1 財産分与の原則
財産分与という制度については、皆さん、ご存知だと思います。
今の運用に基づいて言えば、別居時点の財産を2等分するという制度です。
実際には、別居時点の残高や評価額を一覧にして、全てを足し合わせて、計算上、各自の取り分が同額になるようにし、実際に多く持っている方が、少ない方に支払って帳尻を合わせる形をとります。
別居時点の財産を2等分するというのが原則なわけですが、実は、株式や投資信託については、少し状況が変わってくることはご存知でしょうか。
以下、説明します。
2 株式や投資信託は、別居時点ではなく直近の評価額が基準になる
銀行預金については、別居時の残高を計算の基準にすることで問題ありません。
しかし、株式や投資信託の評価額は、別居後もさまざまな推移をします。
別居時点に持っていた株式や投資信託の評価額が、別居後に上昇した場合、家庭裁判所の実務では、直近の評価額を財産分与の対象とすることが多いです。
つまり、別居後に買い増しをした部分については財産分与の対象から外れますが、別居時点ですでに存在する部分については、直近の評価額が基準になるのが基本です。
したがって、
財産分与の対象額 = 別居時点の株式数または口数 × 直近の株価または評価額
となるわけです。
これは、何も株式や投資信託に限らず、車や、不動産も同じです。
要するに、
・財産分与の対象 → 別居時点の財産
・その財産の評価 → 直近の時価評価
というわけです。
こうした裁判所の運用を前に、どのような対処を行うべきでしょうか。
3 別居後に株式や投資信託を現金化し、他の証券口座で資産運用を再開する方法
裁判所の運用に誰しも疑問を抱くのは、別居後も引き続きリスクをとって資産運用をした果実を、配偶者にも半分渡さないといけないという点でしょう。
そこで、一つの対策としては、株式や投資信託を売却し、現金化することです。もちろん、多くの含み益がある場合は、税金面の問題が生じますので、慎重に判断をするのが良いと思います。
現金化した資産については、他の証券口座で、再度運用に回しても良いでしょう。
その結果得られた運用益については、本人のみの判断と行動が介在していますので、配偶者と共同して築き上げたという評価がしづらく、分与対象になる可能性は低いと考えられます。
もちろん、現金化した時点の評価額は分与対象になりますので、その後運用に回して損失が生じた場合は、その不利益は全て自分で受け入れる必要があります。
なお、同じ証券口座で再度運用をすると、証券口座内でお金が動いているだけで、実質的には同居時から引き続き継続的に運用をしているとみなされやすいと思います。
また、別居後に新たに契約をした証券口座や銀行口座については、裁判所から開示を求められることはほぼないというのが、実際のところです。
<弁護士のホンネ>
リスクをとって資産を運用するという行動を、裁判所は過小評価しがちです。そのため、別居後の資産運用の成果を、同居もしていない配偶者に半分渡すことになりかねないわけです。
別居期間が短ければ良いのですが、例えば有責配偶者からの離婚請求が認められづらい運用がされていますので、最悪、10年ほどの別居期間が続くケースもあります。
その間、別居時点に保有していた株式や評価額は、2倍、3倍になっているケースもあるでしょう。年7%程度の利回りだと、10年で2倍になる計算になります。これは、最近の全世界株や米国株であれば現実的な水準です。
リスクをとった努力を公正に分配するという意味で、上記に挙げた方法は有効なものの一つと考えられます。