の支給を打ち切られることになったことが認められる。

右事実によれば、おそくとも・・・現在においては事情に変更を生じ、相手方において抗告人に対し前記約定の変更を求めうるに至ったものというべきである。

このように、大阪高裁は、①子供たちを引き取った母は実家暮らしになったところ、その両親が老齢となったこと、②養育費に充てるつもりだった有価証券を他の者に譲渡することになったこと、③子供達が大学進学を希望していること、④児童手当の支給が打ち切られたことなどの事情を挙げています。

これらの事情により、離婚した時点とは経済的な前提状況が変化していることがわかります。そのため、母が養育費用を全て負担する旨の約束をしていた場合であっても、大阪高裁は養育費の請求を認めるに至りました。

・東京高裁平成10年4月6日決定

もう一つ、東京高裁平成10年4月6日決定も見ておきましょう。これは、養育費を離婚時に一括で支払ったという事案(離婚後は養育費は支払わないという合意がある事案)でした。東京高裁は、まずは一般論として、こうした場合でも、状況が変化すれば追加の請求ができることを判断しています。

(東京高裁平成10年4月6日決定(家月50巻10号130頁))

本件当事者間においては、既に調停によって抗告人(※父)が負担すべき養育費の額が合意されて抗告人(※父)はその金額を支払済みであり、調停によって定められたもの以外には何らの金銭請求もしない旨の合意が成立している。しかし、民法880条は、協議又は審判で扶養の程度や方法を定めた後に事情の変更が生じた場合には、先にされた協議又は審判を変更することができる旨規定しているのであるから、前記調停の成立後に、調停時には予見できなかった事情の変更が生じたことにより、調停で定めた養育費の額が事件本人の生活の実情に適さなくなり、新たに養育費を定めるべき相当な事情が生じた場合には、相手方から抗告人に対する養育費の請求が許されることとなる。

もっとも、結論として、東京高裁は、一括で父が支払った金額を、母が計画的に使わなかったとしました。そして、前提となっていた事情に変更があるとは言えないと述べ、母の追加の請求を認めませんでした。

(続き)

相手方(※母)は事件本人(※子供)が中学校を卒業するまでに抗告人(※父)から養育費として支払を受けた1000万円を使い切ったと主張するが、その大半は私立学校の授業料と学習塾の費用であるところ、離婚調停における前記合意よりすれば、相手方(※母)は受領した養育費を計画的に使用して、養育に当たるべき義務があるものと解すべきであり、相手方において、事件本人を公立の小中学校に通学させ、学習塾の費用を節約すれば、抗告人から支払を受けた1000万円の大半は使用せずにすみ、事件本人に高等教育を受けさせる費用として使用することが可能であったと考えられるのに、小学校から私立学校に通わせると共に学習塾にも行かせたものである。相手方は抗告人が小学校から一貫して私立学校での教育を受けていることから、事件本人にも私立学校での教育を受けさせるのが相当であると主張するが、前記認定のとおり、当事者間において相手方がその責任において事件本人の養育に当たる旨の合意が成立しているのであり、抗告人は事件本人の養育の方法について具体的な希望を述べた形跡はないのであるから、事件本人(※子供)の養育方法については、相手方(※母)の資力の範囲内で行うべきで、これと無関係に私立学校に通学させるべきものとは認められない。また、私立学校の授業料や学習塾の費用がある時期から急激に高騰したといった事情は認められないから、相手方(※母)としては、事件本人(※子供)を私立学校と学習塾に通わせた場合には、高等教育を受ける以前に抗告人(※父)から支払われた養育費を使い尽くすことは当初から容易に予測可能であったと認められるのであり、これを補うためには、相手方自ら稼働して養育費を捻出するか父親からの援助を得ることが必要であったと考えられるが、相手方は離婚後就労状況が安定していないし、家業は父親の存命中から不振続きであったから、これらによって養育費を補填することは当初からあまり期待できない状況にあったと認められる。

以上の事実によれば、前記の調停成立後にその内容を変更すべき事情の変更が生じたとは認めることはできず、事件本人が、既に就労可能な年齢に達していることを併せて考慮すれば、相手方の本件養育費請求は理由がない。

あらかじめ一括で養育費を受給されているケースでは、全く養育費の支払いを受けなかったわけではありません。そのため、前提事実の変更が認められるハードルはその分高くなるものと言えるでしょう。

今回の弁護士からのアドバイス

☑️養育費の支払いをしないという合意自体は有効です!

☑️ただし、子供が扶養料を請求する権利を奪うことはできません!

☑️合意時の前提状況が変化していれば、養育費を請求ができる可能性があります!

弁護士の本音

弁護士 青木
弁護士のホンネ

養育費を請求しないという父母間の合意は有効です。一方で、子供が扶養料を請求する権利は奪われません。そして、離婚後、母は法定代理人という立場で、子供の扶養料を請求できる余地があります。

そのため、裁判所での実際の調停実務では、養育費を請求しないという合意を行うことに、裁判所から難色を示されることが多いですね。とは言っても、父母間の合意自体は有効ですので、父が一時的に無職になっているケースなどではそうした合意がなされたりします。

この記事が、皆様の問題解決のための一助となれば幸いです。

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