1.慰謝料よりも大事な財産分与!?
離婚の際に多くの男性が恐れる制度、財産分与。ある程度婚姻期間が長くなり、築き上げた財産が増えるほど、その心配は大きいでしょう。仮に自分が不貞をしてしまっても、慰謝料としては200万円から300万円程度に落ち着くことが多いです。一方で、この財産分与は、場合によっては1000万円単位のものになってきます。つまり、時として財産分与はそうした慰謝料よりもよっぽど気を使う必要があるのです。
2.「気付きにくい財産」とは?
財産分与に関して一番考えなければならないことは何でしょうか。
私は弁護士として数多くの離婚事件を手がけてきましたが、当初の想定とは異なる結果に終わることがまれにあります。それは、ご本人に「気付きにくい財産」がある場合です。そういう場合は、相手方から指摘されて初めて気づくこともあります。そこで、離婚について考えるときは、そもそも自分(または相手)にどんな財産があるのか。まずはそれを慎重に考えなければなりません。
それでは、こうした「気付きにくい財産」としてはどんなものがあるでしょうか。
それは、生命保険、住宅ローン、そして退職金です。
特に、退職金は忘れられがちな財産としてナンバー1とも言えるもので非常に大切なのですが、まずは一つ一つ見ていきましょう。
① 生命保険
一つは、生命保険ですね。
生命保険は、掛け捨てでなければ、解約することで解約返戻金が給付されます。この返戻金は、立派な財産ですから、財産分与の対象です。もちろん、実際に解約までする必要はなく、解約返戻金額を調べた上で、その分与割合に従った金額を渡すことになります。いわゆる医療保険といった類のものは返戻金がないようなものが多いです。一方、昨今では、公的年金があてにならない中、個人年金などの私的年金保険に加入されている方も多いのではないでしょうか。こうした個人年金も生命保険の一種で、解約すれば返戻金が発生します。もちろん、財産分与の対象になります。
解約返戻金が財産分与の対象になるとはいっても、決して、実際に解約までしないといけないわけではありません。ご自身にキャッシュがあれば、相手の権利相当額をキャッシュで支払えば良いわけです。不動産の分与の場合と同じですね。不動産についても、実際に自宅を物理的に真っ二つに分割するわけではありませんし、必ずしも売却を行う必要はありません。
② 住宅ローン
次に、住宅ローン。
ローンが財産?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、負債も、「マイナス」財産という、立派な(?)財産です。
通常は、他のプラス財産から、このマイナス部分を差し引いて、分与金額を算出していくことになります。この「差し引き」を忘れると、本来分与しなければならない金額よりも大きな額を分与してしまうことになりかねませんので、十分に注意したいところです。
ところで、中には、不動産の時価よりもローン額が大きければ、不動産もローンも分与対象にならないと勘違いをしている方(専門家を含む)もいらっしゃいますが、それは違います。ローン額の方が不動産の時価よりも大きければ、その差額を、他のプラス財産から差し引くことが可能です。
③ 退職金
そして、なんといっても、退職金!
退職金こそが、一番忘れられがちな財産です。
もし今退職したら、いくらの退職金がもらえるか。現在の裁判所の運用は、この「現在退職した場合に支給される可能性が高い退職金額」を分与対象となる財産とみなしています。
転職をしているので入社してまだ3年程度、というくらいであればいいのですが、大学卒業後にすぐ入社し、子供を設け、今に至るという場合、入社して10年以上経っていることが多いでしょう。そうした場合、退職金もバカにならない金額です。
もちろん、その退職金が丸ごと分割の対象になるわけではありません。
ここは注意しておきましょう。
あくまでも、婚姻期間に対応する部分のみが分与対象になります。
式にすると、
退職金×婚姻期間÷就職期間=夫婦の共有財産
となります。
上の式から算出された部分が、夫婦の共有財産です。
したがって、相手に渡さないといけないのは、上記共有部分のうち、さらに相手方の寄与分(通常は5割)にとどまります。
後から退職金があることに気づくと、戦略を大幅に変更しなければなくなったりします。
どのような財産をもっているのかを正確に把握した上で、離婚協議や調停に臨みましょう!
特に、自分が財産分与として金額を支払わなければならないとき、決して忘れてはなりません。皆様ご注意を。
交渉では、単なる駆け引きだけではなく、いかにこちらの考えが「正当」であるかも伝えます。ですので、基本的な内容をあとから変更というのは、原則としてできません。全ての財産が明らかである状況のもと、基本的な内容を提案しましょう。
途中で退職金が判明してしまうと、その退職金の一部を、これまでに提案してきた内容に「上乗せ」して提案することになってしまいます。つまり、最初から分かっていれば、それを前提に、こちらに都合の良い内容を提案できたのに、後から分かってしまった場合は、もはやそれが難しくなるということですね。