交際当初は配偶者がいることを知らなかった!それでも不倫慰謝料は払わないといけない?

交際当初は配偶者がいることを知らなかった!それでも不倫慰謝料は払わないといけない?

弁護士青木

 プロキオン法律事務所の弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

 さて、今回は、「配偶者のいる人と交際をしていたが、交際当初は配偶者がいることを知らなかった。それでも不倫慰謝料は払わないといけないの?」という相談に対するアドバイスになります。該当する方はぜひ最後までお読みください。

1 故意や過失がなければ慰謝料は発生しない

(1)条文ではどうなってる?

 不倫慰謝料というのは、民法上、損害賠償請求権(民法709条)のことを言います。

 民法709条には、このように書かれています。

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 つまり、不倫とは、相手に配偶者がいることを知っていたにもかかわらず(または過失により知らなかった場合で)、その人と不貞関係(肉体関係)になった場合のことを言います。これにより、配偶者が平和に婚姻関係を送る利益を侵害したとして、損害(精神的苦痛)を賠償する責任を負うのです。

 ここで重要なのは、故意だけでなく、過失がある場合も責任を逃れられないという点です。相手に配偶者がいることを知らずに不貞行為を持ったとしても、配偶者がいないと信じたことについて過失があれば、責任を負わなければならくなります。

(2)どんな場合に過失があるとされるの?

 もっとも、ここでいう過失というのは、はっきりと判断できるものではありませんが、東京地裁平成29年11月7日判決が、とても興味深い判断をしています。

(東京地裁平成29年11月7日判決)

不貞行為に関して,当事者となる者が,相手方との関係で,同人が既婚者であることを確認する法律上の義務を一般的に負っているとは解することができず,あくまで具体的事情の下で,交際相手が既婚者であることについて疑義を生じさせるべき事情があるか否かという観点から過失の有無を判断すべきものと解される。

 つまり、上記平成29年11月7日の東京地裁は、交際相手が結婚をしているかどうかを一般的に確認する義務はないと明言をしています(これについては、他にも、平成29年10月12日の東京地裁判決が、同じような判断をしています。)。そして、あくまでも具体的な事柄の中で、既婚者なのではないかと疑問が生じた場合に、初めて確認をする義務が生じるのだと言っています。

 具体的には、例えば左手の薬指にそれっぽい指輪をつけていた場合は、重大な過失があると言えるでしょう。そのほか、相手に幼い子がいたり、なかなか居住先を教えてくれないなどの事情があれば、結婚をしているのではないか確認をする義務ありとされるでしょう。知り合うに至った経緯なども重要だと思います。

 もっとも、仮に確認をしなければならない義務があるとして、その確認をどの程度すれば良いか問題になります。例えば、戸籍の調査を行わなければならない、ということにはなりません。一般的にも、第三者が他人の戸籍を取得できるケースは極めて制限されています。

したがって、通常は、相手に結婚をしているか確認をして、結婚をしていない旨の返答があれば、確認の義務を果たした(つまり、過失がない)とみなされるでしょう。ただし、常識的にあまりにも怪しい場合は、相手の家族や共通の知人に確認するなど、さらなる調査をすべきとされる可能性もあります。

なお、相手に確認をして返答をもらったということを証明できるように、メールやラインなどで確認をするのがベターと言えます。

先ほどの東京地裁平成29年11月7日判決は、以下のように判断をしています。

(東京地裁平成29年11月7日判決)

A(配偶者のいる相手)が既婚者であることについて認識していなかったことについて過失があるか検討するに,・・・Aが,被告と同棲生活を開始する前に,自分が独身であるとするメールを送信しており,・・・そのまま被告と同棲生活を開始し,継続的に本件マンションに居住しており,長期間不在となるなど他に生活の根拠があることを窺わせるような事情も窺われないことからすれば,被告が,Cを既婚者であると認識するのは困難であったといえ,被告がCと不貞行為に及ぶ際に,同人が既婚者であることを知らなかったことについて過失があるとは認められない。

2 交際途中で既婚者であることを知った場合はどうなる?

交際途中で既婚者であることを知った場合はどうなる?

 一方、交際途中で、相手が既婚者であることを知ってしまった場合、そこで交際が終了すれば、不貞行為にはなりません。しかし、すでに相手と親密な関係になり、相手に依存している状況になると、別れるのも簡単ではないでしょう。そうして引き続き関係を継続した場合、責任は生じてしまうのでしょうか。

(1)その時点で夫婦関係が破綻していれば責任は生じない

 もし、相手が既婚者であることが分かった時点で、すでに相手が配偶者と長期間別居状態に至っているのであれば、夫婦関係は破綻しているものとみなされる可能性があります。夫婦関係が破綻していれば、その後に男女関係があったとしても、不貞行為にはならないというのが、最高裁第三小法廷平成8年3月26日判決以降、今日まで至る裁判所の確定的な運用です。

(最高裁第三小法廷平成8年3月26日判決)

甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。

 ただし、夫婦関係が破綻していたと言えるには、配偶者によほどの問題がない限りは、3年から5年程度の別居期間が必要になるのが通常です。

(2)慰謝料は発生しても、一定程度減額される可能性が高い

 それでは、慰謝料が発生してしまう場合は、当初は既婚者であることを知らなかった場合、何も考慮してくれないのでしょうか。

 これに関して、正面から論じた裁判例は少ないのですが、例えば東京地裁平成30年1月31日判決は、不貞行為の開始時点では相手に配偶者がいたとは知らなかったことを、慰謝料を減額する方向に考慮すべき事情としています。

(東京地裁平成30年1月31日判決)

一方で,・・・②被告としては,少なくとも不貞関係の開始当初から亡Aに妻がいたことを知っていたわけではないようであること・・・など,慰謝料額を制限する方向にはたらく要素とみるべき事情も認めることができる

 不貞行為開始当初には既婚者であることを知らなかった場合、実際にどの程度まで金額が減額されるのかは、それぞれの裁判官の裁量によります。もっとも、例えば慰謝料額が半額にまで減らされる、ということは考え難いでしょう。

とは言っても、裁判所が金額を判断する際の考慮事情になることは間違いありません。慰謝料を請求された側の方としては、積極的に主張をすべき内容ということになるでしょう。

<今回の弁護士からのアドバイス>

交際当初は相手に配偶者がいることを知らなかったとしても・・・

☑️知ってからも関係を継続すれば不貞行為になる可能性があります!

☑️すでに相手が別居をして数年経過していれば不貞行為にならない可能性もあります!

☑️慰謝料を払わないといけない場合でも、慰謝料の減額事由になる可能性が高いです!

弁護士の本音

弁護士 青木
弁護士のホンネ

 交際相手に配偶者がいることを知ってすぐに別れた場合でも、配偶者がいることを知らなかったことに過失があるとして、慰謝料が請求されることもあります。
 本文に載せた通り、一般的に、交際相手が結婚をしているかどうかを確認する義務があるわけではありません。ただし、「配偶者がいそうな疑わしさを感じたら、婚姻しているか確認する義務が生じる」という点は重要ですね。
 しかし、実際にそうした義務が発生したと言えるか、あるいはそうした義務を果たしたと言えるのか、この辺の法的な判断は、法律家であれば皆同じ結論に至る、というわけではありません。夫婦関係が破綻していたと言えるかの判断も同じです。さまざまなリスクを考慮しながら、対応策を専門家と相談することをお勧めしたいと思います。

弁護士の無料相談実施中!


プロキオン法律事務所は、横浜駅徒歩6分渋谷駅徒歩7分の好アクセス。離婚・男女トラブルに関するご相談を60分無料で承ります。お気軽にお問い合わせください。

0120-533-284

チャットで相談予約

>弁護士法人プロキオン法律事務所

弁護士法人プロキオン法律事務所

弁護士法人プロキオン法律事務所(横浜・東京)は、離婚・男女問題に特化した専門事務所です。初回相談は60分無料で、平日夜間・土日も対応可で、最短で即日相談も可能です。あなたの、離婚に関するお悩みはプロキオン法律事務所(横浜・東京)にお任せください!