プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、配偶者が破産をすると、離婚に伴う権利・義務(慰謝料、財産分与、婚姻費用・養育費など)はどうなるのかについて、解説します。
1 破産とは?
破産手続とは、借金などの債務が、本人の収入に比して過大である場合(支払いが不能である場合)に、裁判所の決定により、債務者の財産を換金して、債権者に分配する手続きをいいます。
通常、個人が破産手続を申し立てる場合、免責についても判断されることになります(通常はよほどのことがない限り認められます。)。免責とは、債務者の財産を換金して債権者に分配しても、なお債務が残る場合に、その債務を帳消し(支払わなくても良しとする)決定をいいます。
離婚で問題となる場合というのは、別居中の配偶者や、離婚後の元配偶者が破産したケースです。この場合、破産した配偶者に対して請求できるはずの慰謝料や財産分与、婚姻費用などはどうなるのでしょうか?
以下、弁護士が解説します。
2 慰謝料の支払い義務は免責となります
(1)別居中の破産
別居中に配偶者が破産し免責となった場合、離婚慰謝料はどうなるのでしょうか。
離婚慰謝料は、厳密には、離婚時に発生する慰謝料なので、離婚前の別居中に破産したとしても、離婚慰謝料には影響がないように一見思えます。
しかし、破産法では、「破産債権」とされるものは、免責の対象となります。そして、「破産債権」は、以下のように定義されています。
(破産法2条5号抜粋)
「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、・・・
このように、形式的には破産後に発生する権利であっても、その原因が破産手続開始前の原因に基づいている場合は、破産債権となります。
そして、離婚慰謝料は、通常、別居前の出来事(不倫・不貞、暴力など)に基づいて生じるものですので、「破産手続開始前の原因」に基づく債権といえます。よって、破産債権とみなされます。
なので、別居中の配偶者が破産をしてしまえば、離婚時に慰謝料を請求することはできなくなります。
ただし、「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」については、免責されない権利(非免責債権)とされるため(破産法253条1項3号)、暴力に基づく離婚慰謝料に関しては、免責されないものと考えられます。
(2)離婚後の破産
元配偶者が離婚後に破産した場合も同じです。離婚慰謝料は請求できなくなります。
もっとも、すでに支払いを受けている部分に関しては影響を受けません。
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3 財産分与を行う義務も免責になります
(1)別居中の破産
別居中に配偶者が破産した場合、財産分与も請求できなくなるのでしょうか。
答えは、イエスです。
もう一度、免責の対象となる「破産債権」の定義を挙げます。
(破産法2条5号抜粋)
「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、・・・
財産分与請求権は、別居時の夫婦共有財産を精算する財産上の請求権です。そして、同居期間中の夫婦共有財産の形成は、破産手続開始前の原因となりますので、財産分与請求権も破産債権となります。
(日本弁護士連合会倒産法制等検討委員会編『個人の破産・再生手続 〜実務の到達点と課題〜』「第6章」でも、その旨指摘されています。)
そのため、別居中の配偶者が破産すれば、財産分与請求権も免責されることになります。
なお、同居中の配偶者が破産した場合は、少し複雑になります。
厳密には、破産前の同居と蓄財部分に基づく財産分与請求権は免責され、破産後の同居と蓄財部分に基づく財産分与請求権は、免責されず、離婚時に請求できることになります。
(2)離婚後の破産
別居中の破産の場合と同じです。元配偶者が離婚後に破産をすれば、財産分与請求権も免責されることになります。
すでに支払いを受けている部分については、影響はありません。
4 婚姻費用や養育費は免責になりません!
さて、以上の慰謝料や財産分与とは異なり、婚姻費用や養育費については、免責の対象にはならず、非免責債権です。
したがって、別居中の配偶者や離婚後の元配偶者が破産をしたとしても、婚姻費用や養育費は、破産前の部分も含めて引き続き請求できることになります。
非免責債権について、以下、一覧しておきます。以下のものは、破産手続後も支払う義務があり続けるものです。
(免責許可の決定の効力等)
破産法第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権
なお、上を見ると、2号に、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」があります。これを理由に、不貞に基づく離婚慰謝料なども非免責債権なのではないかという議論が出たりしますが、ここでいう「悪意」は、「故意」とは異なり、積極的な加害意思を指します。したがって、配偶者に精神的苦痛を与えることを直接の目的として殊更に不貞を行ったような場合でない限り、非免責債権にはならないものと考えられます。
今回のまとめ
別居中の配偶者、又は離婚後の元配偶者が破産すると、、、
☑️離婚慰謝料は免責により請求できなくなります!
☑️財産分与請求権は免責により請求できなくなります!
☑️婚姻費用・養育費は、破産前の部分も含めて引き続き請求できます!
☑️肉体的な暴力に基づく慰謝料請求も、引き続き請求できます!
弁護士の本音
今回は、離婚と破産という、時折問題となる件について解説しました。
離婚では、主に生活費(婚姻費用)の金額や財産分与の金額で争いになるわけですが、配偶者が他に大きな借金があり、破産や免責といった事態になると、途端に状況が複雑になります。
離婚問題の関係者が破産した場合どうなるのかについて、知識を整理する必要があります。その際に、本文がお役に立てましたら幸いです。
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