プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
さて、今回の事件簿は、不貞をした妻からの婚姻費用請求を制限し、有利な離婚条件を獲得するために奮闘した記録(修正を加えたもの)です。離婚やそれに伴う手続の流れがわかると思います。
1 妻に突然離婚を突きつけられた!でも納得ができない!
それには予兆がありました。
妻が携帯電話を常に手に持つようになり(お風呂に入る時も洗面所まで)、下着の好みも変わり、喧嘩っぱやくなったように感じて数ヶ月が経った時でした。
Rさんは、会社の営業職で仕事をしているサラリーマンです。福祉関係のパートと内職の仕事をしていた妻から、ある日、突然離婚を切り出されました。
まだ子供は3才。Rさんは到底納得ができません。
妻は、以前の出来事を持ち出して、「あの時は本当は妊娠したくなかったのにさせられた」「あれは今思うとD Vじゃないかと思っている」「子供に対してあの叱り方はあり得ない」など、かつては何も言われなかったことを列挙され、離婚したい理由として持ち出されました。
Rさんは、この数ヶ月間、妻の変質に不安を感じていました。Rさんは考えます。「なるほど、離婚したかったということか。でも、携帯電話を肌身離さず、下着の種類が変わったというのはどういうことだろう。もしや、不貞をしているのでは・・・」
妻に対しては、今度ちゃんと話をしようと述べておいて、翌日、探偵業者に予約を入れて調査をすることにしました。
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2 探偵業者に素行調査を依頼。妻の不貞が発覚!
探偵業者に対して依頼する際、ある程度「当たり」を付けて配偶者を尾行してもらうことになります。そうでなければ、費用が青天井になってしまうのです。
Rさんは、妻がパートの日も、パートがない日も、遅く帰ってくることはなかったように思いました。なので、むしろパートがない日の日中に、何かをしているのではないかと疑いました。
そこで、Rさんは、探偵業者に、2週間、妻のパートが無い日の午前から夕方にかけて尾行をしてもらうことをお願いしました。
2週間後、もらった調査報告書を見て、Rさんの手は震え、過呼吸となりました。
2週間のうち、同じ曜日(平日)の日の2回、Rさんの妻は保育園に子供を送った後、とある男性の自宅に行き、長時間を過ごしていることが判明しました。うち1回は、別々にその男性宅を出て、隣の県の繁華街で再び合流し、デートを楽しんでいる様子でした。
状況は明らかでした。妻は不貞をしている。不貞相手はRさんの知らない人でしたが、探偵業者の調べで氏名は分かりました。
翌日、Rさんはさらに証拠を確実なものにするため、録音器具を妻のバッグに入れて、録音内容を確認しました。Rさんは生まれて初めての衝撃を受けました。そこには、不貞行為そのものの様子が録音されてたのです。
3 妻は子供を連れ去って別居!住居先もわからず、子供にも会えない日々
Rさんは、その夜、子供が寝た後に、妻に正面切って言いました。
「離婚したいと言っていたのは、この人と一緒になりたいからでしょ?」
探偵業者の撮影した男性の写真を示しながら言いました。
妻は言いました。「あなたと離婚したくて、この人に相談に乗ってもらっていただけ!」「こうやって言いがかりを付けてくるのがDVなんだよ!そんなこともわからないの?」
Rさんは冷静に言います。「不貞行為をしている様子も記録にとってるよ。まだ嘘をつくの?」
妻は激昂しました。「何やったの?録音!プライバシー侵害!!これで完全にあなたのDVが証明されたね!絶対に許さないよ」
結局、話し合いにならず、夫婦の関係はさらに悪化しました。
その週の金曜日の夜、Rさんが自宅に帰ると、妻と子供はいませんでした。どうやら、妻は一方的に子供を連れて別居を強行したようです。大きな荷物はほとんど残したままでした。
Rさんは妻の居場所がわからず、子供と会うこともできません。妻と子供の住所を確認しようと役所に行きましたが、妻と子供の住民票は閲覧できませんでした。
これは、妻が住民票の閲覧制限の申請をしたためです。
身分証明書を持参して役所の窓口に行き、「支援措置申出書」を提出し、「ドメスティック・バイオレンスの被害者であり、暴力により生命及び身体に危害を受けるおそれがある」と判断されれば、住民票の閲覧制限が認められます。この判断を受けるため、多くの場合、妻側が警察署や役所の女性福祉課などで相談をし、DV被害に関する相談結果を記録として残すことを行います。
Rさんの妻は、Rさんから不貞の証拠を突きつけられた後に、慌てて役所の福祉課に行って相談を行い、DVを受けていた旨の申告を行ったようです。そして、役所に「支援措置申出書」を提出し、住民票の閲覧をできなくさせたわけです。なお、こうした相談の際に証拠を提示する必要性はありません。よほどのことがなければ、支援措置も認められます。
こうして、子供の居場所もわからず途方に暮れたRさんは、弁護士(つまり、私たちのことです。)に相談をしに来られました。
Rさんはいいます。「正直、もはや妻のことはどうでも良いです。ただ、私も精神的にとても苦痛を受けましたから、償ってもらいたいと思います。お金でしか解決できないのであれば、慰謝料を請求したいです。また、子供にも会いたいと思っています。でも、離婚に応じる気はありません。」
弁護士は答えます。「慰謝料の請求は認められるでしょう。ただ、まずは不貞相手に対して請求する方向でどうでしょうか。奥さんは、今後必ず離婚を求めて手続きを開始してくると思います。離婚に応じる対価として、後から慰謝料を請求することはできますので、まずは不貞相手に請求した方が、もらえる総額も大きくなると思います。奥さんから先に慰謝料をもらうと、奥さんと不貞相手は連帯責任なので、不貞相手からもらえる金額はほとんどなくなりますので。」
Rさんはいいます。「わかりました。不貞相手の住所と名前は探偵業者が調べていますので、請求をお願いします。子供との面会はどうなりそうですか?」
弁護士は答えます。「面会交流の調停を行いましょう。ただ、奥さんの住所地がわからないのが難点です。郵便物の転送設定をしていれば、手続きは可能です。一方で、奥さんも、まもなく生活費の請求、つまり婚姻費用の請求を求めて調停を申し立ててくると思いますよ。その際に面会交流の調停を申立し返しましょう。それで手続きの実施が可能です。」
Rさん「わかりました。その方向でお願いします。」
4 妻から離婚と婚姻費用請求の調停を申し立てられる!
弁護士は不貞相手に対して慰謝料請求を求める内容証明郵便を送付しました。そして、通知書を送付してから2週間ほどして、不貞相手にも弁護士がつきました。不貞相手は事実関係を認め、金額交渉が開始しました。
一方、Rさんは、予想通り、妻から婚姻費用の請求の調停を申し立てられました。また、併せて離婚調停(夫婦関係調整調停)も申し立てられました。
Rさんの元に裁判所から送付されてきた書類の中に、妻が作成した申立書の副本が入っていました。妻の住所の欄には、別居前のRさんの自宅が記載されています。やはり、自分の住所地は隠しているようです。これ以上の不貞の証拠を取られたくないという気持ちもあるのでしょう。また、「期日通知書」が同封されており、そこに調停が行われる日時や待合室の場所、裁判所の連絡先となる電話番号などが記載されています。
Rさんはいいます。「やはり、先生のおっしゃる通り、妻は婚姻費用を申し立ててきましたね。自ら不貞をしておきながら、生活費をよこせというのは道徳的にどうなんですか?」
弁護士は答えます。「道徳的な問題は人により色々意見があると思いますが、もちろんお気持ちはよく理解できます。また、最近の裁判所は、不貞をした妻からの婚姻費用請求があった場合、養育費分は払わないといけないとしても、妻固有の生活費分は払わなくて良いとする判断が多いです。その方向で戦いましょう。これが認められると、今後の離婚交渉で強く出られますよ。」
Rさん「どういうことですか?」
弁護士「婚姻費用が、養育費分だけで済むのであれば、離婚前と離婚後で、こちらが毎月支払う金額が変わらなくなります。もし婚姻費用に妻側の生活費分も含まれると、離婚前の方が金額が大きくなりますから、こちらは早く離婚をしたいというインセンティブが働きます。そうすると、先方の出方次第では、慰謝料の請求ができないどころか、下手をしたらこちらが離婚を早めるために、解決金などの名目で一定の金額を支払わざるを得なくなる恐れがあります。」
Rさん「不貞をして裏切った人に、逆にお金を支払うということですか!?それは恐ろしいです。先生、なんとかお願いします。」
弁護士「最善を尽くします。」
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5 調停手続で激しく対立
不貞をした配偶者から婚姻費用の請求をされた際、養育費額分以外は支払わない主張をしましょう。それが、その後の離婚の問題に進む際、結論を大きく左右することになります。
「養育費額分(子供の生活費分)以外は支払わない」という計算については、2通りの考え方があります。
①養育費算定表の「養育費」それ自体とする方法
②養育費算定表の「婚姻費用」から、子供の生活費指数分のみの割合を支払う方法
②は、例えば婚姻費用が10万円であれば、子供の生活費指数分のみ(具体的には、15歳未満の子供が一人であれば、上記10万円から、62/(100+62)を掛け合わせることになります(大人の指数は100であるのに対し、子供は62とされています。)。そうすると、金額としては婚姻費用の半額以下になりますので、普通に養育費それ自体を計算する①よりも、金額を低く抑えることが可能です。どちらが採用されるかは、担当裁判官の判断によります。
Rさんと弁護士は、「期日通知書」に記載されていた日時の調停にのぞみました。もちろん、こちら側から面会交流調停も申し立て済みです。そのため、①婚姻費用調停、②夫婦関係調整調停(離婚調停)、そして③面会交流調停の3つが同時に行われることになりました。
調停は、1ヶ月または1ヶ月半に1回の頻度で、1回あたり2時間程度で行われます。指定された時間に、裁判所の待合室でRさんと弁護士は待ち合わせをしました(待合室は複数あり、相手と顔を合わさないように工夫されています。)。そして調停に臨みます。
調停では、調停委員さん(基本的には熟年男女2人のペア)のいる部屋に、申立人と相手方が別々に入って話をしていきます。申立人と相手方が顔を合わすことは基本的にありません。
婚姻費用について、Rさんと弁護士は、調停委員に対して、上記②の方法で計算された子供の生活費分は支払うが、それ以上は断固として支払わない姿勢を示しました。先方も弁護士と一緒に調停に参加をしたようで、婚姻費用満額の要求をしてきました。
一方で、離婚については、Rさんは当面応じるつもりはない旨を述べ、話し合いは一旦棚上げとなります。
面会交流については、妻側は当初は消極的ではありましたが、離婚を進まないことを警戒したのでしょう。第三者機関(子供の引き渡しなどを斡旋してくれる公益団体)を通じてであれば、実施する用意がある旨の回答をしました。
こうして、調停が3回(期間としては約5ヶ月)が行われた結果、面会交流については、第三者機関を使って調整を行うことで合意となった一方で、離婚調停は不成立となりました。また、婚姻費用については裁判所が判断する審判手続に移行することになりました。
同じ調停手続といっても、話し合いがまとまらない場合の帰趨は以下のように異なります。
・離婚調停の不成立→終了。離婚をしたい側は、離婚訴訟を別途提起する必要がある。
・婚姻費用調停の不成立→審判手続に自動的に移行。裁判官が婚姻費用額を決定する。
・面会交流調停の不成立→審判手続に自動的に移行。裁判官が面会交流の条件を決定する。
6 婚姻費用→家裁で敗訴、高裁で勝訴。
婚姻費用調停が不成立になったため、その審理と決定は裁判官が行うことになりました。
弁護士は、それぞれ、調停時に主張した内容をまとめた書面を提出し、裁判官がそれに基づいて判断を下すことになります。
Rさんの弁護士は、今回の担当裁判官に少し不安を感じていました。というのは、Rさんの弁護士は、何度もその裁判官が担当する調停や審判に参加をしていたことがあったのですが、その度に、同じ裁判官から、「?」と思う発言や決定を下された経験があったからです。
Rさんの弁護士はいいます。「今回の裁判官は、ちょっとクセのある人だと思います。必ずしも私たちが望む判断をしてくれるとは限りません。その場合は、不当に支払うことになった婚姻費用額を、離婚訴訟の際に財産分与手続で取り戻す主張をする道があります。しかし、そうした先例は乏しいです。もし、今回の裁判官の決定に不満がある場合は、高裁に異議の申立て(即時抗告)をするのが良いと思います。」
Rさん「わかりました。私も、調停中に裁判官と話をした際、少し先方よりの姿勢だったのが気になってました。主張が認められない場合は高裁に異議の申立をお願いします。」
そして、婚姻費用について、家裁の判断が下りました。結果は、婚姻費用を満額認めるというものでした。裁判官は、妻に不貞行為があった事実を認めたものの、Rさんが離婚を争っていることも重視しました。そして、婚姻関係は未だ破綻していないため、Rさんは妻を扶養する義務があると述べました。
Rさんはいいます。「どんな不当な判断であっても、理屈を並べることはできるものなんですね。」
弁護士は答えます。「そうですね、理由というものを、多くの人が尊重していると思います。しかし、どんな結論も、理由をつけることなんていくらでもできるんです。だからこそ、裁判所によって判断が異なる場合があるんです。大事なのは、やはり結果としてその判断が腑に落ちるかどうかです。腑に落ちないのであれば、やはり間違っている可能性は十分にあります。」
Rさんもうなずきます。「不貞をした側なのに、逆にお金を余計にもらって離婚できる結果になりかねないですよね。婚姻費用が満額認められれば、私は離婚を選択するしかないし、離婚を急がざるを得なくなります。それに、慰謝料を請求できるどころか、逆にお金を払わざるを得なくなる可能性すらありますよね。到底腑に落ちないです。」
弁護士はいいます。「私も同じ考えです。高裁に即時抗告をしましょう。」
Rさんと弁護士は高等裁判所に即時抗告をしました。即時抗告は、婚姻費用に関する家庭裁判所の決定書を受け取ってから2週間以内に行う必要があります。それを行うと、今度は高等裁判所の裁判官たち(3名で構成)が判断を下すことになります。
3ヶ月ほどの書面の提出のやり取りを経て、判断が下されました。今回の判断も、裁判所の決定を受け取る形で知らされます。
結果は、逆転勝訴でした。婚姻費用は、養育費相当額にとどめるべき旨の内容でした。高裁の裁判官たちは、妻の不貞行為の事実を認め、そのような配偶者への裏切りを行った者からの婚姻費用請求は、養育費を超える部分について、権利の濫用として認められない旨を述べました。
Rさんはいいます。「先生を信じて良かったです。私だけであれば、調停の段階で、調停委員や裁判官の意見に押されて、婚姻費用を全額飲んで終わっていたと思います。諦めないで良かったです。」
弁護士は答えます。「いえ、最終的にはRさんの覚悟と決断があったからですよ。とはいえ、戦いはまだ続きます。これから先方が離婚訴訟を提起してくるかもしれません。」
Rさんは質問をします。「妻はこれで有責配偶者であることが決まったわけですから、訴訟を提起しても認められないのではないですか?」
弁護士「もちろん、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。しかし、裁判の中で和解して解決をするために、訴訟を提起してくるケースはあるんですよ。有責配偶者は、立場上、もはや失うものがありませんから、ダメもとで様々なアクションを起こしてくる可能性があります。」
実際、離婚裁判となっても、和解で解決に至るケースが半分を占めます。そのため、有責配偶者であっても、和解での解決を念頭に訴訟を提起するという対応を行う場合があります。
そして、Rさんの配偶者も、和解での解決を念頭に、離婚訴訟を提起してきました。
また、同じ時期、Rさんは妻の不貞相手と示談に成功し、200万円の慰謝料を受け取ることになりました。
7 妻による離婚請求。家裁で審理開始!
Rさん「慰謝料の件はありがとうございました。しかし、やはり先生のおっしゃる通り、妻は裁判にしてきましたね。とはいえ、私は今の時点では到底和解に応じるつもりはありません。財産分与でお金を渡さないといけないだけですし、得することはありませんから。」
弁護士「そうですね。婚姻費用額も抑えられてますから、ある程度強気で臨んで良いと思います。まずはRさんのお気持ちを優先して、離婚請求を棄却してもらう方向で進めたいと思います。」
Rさんの妻は、訴状で、こちらの暴言などを理由に婚姻関係が破綻したと主張していました。不貞はあるものの、それ以前から夫婦関係は終わっっていたという主張です。そして、証拠として、Rさんの怒り声が記録された録音が提出されました。
Rさんはいいます。「喧嘩をしていた際、まさか録音されていたとは、驚きました。どうも妻が喧嘩っ早くなって、不自然だなあとは思っていましたが。」
弁護士「私も、相手の提出した録音を聞きました。Rさんが怒り出したところで録音が開始したように聞こえるものがありました。この時どんなことがあったんですか?」
Rさんはいいます。「実は、この録音がされる直前、彼女は私に唾を吐いたんです。それで私も怒って大きな声を出してしまったんですが、これ、録音して証拠を作るためだったんですね。ちょっとショックで言葉もありません。」
弁護士「夫の暴言を証拠として作り上げる際の、一つの方法です。怒らせて暴言を吐かせて録音するというパターンですね。とはいえ、唾を吐いてまで怒らせるというのはかなり悪質ですね。そこはきちんと反論をした方が良さそうです。婚姻関係が悪化した理由にこちらの暴言などのモラハラがあった場合、離婚が認められる可能性も出てきますので。」
ところで、訴訟は基本的に弁護士のみが参加をします。
初回は、裁判所の法廷に、指定された時間に出席します。口頭弁論期日といい、公開手続(傍聴が可能)です。しかし、通常は、次の順番まちの弁護士たちが座っているだけの場合がほとんどです。傍聴人がいない場合も多いです。
そして、手続きは1ヶ月または1ヶ月半に1回程度の頻度で行われます。2回目以降は、裁判所へ赴く必要がない、電話参加が可能な弁論準備期日に移行することも多いです。
今回も、2回目の期日からは双方の弁護士が電話で参加する形となりました。
そして、双方が書面を提出し合い、期日が5回ほど行われた後、裁判官を通じて、和解の話し合いが打診されました。
8 和解で有利な条件で解決!
弁護士はいいます。「予想通り、相手が和解での解決を打診してきました。財産分与と養育費を支払うことを求められています。今のお気持ちをお聞かせくださいますか?」
Rさんはいいます。「私も、当初は徹底的に争って、可能な限り離婚を先延ばしにする方向で考えていましたが、今は条件次第では応じても良いかなと思い始めています。というのは、結局、今離婚を先延ばしにしても、いずれまた離婚条件を話し合わないといけない時が来るんですよね?もちろん、良い条件でないのであれば、離婚は先延ばしで良いですが。」
弁護士は答えます。「そうですね、有責配偶者であっても、8年から10年の別居期間を経れば、離婚訴訟の提起で離婚に持っていくことができます。その時に改めて離婚条件を話し合うことにはなりますね。条件次第での離婚ということであれば、一つ提案があります。」
Rさんは聞きます。「どんなものですか?」
弁護士「本来、Rさんは10年間、財産分与を先延ばしにできたはずです。つまり、その間、Rさんは財産分与に充てる資産を運用して、10年後に膨らんだお金の中から財産分与額を捻出して渡すことができたわけです。それと同等の経済的利益をこちらが受けられるのであれば、離婚に応じるという方向性はどうでしょう?」
Rさんは答えます。「面白いですね。私も最近はNISAやiDecoの利用を始めて資産運用を始めたところです。財産分与に回す予定のまとまったお金を、本当は証券会社にでも移したい気持ちでした。」
弁護士「Rさんの金融資産は1000万円くらいですよね。そうすると、財産分与として渡すお金は、大体500万円くらいです。もし10年の運用で1.5倍になれば、Rさんは、1500万円のうち500万円を渡すことになりますから、実質的に痛みはないですね。まずはそんなところを説明して財産分与ゼロを主張してみましょう。もちろん、先方はすぐには応じないと思いますが、交渉の余地が出てくると思います。」
その後、3回程度の期日が、和解条件の話し合いにあてられました。Rさんの弁護士は、財産分与が10年後であれば、Rさんは資産運用によりこれだけの利益を享受できること、今の時点で離婚して財産分与をするのであればRさんには得することがないため、財産分与をするのであれば離婚に応じるのは困難である旨を説明しました。
妻側の弁護士はいいます。「有責配偶者からの離婚請求であったとしても、10年ではなく、7年程度の別居でも離婚ができることのあります。500万円の財産分与の受け取りを諦められるはずがないです。多少の減額なら考えられますが。」
Rさんの弁護士は答えます。「7年でも資産運用には結果が出ますよ。また、慰謝料の件も忘れないでください。確かにRさんは不貞相手から200万円の慰謝料をもらいましたが、妻にも慰謝料が発生するはずです。そうした点を考慮すれば、500万円を放棄して離婚するのは十分に合理的だと思いますよ。」
その後、Rさんと弁護士の打ち合わせの中で、Rさんは100万円程度であれば支払っても良い旨の意向を示しました。Rさんはいいます。「まあ、財産分与として何も渡さないというのも忍びないので、100万円程度であれば妻に渡して良いと思います。本来500万円を渡す必要があることを考えれば、全然良いのかもしれません。」
弁護士は答えます。「そうですね、慰謝料として追加でもらえるのはせいぜい100万円程度かもしれませんから、本来は400万円を支払う必要がありますね。300万円の値下げができたのであれば、十分かもしれませんね。わかりました。100万円の支払いを打診してみます。」
そして、和解の話し合いで、Rさんから財産分与として100万円を支払う形で離婚条件がまとまりました。
Rさんはいいます。「まとめてくださってありがとうございます。実は、100万円渡すのは、子供のためということも考えていました。別居以降、なんとか子供とは会えているものの、やはり子供が不自由なく生活できるかは不安なんですよね。」
弁護士は答えます。「奥様への怒りの気持ちと、お子様への思いとの間の葛藤ですね。とてもよくわかります。調停が始まって裁判で解決するまでの間、いろいろな葛藤と、お気持ちの整理をされていたことと思います。弁護士に話していただいたこと以外にも、いろいろ思うところはあったことでしょう。今回、納得できる条件での離婚が達成できたことと思います。次は、ぜひ、Rさんご自身のために、人生を有意義なものにしていただきたいと思います。」
Rさん「ありがとうございます。内容が明らかになるにつれて、大変ショッキングなこともありました。そして、いろいろな葛藤がありました。でも、時間をかけて、そして有意義なアドバイスももらえたおかげで、最後には納得できる結果になりました。とても感謝しています。もし、周りに離婚問題で悩んでいる方がいれば、プロキオンさんを紹介しますよ(笑)」
弁護士「それは何卒、よろしくお願いします!(笑)」
弁護士の本音
今回は、私たちが経験をしてきた事件や裁判での対応、最近の社会動向をもとに、内容をミックスさせて一つのストーリーの形にしました。
不貞をした妻からの婚姻費用請求は実際に多く行われており、私たちも、それを防止した経験を豊富に持っています。婚姻費用が満額認められてしまえば、妻は不貞をしたにも関わらず、有利な条件で離婚に持ち込むことができてしまいます。それは絶対に許されないことと思います。
今回は、離婚問題の始まりから、調停・審判・裁判に至る帰趨も含めて、一つの物語の形にしてみました。これにより、手続きの流れが明瞭にご理解いただけると思います。
今回の記事が皆様の離婚問題の参考になりましたら幸いです。また、当事務所では離婚問題に関する無料相談を実施しておりますので、お悩みの方はお気軽に相談をお申し込みいただければと思います。
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