<2020/1/12更新>
みなさんは婚約についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?
結婚する前に、みんな当然している婚約ですが、どの時点で婚約が成立するのか、そして婚約破棄の場合の法的リスクについて、正しく理解している人は意外に少ないものです。
ここでは、これから婚約を考えている方に向けて
婚約はどこから、どの時点から成立するのか?
婚約破棄の場合の法的なリスクや損害賠償、慰謝料額
などについてご案内します。
婚約や婚約破棄について正しい知識をもって、思わぬトラブルを避けることができるよう、この記事がお役に立てば幸いです。
1 婚約はどこから?将来結婚することの約束した時点=婚約
(1) 恋愛結婚のプロセスと婚約
恋愛結婚のプロセスをザックリと言うと、
男性と女性が、
①知り合う。
②交際関係となる。
③ 将来結婚することを約束する(婚約)。
④ 結婚する。
との経過を辿ります。
③の婚約とは、文字通り「将来結婚することの約束」です。
男性と女性が将来結婚することの約束を取り交わした瞬間に、婚約は成立します。
(2) 婚約は本人間の口約束だけでも成立する
婚約するために必要な準備は一切ありません。
口約束でも婚約は成立しますし、家族や友人などが知らなかったとしても婚約は成立します。
判例上も、「当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納を取かわし或は同棲しなかつたとしても」婚約の成立を認めたものがあります(最高裁判所昭和38年9月5日判決。)。
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(3) ただし、婚約は明確かつ真摯な約束であることが必要
ただしご注意いただきたいのが、将来結婚することの約束は、明確かつ真摯であることが必要となります。
そのため、裁判実務上、婚約の成否を巡り、婚約の成立を否定したい方から「確かに口約束はしたが、真摯な約束ではなかったんだ!」などと主張されて争いになることもしばしばあります。
例えば、ベッドの上でのいわゆるピロートークで「結婚しよう」との話をしたとしても、将来の婚姻に向けた真摯な約束とはなかなか認定されないでしょう。
(4) 外形的な事情があれば婚約を認められやすくなる傾向
婚約が成立したと認められるためには、将来結婚することの約束の取り交わしに加えて、下記のような外形的な事情があれば、「婚約」の成立は認められる傾向にあります。
- 両親に紹介した
- 婚約指輪を贈った
- 結婚後の同居に向けた家探しをした
- 結婚式の開催に向けた対外的な準備をした
そのため、婚約の不当破棄による損害賠償請求をする場合には、上記のような外形的な事情を積極的に主張することになります。
2 婚約してから実際に結婚するまでの間に起きる変化
(1) 婚約によって生じる事実上の変化
婚約すると、これまでの交際関係とは事情が一変します。
結婚すれば今までの独身としてのライフスタイルとは全く異なる状況になりますから、その準備もしなければなりません。
結婚式をするのであれば、結婚式の規模をどの程度とするかとか、資金はどのくらいかけられるかとか、双方の両親の意見の調整をちゃんとできるかとか、乗り越えなければならない問題は山盛りです。
(2) 婚約によって生じる気持ちの変化
婚約して交際相手との結婚を明確に見据えた瞬間、交際相手のことで色々と気になることが生じるものです。
婚約を契機に、交際相手が交際中に言っていた家族のこと・仕事のこと・財産のこと・性的な能力のこと等に関する嘘が発覚することもあります。
それに、結婚後の生活は実のところ実際に結婚した後に実践してみなければ分かりませんから、結婚後の生活に漠然と不安を感じたりもします。
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(3) 婚約がきっかけとなり課題やストレスが明確になることも
このように、婚約してから実際に結婚するまでの間、それまでの交際関係とは事情が全く異なってきます。
交際相手と一緒に、今までとは異なる大きな課題やストレスを乗り越えていかなければなりません。
そして、そのようなことをしているうちに、「本当にこの人と結婚して平気だろうか?」、「私は本当にこの人と結婚したいのだろうか?」などといった疑問が生じることもあるでしょう。
3 婚約は一方的に破棄できる!
(1) 婚約破棄について
婚約した後になって、やっぱり結婚したくないと考えるに至った場合は、婚約を破棄することができます。
婚約の破棄は、相手が何と言おうが一方的にすることができます。
婚約がどれほど真摯な約束であっても、両親や親族一同に紹介し合い結婚を確約していたとしても、合意書などの書面で約束を取り交わしていたとしても、婚約の破棄は一方的にすることが可能です。
(2) 婚約破棄と結婚について
婚約した場合には、結婚したくない相手と無理に結婚しなければいけないのかという疑問を持つ方もいると思います。
しかし、結婚したくない相手との望まぬ結婚を強制されることは決してありません。誰と結婚をするかという自由は、人権の中核とも言えるもので、憲法で保障されています。
4 婚約を破棄した場合の代償
(1) 婚約破棄の正当な理由について
ただし、相手にとって正当な理由なく婚約を破棄した場合には、慰謝料の支払義務は発生してしまいます。
婚約の破棄の正当な理由の具体例としては、
- 相手が別の異性と性的関係に及んだ。
- 相手から暴言・暴力を受けた。
- 相手が性的に不能であることが発覚した(相手が隠していた。)。
などが典型例です。
その他にも、相手が非常識な言動や婚約前からの大嘘が発覚したなどの事情も「婚約」の破棄の正当な理由に該当することがあります。
こうした場合には、慰謝料を払うことなく婚約を破棄できます。
(2) 婚約破棄の慰謝料の相場
一方、こうした正当な理由がない場合には、慰謝料を払って婚約を破棄することになります(もちろん、相手が慰謝料を請求をしてきた場合です。)。慰謝料の金額は、単純な一方的破棄では30万円〜100万円ほどとなる例が多いです。
他方、相手が婚約を契機に退職したとか、相手が妊娠しているとか、婚約を破棄した者の浮気が破棄の理由となっているなどの事情がある場合は、100万円を超え、中には400万円以上となる例も見られます。
もっとも、慰謝料を支払わなければならない場合でも、婚約の破棄自体は認められます。結婚に伴う義務は大変なものです。婚約を破棄するかどうかの判断は、完全に自由です。
(3) 婚約破棄の損害賠償について
ご注意頂きたいのが、婚約破棄に伴って、結婚式のキャンセル料などが生じる場合です。
婚約破棄された側が結婚式のキャンセル代などを支払った場合、キャンセル代実費が婚約破棄による損害賠償として認められるケースがあります。
慰謝料と損害賠償(キャンセル代実費など)と併せて高額の賠償請求が認められるリスクがあるので、ご注意ください。
5 まとめ
婚約は口約束でも成立するが、明確かつ真摯な意思であることが必要。外形的な事情があれば婚約の認定は容易に。
婚約によって事実上も気持ちの上でも色々な変化が生じる。婚約の破棄は一方的にできる。
婚約の破棄に正当な理由がなければ慰謝料、損害賠償の対象になるので、注意。

結婚すると、簡単には離婚できません。
離婚したくてもできなくて悩んでいる人は本当に多いです。
他方、婚約したとしても、結婚する前であれば、一方的に婚約を破棄してリセットすることが可能です。
その際、慰謝料を取られる可能性はありますが、慰謝料を取られない可能性もあります。むしろ逆に婚約を破棄せざるを得ない理由を相手が作っていた場合には、慰謝料をもらえる可能性もあります。
日本の離婚率は年々増加傾向にあり、平成30年度には約35%にも上ります。
将来離婚したり、離婚したくてもできない状況に陥って悩んだりするよりも、婚約後結婚前の時点で思い切ってリセットする方が人生に与えるマイナスの影響は小さくて済みます。
婚約後結婚前の時期は、結婚という人生そのものに極めて大きな影響を及ぼす極めて重大な決断の最終判断のための期間と言えるかもしれません。
マリッジブルーという言葉もあるくらい、ナーバスになる時期でもあります。
婚約後になって初めて見えてきた相手のことや人生のことを考え、今一度このまま結婚に踏み切って良いかどうか、改めて検討してみるのも良いかもしれません。