人工授精は不貞行為となるか?弁護士による解説!

弁護士

 プロキオン法律事務所(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

今回は、配偶者のいる男性の精子提供を受けることが(人工授精をすることが)、不貞行為になるのかについて解説します。

1 意外に多くある争い

人工授精(または体外受精)が不貞行為になるのでしょうか?

意外にこのような内容のご相談はあります。例えば、男性と肉体関係までは持っていないが、子供のいる家庭を築きたいという思いで、思いを寄せる既婚男性から精子提供を受けて子を設けるというパターンです。
そのほか、既婚女性が、他の男性から精子提供を受けて、妊娠をするというパターンも実際に存在します。
いずれの場合も、肉体関係はないのに不貞行為になってしまうのか、そして、既婚者の配偶者に対して、慰謝料を払わなければならなくなるのか、問題となります。

2 裁判所の判断

裁判所の判断を見てみましょう。まずは、平成24年11月12日の東京地裁判決です。こちらは、女性が既婚男性から精子提供を受けたパターンです。裁判所は以下のとおり判断しました。

(平成24年11月12日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン))

人工授精は不貞行為とは外形的にも質的にも異なる要素があるとしても,B(※既婚男性)が被告(※女性)との間で自身の子をもうけるだけの関係を築き,実際にも子が生まれる可能性のある行為に及ぶことは,いわば夫婦同様の関係があるといえるのであって,婚姻共同生活の維持を求める権利を有する原告にとって,不貞行為に等しいか,これを超える大きな苦痛が生じたというべきである。

東京地裁はこのように述べ、人工授精は、夫婦同様の関係があるとして、貞行為に等しいものか、これを超える苦痛を生じさせるものだとしました。したがって、例えば一回きりの不貞行為よりも重い行為と受け止めていると言えるでしょう。東京地裁は人工授精を「不貞行為」それ自体とは述べてませんが、「不法行為」にあたり、慰謝料が発生するものと認定しています。

もう一つ、裁判所の例を見てみましょう。平成25年7月19日東京地裁判決です。こちらは、夫と女性の体外受精を担った医療機関に対して損害賠償請求をしたという、極めて稀有な事件ですが、その判決で述べられていることは、裁判所の考え方を理解するのにとても参考になります。

まず、東京地裁は一般論として次の通り述べました。

(東京地裁平成25年7月19日判決(ウエストロー・ジャパン))

婚姻関係にある男女の一方が,配偶者の承諾なく,配偶者ではない第三者との間で子をつくる行為は,配偶者の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法律上保護に値する利益(配偶者としての権利)を侵害する不法行為に当たる。

これは先ほどの東京地裁平成24年11月12日判決と同じ考えですね。配偶者ではない第三者との間で子を作る行為」は、不法行為だと断じています。これは人工授精や体外受精など、方法を問わないでしょう。

加えて、裁判所は、こうした行為は、単なる肉体関係を持つこととは別の意味合いを持っている旨を述べています。

(続き)

婚姻関係にある男女の一方が第三者との間で肉体関係を持った場合,第三者は,他方の配偶者の有する配偶者としての権利を侵害するが,第三者との間で子をつくることは,肉体関係を持つこととは別の意味で配偶者に対して苦痛を与え,婚姻関係を破綻に導く要素を有するのであって,子をつくることが肉体関係を持つことによって評価し尽くされているということはできない。

以上から、既婚者との間で人工授精や体外受精を図ることは、一般的な不貞行為と同様、不法行為に該当することになります。また、ケースによっては、通常の不貞行為よりも重い責任を負う可能性もあります。

なお、これらの判決は、肉体関係も同時に認定されてますので、人工授精を行ったこと単体でどの程度の慰謝料が発生するかは判断されていません。しかし、一回の不貞行為であっても、一般的には100万円弱の慰謝料が発生しうることを考えると、人工授精の場合も、同程度か、それを相当に上回る可能性も高いでしょう。

今回の弁護士からのアドバイス

☑️既婚者との間の人工授精も不法行為に該当し得ます!

☑️一般的な不貞行為よりも大きな苦痛が認められる可能性があります!

☑️一般的な不貞行為の相場が100万円前後であることを考えると、人工授精の場合も同程度か、それを超える可能性が高いでしょう!

弁護士のひとこと

弁護士 青木
弁護士のひとこと

 肉体関係を必ずしも伴わないものであり、「不貞行為」ではないとしても、既婚者との行動が「不法行為」に当たる場合があります。その場合はやはり慰謝料が認められるんですね。何が不法行為に当たるかは法律に書いてあるわけではないので、裁判所の判断の集積に基づくことになります。

不法行為に当たるのは、人工授精だけではありません。例えばキスなどの男女間で通常みられるようなスキンシップの場合も、肉体関係にまで至らなくとも、不法行為になる場合があります。金額は千差万別ですが、「不貞行為」とは言えなくとも、「不法行為」があれば慰謝料は発生するという点については、理解しておくと良いでしょう。

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