プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、これって後妻業(高齢男性に近づき財産目的で結婚すること)ではないか?と疑った場合に取るべき対処法について解説します。
1 一般的に「後妻業」とみなされる可能性は低い
(1)「後妻業」とは
高齢になって婚姻をした場合によく問題となるのが、後妻業ではないかとの疑念です。
後妻業とは、一般的に、高齢男性(女性の場合もあるでしょう。)に近づき財産目的で結婚することを指します。
高齢になり病気がちになったところ、最近知り合った女性が面倒をよく見てくれて、その女性に恩義を感じ、気づいたら婚姻届を提出していた、なんて話は実際によくあります。
その後、この婚姻が後妻業ではないかと疑うに至るのは、婚姻後、短期間のうちに相手女性の態度が代わり、多額のお金の拠出を要求してきたり、自分の親族(元旦那との間の子供など)にお金や住まいの手配をするようになることがきっかけです。
特に、高齢男性に元々実子がいるケースでは、その実子からすれば、突如やってきた女性が自分の父親の財産を掠め取るように見えてしまうため、親族間の対立に発展しやすいと言えます。
こうした問題に対してはどのような対処を取るべきでしょうか。
当サイト運営・プロキオン法律事務所では、相談室(渋谷駅徒歩5分・横浜駅徒歩6分)またはオンラインにて、無料相談を実施しています。
(2)婚姻の無効を主張する(婚姻意思を争う)のは難しい
まず、婚姻が無効だとするアプローチが考えられます。
婚姻は、当事者に①婚姻意思と、②婚姻届の提出があれば、正式に成立します。婚姻意思とは、「社会通念上夫婦とみられる関係を形成しようとする意思」を言います(令和3年4月27日東京高裁判決)。具体的には、同居をしたり、協力して生計を立てたり、性関係を持つ意思のことです。
ところが、この婚姻意思は、婚姻をする時点に存在していれば良いとされます。
そのため、婚姻後、少し時間が経って、女性がお金の要求ばかりをし始めたり、身の回りの世話をしてくれなくなったということがあっても、直ちに婚姻意思がなかったとはみなされません。女性から、婚姻をした時には夫婦として生活をする気持ちがあった、その時は好きで結婚したと言われてしまえば、裁判所としても、婚姻を有効なものとせざるを得ないのです。
(一般的に、裁判で婚姻無効が認められるのは、高齢男性側が認知症などにより意思能力が乏しい場合に多いです。)
(3)婚姻の無効を言えないのであれば、財産の保全と、離婚手続を!
上記のように、財産目的での婚姻の疑いがある場合でも、婚姻自体は有効とみなされる可能性が高いです。そのため、状況を打開するために、①財産を保全することと、②離婚手続を進めることを検討する必要があります。
以下、それぞれ述べていきます。
2 財産を保全する対応
(1)遺言書の作成
まずは速やかに遺言書の作成を行うことです。
離婚前に婚姻をした高齢男性本人が亡くなってしまうと、子供の有無等に応じて配偶者に法定相続分に従った財産が承継されることになります。これを避けるために、公正証書遺言の作成を行うことがおすすめです。
ただ、遺言により(形式上の)妻が遺産を相続できない内容の記載があっても、妻の法定相続分の半額相当は遺留分として権利が残りますので、完全に問題を避けられるわけではありません。
具体的な遺言の作成方法については、別途弁護士に相談をする必要があるでしょう。
(2)成年後見の申立て
次に、実父が後妻業の被害者ではないかとの疑いがあり、実父の認知能力に問題があるケースでは、実子などの以前からの肉親が主導して、成年後見を申し立てる方法があります。
成年後見が開始すると、その財産の管理権は成年後見人に帰属するため、妻による財産の管理は事実上制限されることになるでしょう。実父の財産が散財されることを防げます。
また、成年後見が開始されることで、その時の実父の意思能力の乏しさが明確化します。そのため、形式上の妻が主導して遺言書を作成するなどの事態を防ぐことにも繋がります。意思能力がなければ、遺言能力もなしとされるからです。
具体的な成年後見の申立てについては、別途弁護士等の専門家に相談する必要があるでしょう。
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3 離婚手続に向けた対応
(1)調停での解決は難しい
離婚手続としては、まずは調停を申し立てることになるでしょう。
本人が高齢ということであれば、早期解決という観点がが重要です。可能な限り早期に手続を進めるため、すぐに調停から始めるのが良いと思います。いきなり裁判できれば良いかもしれませんが、日本の制度では、離婚訴訟の前に離婚調停を申し立てることが必要とされています(調停前置主義。家事事件手続法257条)。
ただ、財産目当てでの婚姻の場合、妻側は「絶対に離婚しない」との姿勢を示すと思います。調停を申し立てたとしても、調停自体にすら参加せず、ただ離婚しない旨の意思表明を記載した答弁書を提出するだけのケースもあるでしょう。
あるいは、できるだけ離婚を先延ばしにするために、調停には参加しつつも、婚姻費用の申立てを行なったり、のらりくらりとした姿勢を継続させ、調停を長引かせるという戦略が取られる場合もあります。
そのため、財産目当てでの婚姻と思われた場合は、裁判で離婚を決着することを覚悟して、裁判に向けた準備を始めるべきです。
(2)婚姻関係と呼べる関係になかったことの証拠集め
離婚裁判に向けて必要なことは、婚姻関係が最初から、またはすでに形骸化していることを示せる証拠を集めることです。
ア 性関係やキスはあったかどうか
財産目当での婚姻のケースでは、性関係やキスすらない、という場合もあると思います。「ないことの証明」というのは非常に難しいわけですが、女性とのやり取り(メールやライン)、入所先施設の関係者の証言、親族の証言などを通じて、いわゆる男女関係にはなかったことを示せるか検討しておきましょう。
イ お金を取られた経緯をまとめておく
また、本人のお金がどのように管理されていたか、お金を抜き取られていないかどうか、不適切な金額の出金がないか、女性の親族に不適切にお金が渡っていないかなど、お金の動きをまとめておきましょう。
特に、高齢男性である本人の生活を蔑ろにするような(経済的な搾取と言えるような)お金の動きがあれば、離婚を認めてもらうための材料になりえます。
(3)離婚に必要な別居期間はどのくらい?
一般的に、離婚に必要な別居期間は、3年から5年とされます。
しかし、財産目当での婚姻の場合、婚姻当初から夫婦関係と呼べるほどの内実がなければ、それほど別居期間を経ていなくとも、離婚が認められる可能性は十分にあるでしょう。
また、最初の数ヶ月だけ夫婦のように過ごし、早い段階で別居に及んでいるケースでも、同居期間が短いことで、離婚のために必要な別居期間は短縮される方向に働きます。
妻側による経済的な搾取や、不合理な金銭管理があれば、それもまた、婚姻関係の破綻を基礎付けるものになりますので、離婚に必要な別居期間を短縮する方向に働くでしょう。
今回の弁護士からのアドバイス
財産目当での結婚被害の疑いが強い場合は・・・
☑️まずは遺言書の作成などを通じて、財産を保護する措置をとりましょう!本人が認知症などであれば、ご家族が成年後見の申し立てを行うことも有効です。
☑️婚姻が無効とされるケースは極めて稀です。ご本人が認知症などの精神障害にないのであれば、離婚に向けて準備を行うことをお勧めします!
☑️同居期間が極めて短かったり、財産を搾取されているような事情があれば、一般的に離婚に必要とされる別居期間(3年〜5年)がなくとも、離婚が認められる可能性はあります!
弁護士の本音
大変残念なことでありますが、財産目当てでの婚姻というのは時折見かけるところです。ただ、あからさまな「後妻業」というのは多くないと思われます。時折見かけるのは、今後の経済的な生活に悲観した、一定以上の年齢となった女性が、比較的裕福な高齢男性に近づいて、恋愛感情なしに婚姻届の提出にこぎつける、という形です。
そのような場合でも、実際に通常の婚姻生活が送られるのであれば良いのですが、経済的な搾取に近いような事態が起こると、以前からの家族としても、黙って見ておくことはできなくなるでしょう。
今回の記事が、そうした状況に陥った方にとって、解決の道標となりましたら幸いです。
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