本ページでは、あなたの配偶者が不倫や浮気をした場合に、誰に対して、どのような行動を起こすことができるのか、そして、その後の手続きの方法などについてご説明いたします。
逆に、あなたが不倫や浮気をしてしまった場合であれば、どのようなリスクがあるのか、ご理解いただけるでしょう。
また、なぜ世の中に不倫や浮気が生じてしまうのか、文化人類学的な観点からも考察します。
ここに書かれていることさえ理解すれば、ひとまず十分です。
1 不倫・浮気は離婚原因になります
⑴ 離婚原因とは?
独身の女性と男性が、双方の合意によって結婚できるように、日本では、夫婦は合意によって、役所に届出をするだけで離婚することができます。
しかし、実は、このことは世界ではむしろ稀であり、ほとんどの国では裁判所における手続きを必要とします。
それは、財産分与や養育費、親権、面会交流など、決めなければならないことが多いことが理由の一つです。
また、フィリピンやバチカン市国では宗教的な理由から離婚が認められていません。
それはともかく、日本では、夫婦は合意によって離婚をすることができるわけです。
しかし、必ずしも離婚をすることについて夫婦が合意できるとは限りません。
そこで、日本の家族法は、離婚ができる原因として5つを挙げています(民法770条1項)。
これに該当する場合は、裁判所に訴訟を提起することで(離婚訴訟)、相手が離婚に応じなくとも、離婚をする道が開けているのです。
具体的には、
- 夫または妻に不貞な行為があったとき
- 夫または妻から悪意で遺棄されたとき
- 夫または妻の生死が3年以上明らかでないとき
- 夫または妻が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他、結婚を継続し難い重大な理由があるとき
以上のいずれかに該当する場合には、たとえ夫婦の一方が離婚に応じなくとも、裁判所に離婚訴訟を申し立てることで、離婚にこぎつけることができます。
そして、不倫や浮気があれば、①の「不貞な行為」にあたるものとして、離婚訴訟することができるのです。
⑵ どのような場合に「不貞な行為」になる?
ア 「不貞な行為」の定義
不倫・浮気があったからといって、すぐに「不貞な行為」だから離婚が認められる、とは限りません。
法律のいう「不貞な行為」というものに該当する不倫・浮気でなければなりません。
そして、法律のいう「不貞な行為」とは、夫または妻が、配偶者以外の異性と性交渉に及ぶことをいいます。
ここでいう性交渉とは、セックス・肉体関係のことです。
露骨な言い方になりますが、男性器が女性器に挿入されて初めて不貞な行為とみなされるのが原則です。
イ 風俗
不倫・浮気として実際の裁判でも多く扱われるのが、配偶者以外の異性と交際をしていた場合です。
交際相手と肉体関係を結んだことが証拠から認められれば、不貞な行為があったとみなされます。
それでは、夫の風俗通いがあった場合、これは「不貞な行為」とみなされるのでしょうか。
結論から言えば、男性器を女性器に挿入させることを目的とするソープランドのようなサービスでなければ、「不貞な行為」にはあたりません。
不貞な行為はあくまでも、そのような肉体関係を指すからです。
ただし、先ほど挙げた5つの離婚原因の5つ目、「その他、結婚を継続し難い重大な理由」には十分にあたる可能性があります。
これに該当すれば、離婚原因はあるものとして、離婚訴訟をすることは可能です。
もっとも、例えばピンクサロンやヘルスといったサービスを1回、2回利用した程度では、「結婚を継続し難い重大な理由」には当たらないでしょう
。一方、定期的に通っていた場合や、SMクラブやニューハーフヘルスなどの過激なサービスである場合などは回数が限られていても該当する可能性が高まります。
詳しくは、「風俗通いは何回までなら離婚理由にならないの?」をご覧ください。
ウ 同性との性関係
では、夫の不倫相手が男性であった場合はどうなるでしょうか。
こうした場合も、「不貞な行為」にはなりません。男性器を女性器に挿入させるという定義に当てはまらないからです。
もっとも、これも「その他、結婚を継続し難い重大な理由」には十分に当たりますから、離婚原因にはなります。(東京地方裁判所平成16年4月7日判決などは、同性間の性交渉も「不貞な行為」に当たるとしていますが、いずれにしても、離婚原因になるという結論自体は変わりません)
エ 肉体関係をともなわない場合
それでは、厳密な意味での性交渉や、肉体的な関係を経ず、いわばプラトニックな関係で配偶者以外の異性と交際をしていた場合はどうでしょうか。
このような場合も、「不貞な行為」には該当しませんが、やはり「その他、結婚を継続し難い重大な理由」にはあたる場合があります。
異性との一度や二度のデート、手を組んで歩く、数回キスをするといった程度では、直ちにこの重大な理由には当たらないと考えられます。
もっとも、その頻度や期間の長さが一定程度を超えると該当するといえるでしょう。
ここで着目されるべきは、「通常であれば」そのような行動をとられた場合、配偶者の立場にある者がどう感じるかという、一般的な観点から判断されるということです。
実際にそのような行動をとった者の配偶者が、結婚を継続できないほど傷ついたかという個別的な観点から判断されるわけではありません。
オ すでに夫婦関係が破綻していた場合
肉体関係を伴う不倫や浮気があった場合でも、不倫や浮気をした時点で、すでに夫婦仲が冷め、別居が始まっていたような場合は、「不貞な行為」には当たらないとされます。
「不貞」とは、貞操義務に違反する行為を指します。法的には、夫婦仲が冷め、もはや実質的な夫婦関係が破綻している場合は、貞操義務はもはや消滅しています。
それゆえ、その後に不倫や浮気があったとしても、「不貞な行為」には当たらないということです。
また、理屈的に、すでに壊れた夫婦関係を壊すことはできないからだとも言われます。
もっとも、すでに夫婦関係が壊れているために「不貞の行為」には当たらない場合であっても、そもそもすでに夫婦関係が壊れていることを理由として、離婚請求をすることは可能です。
2 不倫・浮気があった場合は、配偶者とその不倫相手に、慰謝料請求ができます
⑴ 配偶者に対する慰謝料請求
あなたの夫または妻が不倫・浮気をした場合、あなたは夫または妻に対して慰謝料請求をすることができます。
あなたが配偶者に対して離婚を請求しない場合であっても、慰謝料の請求をすることは認められます。
つまり、離婚をせずに、別居状態のままで、配偶者に対して慰謝料請求ができるということです。
さらに、その後実際に離婚に至った場合には、離婚自体に伴う慰謝料請求もできる場合があります。
もっとも、後者の請求額は極めて低いものになるのが通常でしょう。
この点については、「一度慰謝料をもらっても、離婚する場合にまた慰謝料請求ができる?」をご覧ください。
⑵ 不倫相手に対する慰謝料請求
さらに、あなたは夫または妻の不倫相手に対して慰謝料請求をすることが可能です。
不倫や浮気は、夫婦関係を壊すものであるため、あなたの「結婚生活を維持する権利」を侵害するものとして、不法行為にあたるとされます。
この場合、不倫相手があなたに対して負う慰謝料の金額は、100万円から300万円の範囲内で収まるのが通常です。
慰謝料の金額を判断する際に考慮されるポイントは以下の通りです。
- 結婚していた期間
- あなたに子供がいるかどうか
- 不倫をきっかけにあなたが離婚に至ったかどうか
- あなたの配偶者の年収
- 不倫の期間
- 不倫で肉体関係を伴った回数、頻度
これらの要素を組み合わせることで、慰謝料の金額の軽重が決まってきます。
なお、不倫相手に対して慰謝料請求ができる、という考えは必ずしも絶対的なものではなく、アメリカなどでは原則として認められていません。
不倫相手にとっては、自由恋愛の範囲内であるともいえるからです。そのため、アメリカでもわずかな州が、一定の要件に該当する場合にのみ、そうした慰謝料を認めているにすぎません。(これについても、「一度慰謝料をもらっても、離婚する場合にまた慰謝料請求ができる?」をご参照下さい。)
日本でも、法学者の間では、不倫相手は原則として不法行為責任を負わないという見解が有力です。夫婦間の貞操義務を不倫相手が直接負うわけではないからです。
もっとも、現在の裁判所は、不法行為責任を認める戦前からの運用を継承しており、当分の間この運用は続くものと思われます。
⑶ 配偶者とその不倫相手の双方に対する慰謝料請求
あなたの夫または妻が不倫をした場合の慰謝料請求は、あなたの夫または妻と、不倫相手双方に対して、順番に、または同時に行うことができます。
もっとも、不倫を理由とする慰謝料の支払い義務は、配偶者とその不倫相手が連帯して負うものなので、一方が支払いをすれば、その分、他方は支払い義務を免れます。
ここで、順番に請求をすべきか、同時に請求をすべきかということを述べます。
配偶者とその不倫相手に対して同時に慰謝料請求をする場合の方が、慰謝料金額は高額になる傾向にあると考えられます(裁判の場合)。
配偶者に対する慰謝料請求は、通常離婚請求を伴います。
その結果、結婚生活が不倫によって離婚せざるをえないほど破綻してしまっていると理解されるため、被害が大きいとみなされるのです。
⑷ 肉体関係を伴わない浮気の場合
「不貞の行為」とまでは言えない浮気というものがあります。
配偶者以外の異性と手をつないで歩いたり、デートを重ねたり、数回キスをしたりというものです。
この場合、肉体関係まではないとはいえ、結婚生活に対する脅威になることは同じです。
したがって、慰謝料の金額自体は肉体関係を伴う場合に比べてぐっと低くなりますが、数十万程度の慰謝料が認められることがあります。
東京地方裁判所平成24年11月28日判決は、既婚者と愛情表現を含むメールのやりとりをしたことについて、30万円の慰謝料を認めています。