配偶者との離婚に向けて別居を考えている方の中には、こんな風に悩んでいる方がいらっしゃると思います。
そこで、今回は、別居後の生活費の請求方法や調停の申立方法などについて、お話していきます。
1.婚姻費用の始期について
夫婦が別居した場合、収入の多い方が少ない方に対して、婚姻費用(生活費)を支払う義務が生じます(民法752条、760条)。
もっとも、この婚姻費用発生の始期は、必ずしも別居時ではありません。
裁判実務上、婚姻費用発生の始期として認められるのは、以下の場合です。
- 婚姻費用調停の申立月(東京高決昭和60年12月26日判タ603号80頁、東京家審平成27年6月26日判時2274号100頁など)。
- 内容証明郵便をもって配偶者に婚姻費用を請求した日(東京家審平成27年 8月13日判時2315号96頁)。
仮に、別居後に配偶者に対して何らの生活費の支払いを要求していない場合には、結局、調停申し立てや内容証明郵便を持って請求をした日以降の婚姻費用しか認められないことになってしまいます。
そのため、別居後は速やかに婚姻費用調停を申し立てるか内容証明郵便をもって婚姻費用の請求をすべきといえます。
また、内容証明郵便で請求しても相手が任意に支払ってくれない場合には、結局婚姻費用調停を申し立てる必要がありますので、相手が任意に支払ってくれることを期待できない場合には、初めから婚姻費用調停を申し立てた方が無難といえます。
なお、婚姻費用調停では、婚姻費用算定表に基づいて婚姻費用の適正額が定められることが多いです。
婚姻費用算定表については、裁判所のホームページから確認することができます。
相手方に請求する婚姻費用の額については、この算定表を参考にしてみてください。
(算定表の見方は、「基本の基本!算定表を使った養育費の計算を弁護士が解説!」もご参考にどうぞ。)
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2.調停ってハードルが高い?申立の方法
⑴ 調停申し立てに必要なことは?
別居後すぐに婚姻費用調停を申し立てるべきだということをお話ししてきました。
ただ、調停手続については、そもそもどうやって申し立てればいいのかわからず不安に思う方も多いと思います。
そこで、婚姻費用調停の申し立て方法についてお話ししていきます。
まず、婚姻費用調停申立書に必要事項を記載します。
この申立書は相手も見ることになりますが、住所記載欄があり、別居後の住所地を相手に開示したくないという方もいると思います。
その場合には、従前相手と同居していた住所地を記載することで問題ありません。裁判所は、相手に住所を開示したくないのだということをわかってくれます。
⑵ 調停の申し立て費用ってどれくらいかかるの?
婚姻費用調停の申し立てにあたっては、申し立て費用として収入印紙代1200円と連絡用の郵便切手代がかかります(郵便切手代については裁判所に確認してください)ので、収入印紙1200円分を申立書に貼る必要があります。
⑶ どこの裁判所に申し立てればいいの?
調停を申し立てる裁判所は、相手の居住を管轄する裁判所が原則となります。
例えば、自分がさいたま市に住んでいて相手が川崎市に住んでいる場合には、相手の住所の管轄である横浜家庭裁判所川崎支部に申し立てることになります。
管轄裁判所については、裁判所のホームページから確認できますのでこちらのホームページから自分が申し立てるべき裁判所を確認してみてください。
以上のとおり、申立書に必要事項を記載して1200円分の収入印紙を貼り、相手方の居住地を管轄する裁判所に申立書を提出することで申し立てをすることができます。
また、婚姻費用調停においては、夫婦の戸籍謄本や収入資料(前年の源泉徴収票や直近の給与明細など)を提出することになります。円滑に調停を進めるためにも申し立て時に一緒に提出しましょう。
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3 調停で相手に会いたくない!調停はどれくらいの期間かかる?
調停は、申立から1〜2ヶ月後に期日が設定されて手続きが進行し、その後は月に一回程度の頻度で期日が指定され、話し合いが進んでいきます。
また調停では、調停委員という男性と女性の二人組の方に、当事者双方が交互に話をすることで進行していきます。
そのため、調停の話し合いの場においては、相手と顔を合わせる必要はなく、裁判所にも事前に相手と接触したくないことを伝えておくことで、待合室を別の階にするなど相手と接触しない配慮をしてくれることも多いです。
婚姻費用調停は、大体3ヶ月から6ヶ月程度で終了するケースが多いです(同時に離婚調停や面会交流調停など別の調停を申し立てている場合は別です)。
もっとも、調停はあくまでも話し合いの場ですから、相手が話し合いに応じなかったり、そもそも調停に出て来なかったりすることも考えられます。
その場合には調停は不成立になりますが、手続きはそこで終了ではなく、審判手続に移行することになります。
審判手続では、相手が出て来なくとも関係ありません。双方の収入資料等の客観的資料を基礎に裁判官が婚姻費用適正額を決定することになります。
そして、審判決定された金額について相手が履行しない場合には、強制執行を行い、婚姻費用を確保することが可能になります。
同居中から旦那さんの口座の管理をしていたから、別居にあたっても旦那さんの口座を持ち出してそこから生活費を賄いたいという方もいらっしゃいます。
しかし、財産分与の基準日は婚姻日から別居日までになりますので、別居後は、夫婦であってもその財産は夫婦それぞれ別と考えるのが通常です。
旦那さんから旦那さん名義の口座の通帳・カード・印鑑の返還を求められた際には、返さなくてはなりません。
また、仮に別居後に旦那さんの口座から生活費等により財産を費消していた場合には、旦那さんからその分の費用を返すように主張され、その主張が認められうることになりますので注意が必要です。
そのため、別居後は、旦那さん名義の口座の管理は可能な限り控え、直ちに婚姻費用請求をした方が良いでしょう。