
プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、令和6年5月17日に成立した、いわゆる共同親権制度の概要を、具体的な法律の条文を見ながら丁寧に解説したいと思います。これから離婚を考えている方や、すでに離婚済みで、共同親権を求めることを検討している方は、ぜひお読みください。
なお、日本では、婚姻期間中は、夫婦双方が子どもに対して親権を持っています。したがって、その意味ではすでに共同親権制度なのですが、ここで問題となるのは離婚後の親権についてです。なので、厳密には「離婚後の共同親権制度」に関するものになりますので、ご注意ください。
1 「親の責務」に関する規定が新設!
民法の第4編は、親族に関する規定です。
その中で、第1章は総則、第2章は婚姻、第3章は親子について規律されています。
そして、これまで、「第3章 親子」の中は、「第1節 実子」、「第2節 養子」のみでしたが、新たに、「第3節 親の責務等」が設けられ、親の責務に関する規定が定められました。
第三章 親子
第一節 実子(第七百七十二条―第七百九十一条)
第二節 養子
第一款 縁組の要件(第七百九十二条―第八百一条)
第二款 縁組の無効及び取消し(第八百二条―第八百八条)
第三款 縁組の効力(第八百九条・第八百十条)
第四款 離縁(第八百十一条―第八百十七条)
第五款 特別養子(第八百十七条の二―第八百十七条の十一)
第三節 親の責務等(第八百十七条の十二・第八百十七条の十三)←NEW!!第四章 親権
第一節 総則(第八百十八条・第八百十九条)
第二節 親権の効力(第八百二十条―第八百三十三条)
第三節 親権の喪失(第八百三十四条―第八百三十七条)
新設された「親の責務等」に関する具体的な内容は、以下のとおりです。
(親の責務等)
第八百十七条の十二 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
(親子の交流等)
第八百十七条の十三 第七百六十六条(第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の場合のほか、子と別居する父又は母その他の親族と当該子との交流について必要な事項は、父母の協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求により、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、父又は母の請求により、前二項の規定による定めを変更することができる。
4 前二項の請求を受けた家庭裁判所は、子の利益のため特に必要があると認めるときに限り、父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
5 前項の定めについての第二項又は第三項の規定による審判の請求は、父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)もすることができる。ただし、当該親族と子との交流についての定めをするため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
ここでは、子供の人格の尊重や、子供の生活水準を確保する義務のほか、父母は、婚姻関係の有無に関わらず、子供の利益のために、協力し合わなければならないことが宣言されています。
そして、そうした子供の利益の促進の一環として、面会交流制度を民法上で明確化したことも注目に値します。
この責務規定は、親権に関する章の前に置かれています。したがって、親権に限らず、子供が絡む親族問題については、全て、子供の利益を中心に考えるべきことが宣言されたものと理解することができるでしょう。
この規定を置いた上で、親権に関する条文が次に置かれています。
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2 離婚後の親権者に関する具体的な規律
(1)親権そのものに関する規律
さて、親権そのものに関する規定は以下のように変更されました。
【改正前】
(親権者)
第八百十八条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
【改正後】
(親権)
第八百十八条 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。
2 父母の婚姻中はその双方を親権者とする。
3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。
一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)
二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの
注目されるべき部分は、改正後の条文では、親権が「子の利益のために」行使されるべきことが宣言されている点です。これは、先ほどの責務規定と通ずるものです。日本は、親権を、親の権利というよりも、子供のために行われるべき義務的な側面を強く持つものという立場に立ったということが分かります。
なお、改正前の3項にあった、親権者が二人いる場合の親権の行使のあり方については、後ほど述べる824条の2で整理されています。
(2)離婚後の共同親権に関する規律
そして、次の819条が、いよいよ共同親権に関する定めです。
【改正後】
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
7 裁判所は、第二項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8 第六項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
読んでみるとお分かりの通り、離婚後は、共同親権にすることも可能であるし、単独親権を取ることも可能という、選択的共同親権制度が採用されたことが分かります。
一方で、裁判所が決める際、①父または母が子の心身に害悪を及ぼす恐れがある場合や、②父母が共同して親権を行うことが困難であると認められる場合、そのほか子の利益を害する場合は、単独親権とすべき旨が定められました。これは、逆に言えば、原則として共同親権とすべき指針を民法が打ち出したと言えます。
とはいえ、②の「父母が共同して親権を行うことが困難である」場合は、広く解釈される可能性もあります。父母は関係が悪化して離婚に至るケースが大部分ですから、普通は共同して親権を行使することは困難であると、拡大解釈される可能性を残しています。
この辺りは、実際に法律が施行され、裁判所の判断が蓄積されていくことで、実務での運用が定まっていくことになるでしょう。
(3)親権の行使のあり方に関する規律
さて、今回の法律改正により、親権の行使方法についても整理されました。
というのは、離婚後も元夫婦が親権を保持するケースが想定されるため、別々に暮らしている複数の親権者の思惑が一致しないケースも優に想像できるからです。
そこで、親権の行使方法については次の通り定められました。
(親権の行使方法等)
第八百二十四条の二 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
一 その一方のみが親権者であるとき。
二 他の一方が親権を行うことができないとき。
三 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3 特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
まず、元夫婦の意思が一致指定ない場合でも、「子の利益のため急迫の事情があるとき」は、父母のどちらか一方のみで親権を行使することができます。例えば、緊急の医療行為についての病院への同意などが考えられます。
また、「監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使」については単独で可能とされています。これは、要するに子の身の回りの世話です。モノの買い与えなども含まれるでしょう。
一方で、どこの学校に進学するのか(進学先の学校との契約)や、習い事への契約については、上記のどちらかに該当するかは極めて微妙です。これに関しても、今後の裁判所の判断の集積が待たれるところと言えるでしょう。
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3 施行は成立・公布から2年以内(おそらく令和8年4月から)
さて、本改正は、令和6年5月17日に成立し、5月24日に公布されました。
そして、公布の日から2年以内に施行するとされていますので、令和8年5月24日までのいずれかの日から施行されることになります。
大方の予想では、令和8年4月1日が施行日とされています。
共同親権制度の開始は、あくまでも改正法の施行日からですので、その点は注意しましょう。
弁護士のホンネ

今回は、離婚後の共同親権制度について、具体的な法律の規定を載せながら丁寧な解説を試みました。共同親権制度がニュースに上がるなどしていますが、具体的な条文をしっかりご覧になったことのある方は少ないのではないでしょうか。
今回の記事が、これから共同親権制度下での離婚を考えている方々のお役に立てればと思います。
なお、今回の記事作成にあたっては、法文のほか、法務省民事局が作成した新旧対象条文や、改正の概要パンフレットも参照しています。詳細を確認されたい場合は、https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.htmlもご参照くださればと思います。