お金は妻に管理させるな!その後の三つの不幸

 家庭の金銭管理のあり方は様々ありますが、日々法律相談を受けていると、お小遣い制の生活を強いられている夫が多いように思います。
 夫の稼ぎは全て妻が管理し、妻に稼ぎがある場合にはそれも妻が管理し、夫は妻から毎月決まったお小遣いの支給を受ける、という状況です。

 しかし、お小遣いの金額は驚くほど安いことが多く、実際に自由に自分のためにお金を使えている夫はほとんどいないのではないかと思われることもあります。
 また、夫の収入は年々上がっていっている場合でも、妻から支給されるお小遣いの金額は現状維持か、むしろ何かと理由を付けられて減額していく傾向にあることもよく見られます。

 妻がしっかりと将来を見据えて管理しているのであれば良いのですが、残念ながらそうとも限りません。

 いざ離婚の話し合いに至った際になって初めて妻による杜撰な金銭管理や謎の資産の喪失を知ることも大変多く見受けられます。

 今回は、妻を信用してお金の管理を委ねたことにより被る可能性がある3つの不幸について、説明します。

1 生活水準がおかしくなる→浪費、お金がなくなる

 これは実際にある話です。

 夫が稼いだお金は全て妻に行きます。
 他方、妻が稼いだお金はそのまま妻が管理します。
 そして、夫は低額のお小遣いのみで毎月の生活をしています。

 最初の頃は妻もしっかりと将来のために貯蓄をしていたかもしれませんが、人は案外弱いもの。
 理由を見つけては、すぐに楽な方、心地の良い方に流れがちです。
 辛いことがあったり、夫婦喧嘩をしたりした時に、妻はいつもよりもちょっとだけ贅沢なランチを食べ、欲しかったブランドもののバッグを買います。
 そして、一度覚えた贅沢は習慣になり、我慢の水準は徐々に下がっていき、その分徐々に(妻だけ)生活水準が上がっていきます。
 そのようにして、妻はその気になれば動かせるお金があることを良いことに、浪費する癖を覚えてしまい、ずるずると本来家の貯蓄になるはずのお金を使い込んでしまう。

 他方、夫は、少ないお小遣いに文句も言わず、将来のために節約して頑張っている。

 結局、将来のためにコツコツと節約して頑張っているのは夫だけであり、本来であれば相当貯まっていたはずの家の貯蓄はほとんどありませんでした。

 残念ながら、これはよくある話です。

 あなたは、しっかりと家の貯蓄の総額を把握していますか?
 把握していないのであれば、突然妻に聞いてみましょう。

 「そういえば、今、貯蓄の口座にいくらぐらい貯まっている?通帳見せて?」

 妻はすんなりと答えてくれましたでしょうか。
 もし妻が答えをはぐらかしたり、通帳を見せることを拒んだとしたら、危険信号です。
 妻があなたの知らないところで分不相応なお金の使い方をしており、その結果家族の貯金がなくなっているかもしれません。

 家計を全て妻に任せているということは、このようなリスクを負っているということです。

 もしあなたがちょっとでも不安に感じるのであれば、後の祭りになってしまう前に、妻から家の貯蓄口座及び家計の管理権を取り戻すことをお勧めします。

2 お金が移動されるリスク(現金化の場合、財産分与の対象にしづらい。お金の費消は不法行為にならない。)

 預貯金の財産分与の方法は、原則として別居時におけるそれぞれの名義口座の残高を基準として計算することとなります。

 しかし、財産分与の話し合いが預貯金の残高を巡って紛糾することがとても多いです。
 その理由は、預貯金は、容易かつ効果的に財産隠しができてしまうからです。
 例えば、離婚を決意した妻が、かなり前(1年以上前)から徐々に夫の口座や家族の貯蓄口座から現金を抜き出して別に貯蓄し、夫に秘密にしておいたとします。
 その場合、妻は夫が把握している口座の他に、秘密裏に多額の現金という資産を有していることとなります。
 しかし、夫はその事実を知りません。
 財産分与の話し合いの中で、妻から提出された預貯金の通帳を見て、ほとんど預貯金残高がないことを知って驚愕します。

 そのため、夫は、財産分与の審理の中で、預貯金口座の取引履歴を可能な限り遡って調べて、そこから不自然な出金の箇所を洗い出し、その理由を妻に問うこととなります。

 その結果、妻が、「そのお金は別に持っています」と白状すれば良いのですが、現実はそんなに甘くありません。
 妻は、「生活のために使った」「もう別居時には残っていなかった」などと言うでしょう。
 「生活のために使った」にしては、あまりにも高額の支出であったり、そもそも生活のための費用は別に夫が負担している場合であっても、妻は恥も外聞も無く、「生活のために使った」と言い続けます。

 それも、全て妻の当初からの計画の内です。

 その結果、結局のところ、妻が預貯金の他に夫の知らない秘密のタンス預金を別に持っているのか、それとも浪費してしまっていたのかは、真実は妻しか分からないという状況になります。

 そうなった場合、財産分与は別居時における財産を分け合う制度ですから、別居時にあるかどうかが分からない財産はないものとされてしまいます。
 また、浪費は通常不法行為にはなりませんので、家の貯金を使い込んだ妻に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることも困難です。

 つまり、妻は、本来であれば財産分与の対象となって夫と分け合わなければならなかったはずの金員を、まんまと自分だけのものとすることができてしまうのです。

 残念ながら、現在の家庭裁判実務の状況では、時間をかけて準備された場合には、預貯金の財産隠しを全て完全に追いかけることはほとんど不可能に近いです。

 家計を全て妻に任せているということは、このようなリスクを負っているということです。

 もし妻との関係が悪化しており、将来離婚の話になりそうであったり、妻があなたとの離婚を検討していそうであれば、後の祭りになってしまう前に、妻から家の貯蓄口座及び家計の管理権を取り戻すことをお勧めします。

3 別居直前に大きく引き出されるリスク

 別居には費用がかかりますし、別居後の生活費の不安もあります。
 しかし、家の資産を管理しているのは妻ですから、妻にはその気になればいつでも動かせる資金があります。
 つまり、妻は、その気になればいつでも別居を開始した上、別居後しばらくの間安定した生活を送れる状況にあるということです。

 そして、妻が別居直前に貯蓄口座やあなたの口座から多額の預貯金を引き出して別居を開始した場合は、どのような状況となるでしょうか。

 あなたは、ほとんど残高のない通帳を抱え、その月の住宅ローン・光熱費・クレジットカードの引き落としのために借金をしなければならない状況に陥ってしまう。

 しかし、妻は容赦無くあなたに対して婚姻費用(別居中の生活費)を請求してきます。
 妻は、弁護士を付けて婚姻費用分担請求調停を申し立ててくるかもしれません。

 婚姻費用分担請求調停において、あなたは妻に持ち出した預貯金の返還を求めますが、当然妻は返還しないでしょう。
 そして、妻は、返還しないままで、あなたに対して毎月の生活費の支払いを請求してくるのです。
 あなたはそんな理不尽が認められてなるものかと調停員に訴えますが、調停員は実務の通常の運用に形式的に則って、あなたにこのような説明をしてくるでしょう。
「婚姻費用は義務だから毎月支払わなければなりません。」
「妻が持ち出した預貯金は、婚姻費用とは別の話であり、財産分与の際に清算することになります。」

 家計を全て妻に任せているということは、このようなリスクを負っているということです。

 もし妻が別居を検討していそうであれば、もう残された猶予期間はあまりないかもしれませんので、後の祭りになってしまう前に、速やかに妻から家の貯蓄口座及び家計の管理権を取り戻すことをお勧めします。

まとめ

  • 妻にお金の管理を任せると、妻の金銭感覚がおかしくなるリスクがある!
  • 妻にお金を引き出されると、財産分与でも取り戻せないリスクがある!
  • 別居直前に妻に多額のお金を引き出された上、生活費も払わなければならないリスクがある!
  • 自分名義の口座は自分で管理するようにしよう!

弁護士の本音

弁護士荒木
弁護士のホンネ 

 財産分与の話し合いは、当事者の双方が正直に自分の名義の資産を開示し合えば、比較的速やかに終わります。
 しかし、残念ながら財産分与の話し合いが長期間紛糾する例が後を絶ちません。
 相手が明らかに資産隠しをしている場合には、隠された資産をできる限り見つけ出すために尽力しなければなりませんし、そのためには時間が必要となります。
 また、自分が資産隠しをしている人は、相手の資産隠しも疑ってかかります。
 そのようにして、財産分与の話し合いは紛糾して行きます。
 そして、話し合いが長引けば長引くほど経済的に損をするのは、婚姻費用の支払義務を負っている夫の方です。
 妻に家の貯蓄口座及び家計の管理権を握らせているという状況は、将来の離婚紛争という視点から見れば、極めて大きなリスクを負っているということです。このことは、何度でも申し上げておきたいと思います。

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