「私、結婚10年目になります。途中で事業を立ち上げ、事業財産を増やしてきたのですが、離婚する場合は事業財産も妻に分与しなければならないのでしょうか?」
プロキオン法律事務所東京事務所の弁護士の荒木です。
離婚のご相談に来られた方々の中には、ご自身で事業を経営しており、事業用の財産が多くあるという方もいらっしゃいます。
こうした事業用の財産(事業用の内部留保や車両、不動産など)も、離婚の時には財産分与の対象になるのだろうか・・・?とご不安になられているようです。
そこで、今回は、個人事業を経営している方に向けた、財産分与に関するアドバイスをさせていただきたいと考えています。
1 事業用の財産は財産分与の対象になるのか
法律上、個人の財産と、個人名義の事業用の財産は、原則として同じ人に帰属されているものとされます。
そのため、事業用の財産も、基本的には財産分与の対象とされる可能性があります。
もっとも、過去の裁判例では、事業用財産を無条件に財産分与の対象にしている訳ではありません。ケースによっては財産分与の対象外とされることもあるでしょう。
以下で説明しますので、ご確認ください。
2 要注意!こんな場合には財産分与の対象になるかも
個人事業に関する裁判例(平成25年9月仙台高等裁判所判決)があります。事業を配偶者と共に行なっていた事例で、事業用の財産も財産分与の対象になるとしています。
この事例で指摘されていたことは、
事業を配偶者と共に行っていたこと
事業用の預金口座と、個人の預金口座を明確に区別せずに財産管理を行っていたこと
事業用の土地を個人名義で購入・登記していたりしていたこと
でした。
つまり、事業用の財産と個人名義の財産が一緒くたになっていたことが重視されたのです。
この裁判例の着眼点は、あなたの事業用財産を守るために、調停や交渉でどのように主張するか考える際、大いに参考になるでしょう。
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3 事業用の財産が分与の対象になると主張された場合のチェックポイント
事業用財産も分与の対象とすべきだと主張された時、どのような主張を行うべきかのアドバイスをします。
(1) いつ取得したものなのか
財産分与は、原則として、婚姻時から別居(もしくは離婚)時までに取得した財産を分配するものです。
そのため、事業の財産の相当部分が婚姻前に形成された場合には、婚姻前に取得したものであり、財産分与の対象にならない旨を主張するようにしましょう。
(2) どのような経緯・元手で取得した財産なのか
上で述べたように、婚姻後に取得した財産は、原則として財産分与の対象になります。
しかし、過去の裁判例では、財産の取得時期自体は婚姻後であっても、財産が婚姻時から間もない時点で取得されていることや、財産を婚姻中に借り入れた金銭で購入したことを示す証拠がないことを理由に、財産分与の対象としなかった事例が存在しています。
婚姻後に取得した財産であっても、婚姻前から存在していた預金などを使って取得したものである場合には、その旨を主張するようにしましょう。
(3) 事業用の財産をどのように管理していたのか
事業用の財産と個人名義の財産の口座を明確に区別して管理をしている場合には、その旨を主張するべきです。
あまり明確でない場合は、遅くとも別居を開始するまでの間に、事業用の財産と個人の財産を明確に区別可能な方法で管理するようにしましょう。
(4) 事業の規模など
過去の裁判例(名古屋家審平成10年6月26日)では、裁判所が、経営している事業が一定の規模になっていることに着目して、法人の財産が財産分与の対象とならない旨を判断したものが存在しています。
事業の規模が大きい場合には、事業用の財産を個人の財産として扱うことが難しくなることを前提に判断しているとみられるため、事業の規模が大きい場合には、その旨を主張するようにしましょう。
まとめ
- 事業用財産でも、個人名義の財産と一緒くたになってしまうと財産分与の対象になり得ます。
- 財産分与の話し合いでは、①事業用財産が個人の財産とは別々に管理されていること、②事業用財産の出所がもともと婚姻前の財産であること、③事業が相当規模であればその旨を主張しましょう。

どのような財産が財産分与の対象となり、またはならないか、ということは、離婚の交渉において大きな意味を持つことになります。
財産分与で不当に損をしないためにも、主張をすべきことは主張をするようにしましょう。
判断が難しい場合には、弁護士に相談することも選択肢です。
この記事が皆様の離婚交渉の一助になれば幸いです。