相手の収入が分からない!それでも婚姻費用・養育費を計算するためのポイント

今回の弁護士からのアドバイス

配偶者の収入が分からなくても・・・

☑️同居中であれば配偶者の課税証明書を取得してみよう!

☑️調停中であれば調査嘱託制度を使って給与を調べられる!

☑️何も資料がない場合は賃金センサスを利用しよう!

プロキオン法律事務所の弁護士の青木です。離婚に特化した弁護士として、年間200回以上の調停や裁判に出席しています

さて、今回は、配偶者の収入がよく分からない場合に、どのように婚姻費用や養育費を計算すれば良いのか悩まれている方に対処法をアドバイスできればと思います。

婚姻費用や養育費は、夫婦または元夫婦の収入状況に応じて計算をします。具体的には裁判所が作成した表(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)を利用して決めます。しかし、そもそも相手の収入額がよく分からない、共有されていないというケースも多いです。そうした場合にどのような対処ができるでしょうか。

以下、ご紹介します。

1 課税証明書を取得してみる

夫婦として同居している場合は、市役所や区役所の窓口で、配偶者の課税証明書を取得することが可能です手数料は300円程度しかかかりません。課税証明書を取得すると、相手の給与収入や事業所得の金額が記載されているのが分かります。

また、分離課税となっている株式の配当所得なども記載されています。通常の確定申告書では、株式の配当所得は記載されていないのが通常ですので、課税証明書はとても貴重な情報源となります。

ただし、住民票上の住所が異なっていたり、生計を同じにしていない場合は、配偶者であっても課税証明書を取得できませんので、注意しましょう。

2 調停・審判手続であれば調査嘱託を申し立てることも可能

婚姻費用調停や養育費調停では、裁判所が相手に対して、源泉徴収票給与明細を提出するよう指示をしてくれます。多くの場合は相手もこれにしたがって提出をします。

もし、何らかの理由で相手が収入資料を提出をしてくれない場合は、裁判所に、調査嘱託の申立てを行いましょう。調査嘱託は、裁判所が、就業先などの第三者に、必要な情報を開示するよう求める制度です。収入を調査する場合は、源泉徴収票や給与明細の開示を職場に求めることになります。この申し出をすれば、大抵の場合、裁判所が採用してくれ、調査嘱託が実施されます。

もっとも、調査嘱託の実施により、職場などに迷惑がかかってしまうことを恐れ、結局は任意で開示してくれる場合が多いです。

3 客観的資料がなくても推定することができる

課税証明書や調査嘱託でも、相手の収入が分からないケースはあると思います。例えば、自営業者で、確定申告自体をしていない場合、確定申告をしていても、経費への算入が粗く、適切な申告ができていない場合などです。

そのような場合は、以下の方法で相手の収入を推計することが考えられ、裁判所も採用してくれるケースがあります。

①生活の実態から推定する

例えば、毎月夫から50万円近くを現金で手渡されていたのに、確定申告では所得が100万円や200万円程度になっている、というケースがまま見られます。そういう場合は、生活の実態から収入を推定できる場合があります

例えば、上の例では、経理上では、現金での引き出しの使途を、何らかの経費に当てていると考えられます。実際はそうした経費は発生していないわけですので、裁判所としてはその金額は所得として発生していたものとみなしてくれる可能性があります。

問題は、現金でのやり取りの場合、実際に毎月50万円などの金額を受け取っていたことを証明できるかという点です。もらってすぐに生活費口座に入金していた場合はそれほど証明は難しくないでしょう。また、相手の口座履歴から、毎月まとまった金額が出金されていることを指摘できれば、証明に近づけるはずです。お金の動きを示す資料がないか、丹念に調べましょう。

②以前の収入から推定する

以前の収入はわかるけど、今の収入は分からない、というケースもあると思います。
例えば、相手が転職をしてしまい、今どこに勤めているのか不明なケースなどです。
課税証明書を取得して金額を調べる方法もありますが、それができない場合は、以前の収入額を、現在の収入として認定するよう主張することも可能です。

また、会社を経営していた配偶者が、婚姻費用を下げるために、自分への給与を下げる場合もあります。そのような場合は、会社の業績として、実際に役員給与を下げる必要があったのか、会社の収支の書類を提出させて調べていきましょう。役員報酬の減額が必要な状況が生じているとは思えない場合、裁判所は従前の収入を、現在の収入として認定してくれます。

③賃金センサスを利用する

配偶者の収入について、全く資料がなく、調査嘱託も役に立たないケースでは、賃金センサスが使われるのが通常です。
賃金センサスとは、厚生労働省が毎年発表している、「賃金構造基本統計調査」のことです。年齢や業種、就業形態別などで、それぞれの平均的な給与収入を公表しています。

相手の収入が全く分からない場合は、相手の年齢や職業に応じて、この賃金センサスを利用することになります。配偶者が自営業者の場合でも、客観的な収入資料がない場合は、この賃金センサスを利用できますし、裁判所も採用してくれます。

諦めずに、相手の収入を推計して、婚姻費用や養育費額を計算していきましょう。

今回の弁護士からのアドバイス

配偶者の収入が分からなくても・・・

☑️同居中であれば配偶者の課税証明書を取得してみよう!

☑️調停中であれば調査嘱託制度を使って給与を調べられる!

☑️何も資料がない場合は賃金センサスを利用しよう!

弁護士の本音

弁護士 青木
弁護士のホンネ

 婚姻費用や養育費は、双方の収入を裁判所が作成した表に当てはめれば、具体的な金額を計算できる仕組みになっています。しかし、問題は、双方の収入額を簡単には認定できないところにあります。
そのため、収入をどう認定するかのところで大きく揉めてしまい、交渉が出だしから難航する場合が多くあります。
上記に対応のポイントを述べましたので、まずはそれを試みると良いでしょう。専門家と相談しながら二人三脚で乗り越えていくこともお勧めします。今回の記事が皆様の離婚問題に役立ちましたら幸いです。

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