GPSやボイスレコーダーで取得した不倫の証拠は却下される?

弁護士

 プロキオン法律事務所(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

今回は、夫または妻の不倫の証拠を獲得するために、GPSやボイスレコーダーを使った場合、それらが証拠として認められるのかどうか、解説をしたいと思います。

1 違法に取得した証拠は証拠として認められない場合がある

違法収集証拠排除法則という言葉をご存知でしょうか?

刑事手続ではよく使われる言葉なのですが、刑事訴訟法では、何らかモノや証言を証拠として採用できる場合について、細かい取り決めがあります。これによって、捜査機関によって行動が濫用されないように、制限をかけているんですね。

そうした背景もあり、刑事手続では捜査手続に重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠の採用が認められません

それでは、不倫慰謝料請求のような民事訴訟においては、不貞の証拠を獲得するために配偶者が違法とも思える行動をとった場合はどうなるのでしょうか。

これに関しては、いくつか裁判所の考えが示されています。

(東京地裁平成10年5月29日判決(判タ1004号260頁))

わが民事訴訟法は、刑事訴訟法と異なり、証拠能力については規定しておらず、すべての証拠は証拠能力を付与されるかのごとくであるが、当該証拠の収集の仕方に社会的にみて相当性を欠くなどの反社会性が高い事情がある場合には、民事訴訟法二条の趣旨に徴し、当該証拠の申出は却下すべきものと解するのが相当である。

(東京地裁平成25年10月9日判決(平成24年(ワ)8754号))

民事訴訟法は,いわゆる証拠能力に関して規定を置かず,当事者が挙証の用に供する証拠については,一般的に証拠価値はともかくとしても,その証拠能力についてはこれを肯定すべきものと解されている。しかし,その証拠が,著しく反社会的な手段を用い,人の精神的,肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって収集されたものであるなど,それ自体違法の評価を受ける場合は,その証拠能力も否定されるものと解すべきである。

(東京地裁平成27年3月17日判決(平成25年(ワ)20149号))

民事訴訟法においても、自由心証主義が採用され、一般的に証拠能力を制限する規定も設けられていない以上、違法収集証拠とみられるものについても、原則として証拠能力を認め、問題となる証拠を訴訟において利用することが訴訟法上の信義則(民事訴訟法第2条)に反することとなる場合に限り、当該証拠の証拠能力が否定されるものと解すべきである。

以上は、不倫に基づく慰謝料請求に関する事案で裁判所が判断したものですが、同じく民事訴訟で、他の分野の最近の事件にも幅を広げると、例えば令和5年3月15日(令和3年(ワ)12060号)は、以下のように判断しています。

(東京地裁令和5年3月15日判決(労経速2518号7頁))

民事訴訟法が証拠能力(ある文書や人物等が判決のための証拠となり得るか否か)に関して何ら規定していない以上、原則として証拠能力に制限はなく、当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて採集されたものである場合に限り、その証拠能力を否定すべきである。

以上の各裁判例からすると、民事訴訟での証拠は、それが仮に違法に取得されたものであっても、証拠としては採用されるのが原則であることがわかります。一方で、その取得方法が著しく反社会的な場合は、例外的に証拠能力が否定されるということになります。

それでは、GPSやボイスレコーダー(を使って不貞行為の様子を録音)した場合、それは取得方法として著しく反社会的な場合にあたるのでしょうか?配偶者やその相手のプライバシーを著しく反することになり、取得方法として反社会的とされてしまうのか、ここが問題になります。

2 GPSやボイスレコーダーを忍ばせた程度では「著しく反社会的」とはいえない

結論からいえば、GPSやボイスレコーダーを忍ばせて不倫の証拠を獲得したとしても、そうした行為が「著しく反社会的」であるとされる可能性は低いです(したがって、証拠として認められます(=証拠能力がある、と法律用語では言います))。

上で挙げた東京地裁平成25年10月9日判決は、不貞相手に慰謝料請求をしている者が、写真を隠し撮りしたり、配偶者の利用していた車両にGPS機能のついた携帯電話を設置したというものです。同判決は、以下のとおり判断し、GPSなどの証拠の証拠能力を認めました。

(東京地裁平成25年10月9日判決(平成24年(ワ)8754号))

原告は,友人にDを尾行させ,Dや同人と一緒にいる者らの写真を隠し撮りしたり,所有者の許諾を得ることなく,車両にGPS機能の付いた携帯電話を設置して,Dの居場所を探索したりしたものである。このように,上記の各証拠はDらに無断で収集されたものであるが,当時のDらの精神的,肉体的自由を拘束するものではなく,その方法が著しく反社会的であるとまではいうことが困難であるから,証拠能力を欠くということはできない。

要するに、証拠の取得方法が著しく反社会的であることの一つの基準が、「精神的、肉体的自由を拘束するものかどうか」というものにあるようです。そして、GPSの無断設置程度だと、そうした自由を拘束したとまでは言えないとしています。

この判断を前提とすれば、ボイスレコーダーをしのばせた程度の行為でも、相手の精神的、肉体的自由を拘束したものとは評価できず、証拠能力は認められることになるでしょう。実際、東京地裁平成21年11月17日判決(平成20年(ワ)23826号)は、自動車内へのボイスレコーダーの設置により録取した音声について、「その方法が著しく反社会的な手段を用いて被告やAの人格権等の侵害を伴う方法によって得られたものとまではいえない」として、証拠能力を認めました。

ただし、上記の各裁判例は、自由を拘束する状況下での録音などは、証拠能力が否定される可能性を示しています。刃物を突きつけて白状させたような場合はもちろんですが、例えば、密室で土下座をさせて白状させた状況下で録音した場合も、人格権を侵害した態様として、証拠能力が否定される可能性があるでしょう。

<今回の弁護士からのアドバイス>

GPSやボイスレコーダーで取得した不倫の証拠は、、、

☑️原則として証拠として認められます!

☑️ただし、相手の精神的・肉体的な自由を侵害する形で取得したものは、証拠として認められない可能性があります!

弁護士の本音

弁護士 青木
弁護士のホンネ

 取得方法が著しく反社会的という基準は、少し抽象的ですが、要するに、誰が見てもあまりにも乱暴で、そうした取得行為自体が明らかに違法ではないかと誰もが疑うようなレベルのものを指していると考えられます。したがって、逆にいえば、よほどのことがなければ、証拠能力が否定されることはないと言えるでしょう。
一方で、配偶者の使っていたメールやラインなどを証拠として提出することはよく行われています。これらのデータの無断取得も、近年ますます高まるプライバシーに対する権利意識からすれば、場合によっては反社会的と見做される可能性もゼロではありません。別の記事で紹介できればと思いますが、実際に配偶者のメールデータを無断でコピーした事例で、証拠能力が否定された事例があります。
 社会における権利意識の変化によって、証拠として認められるかどうかが変わってくる可能性があります。私たちも、最新の情報を常にチェックして、適切なアドバイスができるようにしたいと思います。

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