当事務所にご相談に来られる方の中には、すでに離婚自体は成立しているものの、財産分与でもめてしまったために相談に来られる方もおられます。
そして、離婚後も自分の所有している自宅不動産に元配偶者が居住し続けているため、一刻も早く自宅不動産を返してもらいたいという相談も相当数あります。
そこで今回は、離婚成立後に自宅不動産を元配偶者から返してもらうための方法について説明します。
プロキオン法律事務所の弁護士の荒木です。離婚にあたっては、財産分与を行うことが一般的です。そして、自宅不動産であっても、それが特有財産(相続でもらったものや結婚前に持っていたもの)でない限りは、財産分与の対象となります。今回は、[…]
1 本人間の話し合いでの解決方法
出発点としては、やはり元配偶者との話し合いによる解決が考えられます。
話し合いの結果、自宅不動産をどちらが所有するか、そして、自宅不動産に現在居住している元配偶者がいつまでに出ていくかを取り決めることができれば、自宅不動産を返してもらうことができます。
もっとも、以下のリスクがあることは念頭においておきましょう。(公正証書で取り決めをした場合も同様です。)
- 取り決めが守られず、またズルズルと居座られてしまう可能性があること。
- 結局居座られてしまった場合に強制的に出ていかせるためには、複数の裁判手続きが必要になること(民事訴訟手続で明け渡しを認容してもらい、さらに強制執行手続きが必要になります。)。
話し合いでの解決方法は、元配偶者との間のある種の信頼関係、すなわち、約束をすればそれを守ってくれるという信頼関係がある場合に取るべき選択肢となります。
2 裁判所での手続きを利用した解決方法
本人間の話し合いで解決できない場合、裁判所を利用した解決方法を取る必要があります。
裁判所を利用した解決方法には、①調停手続、②審判手続の2種類がありますので、以下で順番にご紹介いたします。
①調停手続
調停手続は、裁判所を利用した話し合いの手続きです。財産分与調停は、離婚後2年以内に申し立てることが必要ですので注意しましょう。
調停委員という第三者を間に挟み、元配偶者と話し合いをすることになります。
第三者が関与することにより、元配偶者を説得することが可能になる場合もありますので、本人間での話し合いを継続するよりは、早期に調停手続きを申し立てた方が早く解決することは多いです。
そして、調停での話し合いの結果、元配偶者が自宅不動産からいつまでに出ていくという内容を合意できれば、裁判所という機関を利用した約束になりますので、その約束が守られる可能性は高くなります。また、合意ができた場合は強制的に追い出すことができる執行力もありますので、別途強制執行手続きをとる必要はありますが、強制的に解決が可能です。
もっとも、あくまで話し合いの手続きですので、元配偶者が自宅不動産を返すことを拒否し続けてしまえば解決できません。この場合、②の審判手続に移行することになります。
②審判手続
審判手続は、裁判所を利用した解決方法という意味では調停手続と同様ですが、こちらは裁判官が判断をする手続きですので、元配偶者との話し合いではないという違いがあります。
審判手続においては、双方が自身の主張を裁判所(裁判官)に対して行い、裁判官がその主張を踏まえて判断を下すという手続きになります。
このため、裁判官が自宅不動産の明渡しを元配偶者に対して命じるべきであると判断すれば、元配偶者の意思とは関係なく自宅不動産の明渡しが命じられます。
この場合も、元配偶者が裁判官から自宅不動産を返すように命じられたにもかかわらず居座っている場合には、別途強制執行という手続きを取ることができます。
もっとも、双方が自身の主張を裁判官に対して行うという関係上、裁判官が結論を出すまでに相当程度の期間が必要になります。
本人間の話し合い、調停手続、審判手続、という順番で解決を図っていた場合、最終的な解決までに、1年以上の長期間を要するということもあります。
このため、元配偶者が自宅に居座り続けることが想定される場合には、可能な限り早期に審判手続に移行してもらう方が、結果的に一番早く自宅不動産を返してもらうことができるでしょう(なお、最初から審判手続を申し立てることも可能ですが(調停と同様、離婚後2年以内に行う必要があります。)、裁判所の判断で調停から開始されてしまうことが多いです。)。
ところで、従前は、裁判所の審判手続を利用しても自宅不動産の明渡しまでは認められず、別途民事訴訟手続を行う必要があるのではないかという議論がありました。
しかし昨今、最高裁判所において、審判手続において自宅不動産の明渡しまで命じることができるという判断が出されたため(令和2年8月6日最高裁決定)、審判手続の重要性は増していると言えます。
まとめ
- 元配偶者が自宅不動産に居座る場合は、調停での解決を考えよう!
- 裁判所への申し立てが認められるのは離婚してから2年以内なので注意!
- 元配偶者の明け渡し拒否が続きそうな場合は、早期に審判手続に移行するよう裁判所に要請しよう!
今回は、離婚自体はすでに成立しているものの、財産分与の取り決めをしておらず、自分の所有している自宅不動産に元配偶者が居住し続けている方向けの記事となっています。
離婚が成立したにもかかわらず、また、自分が所有している建物であるにも関わらず、元配偶者が居住をし続けているという場合には、一刻も早く返してもらいたいと考えることは自然なことです。
しかし、これを実現するためには、複数ある選択肢のうちから最も有効なものを選択する必要があります。
今回の記事において、解決方法をご紹介させていただいたことにより、少しでも解決のために役立てば幸いです。