1 「有責配偶者による離婚請求」
有責配偶者による離婚請求は、相手方に対する信義に反するため、原則として認められないとするのが判例・裁判所の立場です。
つまり、不倫や浮気(不貞)を働いておきながら、離婚を請求するということが、あまりにも身勝手であり、配偶者をないがしろにするものであるため、許容されないというわけです。
ところで、ここでいう、「離婚請求」というのは、あくまでも、裁判所に離婚請求訴訟を申し立てた場合の話です。
ですから、不倫や浮気といった不貞をきっかけに、夫婦が話し合って離婚に合意することは全く問題ありませんし、調停で話し合いの機会を設けようとして、離婚調停を申し立てることもまた問題ありません。
実際、不倫や浮気があった場合、配偶者も愛想をつき、離婚に応じるということの方が多いと言えるでしょう。
いわゆる「有責配偶者による離婚請求」とは、そうした協議や調停では解決にならず、不倫や浮気をした側の配偶者が、最終手段として家庭裁判所に離婚できるよう訴えを提起した場合のことを指します。
2 いわゆる「3要件」の前に検討すべきこと
ところで、浮気や不倫といっても、程度がある話です。
ですので、有責配偶者が裁判所に訴えを提起した場合であっても、有責配偶者であるからというだけで、一律に離婚の請求が認められなくなるわけではありません。
よく言われるのは、
- 別居期間がどの程度か
- 夫婦間に未成熟の子がいるか
- 離婚を認めることで配偶者に酷な結果を生じさせないか
という点を判断するということです。
別居期間が同居期間に比べ長期であり、未成熟子もおらず、離婚によっても配偶者が酷な環境に陥らないということであれば、離婚が認められます。
これは、昭和62年9月2日の最高裁判決が、それまで一律に離婚を認めていなかった最高裁の立場を変更して判断したもので、現在に至るまで強い効力をもっている判例です。
しかしながら、こうした3つの要件を審理をする以前に、そもそも「有責配偶者」にあたるかどうかという点が実は重要です。
もし、有責配偶者でなければ、婚姻関係が破綻していることが認められれば、離婚請求が認容されるからです。
不倫や浮気をした側からの離婚請求というと、弁護士などでも、上記の3つの要件にあたるかどうかに安易に飛びつきがちなのですが、そもそもこの3要件を検討すべき前に、本当に有責配偶者といえるかどうかをまずは先に考えるべきなのです。
横浜の弁護士の青木です。今回は、妻に離婚を切り出そうとしている中、自身の不貞を正直に打ち明けた方が良いかどうか迷っている方のためのアドバイスをします。 1.好きな人がいることが離婚の説得材料になるか? 多[…]
3 一度不倫や浮気を許してもらった場合はどうなる?
それでは、例えば、一度夫が不倫をしたことがばれてしまったところ、これについて妻が過ちは誰にでもあるとして、許してくれたとします。
しかし、その後、やはり関係がギクシャクしてしまい、元に戻らない。
妻は離婚自体に応じないどころか、むしろ前に許してくれたはずの不倫を持ち出して、「有責配偶者からの離婚請求は認められないはず!そういう風にネットに書かれていた!」などと述べたとします。
この場合、本当に離婚請求は認められないのでしょうか。
まず、有責配偶者にあたるとすれば、別居期間も短く、その上小学生くらいの子供がいるのであれば、離婚請求をしても、3要件を満たさないことになるでしょう。
でも、そもそも「有責配偶者」には当たらないということになれば、婚姻関係が実際に破綻しているならば、離婚が認められる可能性が出てきます。
実は、平成4年12月24日の東京高等裁判所の判決は、これに近い事例に関して、有責配偶者からの離婚請求とみるべきではないとして、不倫をした妻からの離婚請求を認めました。
この事件は、妻が同僚と不倫をした後、夫が一度はこれを許し、4、5ヶ月間同居を続けたが、その後夫が妻にだまって退職して起業するなどした結果、婚姻関係が破綻して別居に至った事例でした。
この裁判で、夫は、一度許したはずの過去の不倫を持ち出して、離婚には応じないと主張しました。
しかし、東京高等裁判所は、不倫の後に夫婦関係が破綻するに至ったとき、一旦宥恕したはずの過去の不倫を理由として、有責配偶者からの離婚請求と主張することは許されないと述べたのです。
つまり、一旦不倫を許した → 有責でなくなった、という考えです。
このような場合においては、そもそも有責配偶者には該当しないわけですから、先ほどの3要件を考慮するまでもなく、婚姻関係が破綻していれば、離婚が認められるのです。
有責配偶者からの離婚請求は認められないのが原則です。
しかし、本当に有責配偶者にあたるかどうかがまずは大事な点です。
このことは、ぜひとも注目すべきところといえるでしょう。
有責配偶者からの離婚請求は、昭和時代は一切認めないというのが主流でした。
しかし、本文にも紹介している昭和62年の最高裁判決が、例外を認め、それ以降、現在に至るまで、徐々に離婚への障壁が緩和されています。
今回挙げた平成4年の東京高等裁判所の判決も、そうした障壁緩和への流れを作り上げる一助となったといえるでしょう。
確かに、不倫をされた配偶者からすれば、離婚の請求をされることは耐え難い屈辱かもしれません。
しかし、不倫は配偶者への不法行為ですから、本来は慰謝料などの損害賠償で補填されるべきものです。
報復として婚姻間関係に縛り続けさせるというのは、本来のあり方であるか疑問を抱く方も多いでしょう。
こうした障害緩和への流れは今後も続くものと思われます。