人によっては屈辱的な離婚時の「解決金」。慰謝料とは違うの?弁護士が解説!

弁護士

プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

今回は、人によっては大変な屈辱とも感じられる、「解決金」について、解説します。離婚に応じてもらうための、いわゆる手切れ金に近い働きをするものですが、慰謝料などと混在することもあるでしょう。以下、解説します。

※今回の記事は、夫向けの記事になります。ご了承のほどお願い申し上げます。

1 解決金は、大きく分けて2種類あります

離婚時に、一方の配偶者がもう一方の配偶者にお金を支払う際、その名目を「解決金」とするケースがあります。

この「解決金」というのは法律用語ではなく、文字通り、離婚問題の解決のために支払うお金という意味で慣用的に使われているものです。

解決金は、大きく分けて2種類あります。

一つは、慰謝料や財産分与を、単に解決金と言い換えて使うパターンです。慰謝料のほかに財産分与を含んでいる場合など、複数の性質の支払いをまとめている場合も含まれます。

もう一つは、本来は支払う義務はないが、払わなければ離婚に応じてもらえない場合に、一種の手切れ金の性質として支払うものです。これが、人によっては大変な屈辱感を感じる解決金で、今回、説明するものになります。

2 なぜ本来払う義務のない解決金が存在するのか

離婚するに際して、本来支払う必要がないお金を、なぜ「解決金」という名目で払うケースがあるのでしょうか。

その答えは、ズバリ、婚姻費用です。

婚姻費用は、収入が多い配偶者(通常は夫)が、収入が低い配偶者(通常は妻)に対して払わなければならない生活費です。お互いの生活水準を同等にすべきとする扶養義務に基づくものです。

問題なのは、婚姻費用は、どれほど夫婦の婚姻関係が破綻していたとしても、支払わなければならないという、片務的義務であるという点です。したがって、収入が高い夫は、妻と何年も別居をしており、妻から何ら、婚姻関係に基づく恩恵を得られていなくとも、支払わなければならないものとされます。税金ですら、対価として公共サービスを得られるという点に鑑みれば、対価が一切ない婚姻費用の支払い義務は、現代の日本社会において極めて突出したものと言えるでしょう。

(例えば、一度も同居にすら至らなかった夫婦間でも、令和4年10月13日東京高裁決定は、婚姻費用の支払い義務を認めています。詳細は下記の記事をご覧ください。)

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そうすると、離婚ができるまでの間、夫は妻に対して、婚姻費用を支払い続けなければなりません。そのため、離婚協議の中で、妻から、すぐに離婚に応じる条件として、裁判などを経て離婚になるまでに発生する婚姻費用の総額に近い金額を要求され、夫はその要求に屈して支払わざるを得なくなる、という事態が生じてしまうのです。そしてこれが、解決金の中身であり、最大値ということになります。

夫にとって、それがよりやるせないのは、とりわけ妻が不貞をしている疑いが強いケースです。一般的に、別居の主原因を作った側(有責配偶者)からの婚姻費用の請求は認められません(養育費分は除く。)。しかし、婚姻費用は、日々の生活費のことであるため、裁判所は、妻が有責配偶者なのかどうかという審理に何年もかけることはできません。そのため、婚姻費用の金額を決める審判では、妻に別居の原因があるかもしれないが、それを判断するには時間をかけた審理が必要な場合は、婚姻費用の請求は満額認められることになります。

(こちらの記事もご参照ください。)

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勝手に家出をして帰ってこない妻。それでも婚姻費用は支払わないといけない?

したがって、妻が不貞をしている疑いが強いケースであっても、その証明が困難な場合は、夫は、屈辱の中で、婚姻費用の数年分を解決金として、逆に妻に支払って離婚してもらうという場合すらあるわけです。

なお、以下の記事は、結婚債券の価値を「離婚成立までの婚姻費用の総額」+「離婚時の財産分与」+「慰謝料」の合算とする式を提言したベストセラー書籍(藤沢数希著『損する結婚 儲かる離婚』)に関する書評です。今回の解決金とも重なります。

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3 妥当な解決金の算定方法

以上の通り、解決金の中身の最大値は、もし裁判で離婚を求めたとした場合の、離婚成立までの婚姻費用の総額です。

そのため、妥当な解決金の金額を計算するためには、次の点を正確に見極める必要があります。(なお、解決金を支払う夫側の立場に立った視点ですので、その点ご承知おきください。)

①妻は本当に裁判をしてでも離婚を争うつもりか。

②婚姻費用額はどのくらいか。

③離婚が認められるまでどの程度の期間がかかるのか。

・①妻は本当に裁判をしてでも離婚を争うつもりか

まず、①妻は本当に裁判をしてでも離婚を争うつもりか、という点です。
本当は妻も裁判まではしたくないということであれば、裁判をした場合に離婚が成立するまでの期間分の婚姻費用を支払う必要はないでしょう。妻も実際は離婚に前向きであり、一刻も早く離婚をしたいという気持ちであったり、次の人生を考えているケースであれば、裁判を望まないことが多いです。

もっとも、妻のこうした心の内は、容易に分かるわけではありません。交渉や調停における心理戦の中で、妻や妻の代理人の口調や、言っている内容の端々を捉えて、判断していくことになります。ここを正確に捉えられると、交渉を有利に進められる可能性が高まるでしょう。

・②婚姻費用額はどのくらいか

次に、そもそも婚姻費用の金額がどの程度なのかが分からなければ、解決金の計算が困難です。これは、離婚を求める夫側も、離婚を拒否する体裁をとっている妻側にとっても同じです。

したがって、具体的な解決金の金額交渉は、婚姻費用の金額が決定した後か、婚姻費用に関する裁判官の考えが提示された後に行われる場合が多いです。

・③離婚が認められるまでどの程度の期間がかかるのか

裁判をすればすぐに離婚が認められそうな場合は、単純に裁判として想定される期間を想定し、婚姻費用額の総額を計算します。

裁判の期間は、平均的には1年半です。
なお、解決金を多く出させるために、「今は裁判所も忙しいから、裁判だと3年くらいかかる」などと平気で脅す裁判官もいます。注意してください。

裁判期間については、以下の記事もご参照ください。

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一方で、すぐに裁判をしたとしても離婚が認められるか不明瞭だと、実際には別居期間をさらに設けてから裁判をすることになるでしょう。その場合は、想定すべき婚姻費用の支払い期間は、一般的な裁判期間よりも長くなります。

・注意点

以上、計算根拠を提示しましたが、裁判で離婚が認められるまでの間の婚姻費用の総額というのは、解決金の最大値です。初めからこの計算結果を相手に提示して解決金を提案するのは、交渉上、最悪手ですので、その点は注意しましょう。

そして、どの程度の金額を目標にして対応するかも念頭に、交渉を行っていきましょう。

今回の弁護士からのアドバイス

☑️離婚に応じてもらうための解決金は、裁判で離婚が成立するまでの間の婚姻費用の総額が最大値です。

☑️解決金を算定する場合は、①妻は裁判してでも本当に離婚に応じないつもりなのか、②婚姻費用額は実際いくらなのか、③離婚が認められるまでの期間はどのくらいなのかを、可能な限り正確に見極めましょう。

☑️最初から上記の計算結果を解決金として打診するのは交渉上悪手です。目標値を設けて交渉をすることも忘れないようにしましょう。

弁護士の本音

弁護士 青木
弁護士のホンネ

婚姻費用は、一般的には離婚が成立するための生活費という風に捉えられています。しかし、本文で説明した通り、離婚問題全体の解決の最も重要なファクターであるという事実があります。
そのため、離婚問題の前哨戦として、婚姻費用に関して激しい争いがなされるケースも多いです。
離婚は大変なエネルギーがかかりますが、正確な知識があれば、少なくとも納得した解決に至りやすいのも事実です。
そのため、今回の記事が皆様の離婚問題の解決のためにお役に立てましたら幸いです。

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