本気で好きになった人と結ばれる(結婚する)ことは幸せの極致の一つでしょう。
たとえ相手が既婚者であったとしても、結婚により人を好きになる能力がなくなるわけではありませんので、お互いに本気で恋に落ちてしまうことは致し方がないことと言えるかもしれません。
ただ、あなたが本気で好きになった人が既婚者である場合、この恋は一筋縄ではいきません。
その人と結婚するためには、その前に相手に離婚してもらわなければなりません。
妻以外の人を好きになってしまったあなた。離婚をすると決意したら行動は早めに!
このような真剣な交際をしている不倫カップルの間では、「配偶者と離婚するかどうか」「離婚するとして、いつ離婚するか」というテーマの話し合いが行われていることも多いです。
しかし、このような不倫相手と交わした「配偶者と離婚して将来結婚する約束」には、色々な落とし穴があります。
今回は、
・不倫相手と交わした「配偶者と離婚して将来結婚する約束」(婚約)の有効性
・約束が守られなかった場合にできること
・不倫相手と「配偶者と離婚して将来結婚する約束」を交わすリスク
について、解説します。
不倫相手と交わした「配偶者と離婚して将来結婚する約束」(婚約)の有効性
⑴原則として無効
将来結婚する約束は「婚約」と呼ばれ、不当に破棄すると損害賠償責任が発生するなど、法律上保護されます。
しかし、そもそも「婚約」が法律上有効であったとしても、「婚約」に基づいて強制的に結婚すること(「婚約」の履行を強制すること)はできません。
「婚約」はどこから?法的なリスクは?婚約する時に知っておきたいこと
また、そもそも不倫自体違法ですので、不倫相手と交わした「配偶者と離婚して将来結婚する約束」は、法律上保護ずるに値せず、原則として無効と考えられています。
そのため、たとえ不倫相手が約束を守らずに配偶者と離婚しなかったとしても、不倫相手に対して約束の不履行を理由に損害賠償を請求することはできません。
このように、不倫相手と将来結婚する約束をしても、不倫相手に対して離婚や結婚を強制することはできませんし、約束違反(約束の不履行)を理由に損害賠償を請求することも原則としてできません。
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⑵例外的に有効な「婚約」となる余地がある!
不倫相手の婚姻関係が完全に破綻しており、法律上保護するべき婚姻関係(婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益)が存在しないと考えられる場合には、不倫相手と交わした「配偶者と離婚して将来結婚する約束」も正当な「婚約」とされる可能性があります。
その場合には、不倫相手に対して離婚や結婚を強制することはできないことには変わりはありませんが、約束違反(「婚約」の不履行)を理由に損害賠償請求ができる余地があります。

ただし、不倫相手の婚姻関係が破綻しているかどうかは客観的な事実ですから、あなたがどう認識していたかで結論は変わりません。
そのため、たとえ不倫相手から、「妻とはもう破綻している」とか、「長いこと別居している」とか、「離婚調停をやっていてもう離婚秒読みの状況である」とか説明されていたとしても、それが事実でなければ、婚姻関係が破綻していることにはなりません。
約束が守られなかった場合にできること
上述したように、不倫相手と交わした将来結婚する約束は原則として無効であり、約束違反(約束の不履行)を理由に損害賠償を請求することもできません。
しかし、不倫相手に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求する余地があります。
⑴貞操権侵害を理由にした損害賠償請求を認めた最高裁判例の紹介
不倫相手が独身だと偽っていた場合には、不倫相手に対して貞操権侵害を理由に損害賠償を請求できます。
他方、不倫相手が既婚者であることを最初から知っていた場合には、不倫相手に対して貞操権侵害を理由に損害賠償請求はできないのが原則です。
しかし、例えば、不倫相手から「配偶者と離婚するから、将来結婚しよう」などと口説かれて、ついつい不倫に応じてしまったような場合には、そのような不倫相手の言動は違法性が極めて高いと言えます。
そのため、その場合には、不倫相手に対して、貞操権侵害を理由に損害賠償を請求ができる場合があります。
最高裁判所も、不倫相手の男性が、女性に対して、妻と離婚して女性と結婚するつもりであるなどと偽って、女性がそれを真に受けて不倫相手の男性と結婚できるものと期待して不倫関係となったなどの事情がある場合には、女性から不倫相手の男性に対する貞操権侵害を理由とする損害賠償請求を認めています(最判昭和44年9月26民集23巻9号1727頁)。
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⑵不法行為に基づく損害賠償請求を認めた裁判例の紹介
裁判例も、不倫相手との間で取り交わした「将来結婚する約束」を一方的に反故にすることが不法行為となる場合を認めています。
ア 東京地判平成19年2月15日
裁判例は、不倫相手との間で具体的な日付も定めた「配偶者と離婚して将来結婚する約束」を内容とする誓約書が存在しており、その誓約書の記載の中に約束違反の場合には399万円を支払う旨の明確な取り決めがあった事案において、一方的に別れを切り出した不倫相手の男性に対する女性からの不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。
イ 東京地判平成22年7月6日
裁判例は、不倫相手の男性からその意思も事実もないのに「配偶者と離婚する」「結婚したい」などと口説かれたために、不倫相手の夫婦が離婚に向かっており、離婚後に不倫相手の男性は女性と婚姻する意向である旨を信じて不倫関係を続けた事案において、女性から不倫相手の男性に対する不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。
不倫相手と「配偶者と離婚して将来結婚する約束」(婚約)を交わすリスク
不倫相手との交際がどれほど真剣なものであったとしても、不倫相手の配偶者との関係では、不法行為であることに変わりはありません。
そのため、不倫相手の配偶者から不倫を理由に慰謝料を請求されてしまうリスクがあります。
<まとめ>
・不倫相手との婚約は原則として無効!
・ただし、不倫相手に対して、貞操権(人格権)の侵害として慰謝料請求できる場合がある!
・不倫相手との交際は、それが真摯なものであっても、不倫相手の配偶者との間では不法行為になり得るため注意を!

不倫相手との禁断の恋に盛り上がっている最中、特に不倫開始初期の頃は、お互いに将来のことには目が向かないかもしれません。ただ、延々と不倫の状況を続けることは極めて困難であり、いずれ次のステップに進まなければならない時が訪れます。
次のステップとして、不倫相手との結婚を選択するカップルもいます。
ただ、当職の経験上、不倫の次のステップとして一番多いのは、別れという選択です。そして、当職の経験上、不倫カップルの別れ際は、配偶者が居る方から別れを切り出されることが多い印象です。
そうなってしまうと、禁断の恋の渦中において相手から囁かれていた甘言は全て過去のものとなってしまい、不倫という猛烈な恋の嵐が過ぎ去った後に残されたあなたは、独りです。
ご来所されるお客様の中には、「でも、私も不倫していたんだし。」、「悪いことをしているということは分かっていましたし。」などとお考えの方もおられます。
しかし、都合のいいことを言って惑わせてきた相手にも責任があるはずです。不倫は確かに不法な行為ですが、法律上正当に請求できる権利がある場合にはそれを請求して責任を公正に分担すべきだと思います。