プロキオン法律事務所の弁護士青木です。
法律相談の際に、このような質問を受けることがあります。
確かに、自分名義の預金口座から他人が勝手に預金を引き出したわけですから、返還を求めたくなるのは当然です。
そこで今回は、
・別居時に勝手に引き出された預金は返すよう求められるのか。
・返すよう求められる場合と求められない場合の違いは何か。
・返還が認められない場合、どのように対処すれば良いのか。
についてお話ししていきます。
1 引き出された預金が特有財産なのか夫婦の共有財産なのか
まず、引き出された預金があなたの特有財産(固有の財産)なのか、それとも夫婦の共有財産なのかが問題になります。
夫婦双方が持っている財産は、以下の3点のどれかに当てはまらない限り夫婦の共有財産とみなされます。
①夫婦の一方が結婚前から持っていた財産
②結婚後であっても親族からの贈与、相続などによって取得した財産
③夫婦の合意により夫婦の一方のものとした財産
上記のうちどれかが当てはまる財産は、あなたの特有財産です。引き出された預金があなたの特有財産であれば法律上返還を求めることができます。
しかし、夫婦の共有財産であれば、特段の事情ない限り返還を求めることはできません。
2 夫婦の共有財産を持ち出したとしても返還を求めることはできない
あなた名義銀行口座の預金であっても、その預金が結婚中に形成されたという場合は夫婦の共有財産となります。
夫婦の共有財産は、夫婦間では夫婦双方に権利が認められます。
そのため、夫婦の一方が勝手に持ち出したとしても、特段の事情がない限り不法行為や不当利得(法律上の正当な理由がないので返還しなくてはいけないもの)にはなりません。
以下判例を紹介しますので、興味あれば参照してください。
・東京地裁平成4年8月26日
「婚姻関係が悪化して、夫婦の一方が別居決意して家を出る際、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出されたなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とならないものと解するのが相当である。」
・東京地裁平成27年12月25日
「夫婦の一方は、夫婦共有財産について、当事者間で協議がされるなど、具体的な権利内容が形成されない限り、相手方に主張することのできる具体的な権利を有しているものではないと解すべきであるから、被告が(…)婚姻費用の原告負担分を超える額を本件預金口座から払い戻したとしても、原告に具体的な損失が生じたということはできない。よって原告は被告に対し、不当利得に基づく返還請求をすることはでき(ない)。」
プロキオン法律事務所東京事務所の弁護士青木です。夫が別居したけど、家に残された私物はどうすればいいの?家具や家電は処分していいの?当事務所にはこのような相談がよくあります。私物の引き取りや共有財産である動産の分与などの動[…]
3 返還を求められない夫婦の共有財産はどう処理される?
このように、引き出された預金が共有財産である場合、特段事情ない限り返還求めることはできません。
しかし、だからといって持ち出したもの勝ちというわけではありません。
別居時に持ち出した預金については、離婚時の財産分与の対象となります。
つまり、あなたから妻(夫)に対し、持ち出した預金額の半額を財産分与として請求することができます。
このように、不法行為や不当利得ではなく、財産分与として処理されることになるのです。
ただし、財産分与で処理をするということは、離婚しなければ請求することはできないということに注意してください。
4 まとめ
ここまで銀行預金を例に説明してきましたが、基本的には預金以外の財産についても同様です。
別居時に持ち出された財産が特有財産であれば返還を請求することができます。
しかし、夫婦の共有財産であれば特段の事情ない限り返還を請求することはできず、財産分与として処理することになります。
ただし、何が特有財産で何が共有財産であるかの判断は難しいですし、特段の事情があるのかどうかの判断も必要になります。
別居の際に妻や夫に財産を持ち出されて困っている方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。
本文では持ち出された側から説明しましたが、持ち出す側にとっても難しい問題です。
自分名義の財産がほとんどない場合、別居後の生活を考えれば、たとえ相手名義の財産であってもある程度は持ち出さなくてはならない場合もあります。
しかし、その額や対象が不適当だと不法行為になってしまう可能性があります。
また、別居後に持ち出した財産をどの程度使っていいのかという問題もあります。
もし別居の際に財産を持ち出そうと考えているのであれば、事前に弁護士に相談しておかれた方が良いでしょう。