
プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、妻側が離婚交渉をする中で、婚姻費用をもらい続ける方が良いのか、それとも、財産分与を受け取って早期に離婚するのが良いのか、その判断のポイントをお伝えできればと思います。また、その一つとして、資産運用という観点をご紹介します。
1 婚姻費用をもらい続ける戦略とは?
多くの場合、別居をした夫婦は、妻側の方が収入が低いです。そのため、妻は夫に対して自らの生活費(子供がいる場合は養育費分も含めた金額)である婚姻費用を請求できます。
一方で、離婚をした後は、妻は自分の生活費を夫に請求することは、当然にできなくなります。
したがって、妻は、離婚をすることで毎月一定額の生活費をもらう権利を失うわけです。これが、妻としてはすぐには離婚に応じられない大きな理由です。
こうした構造の中、離婚交渉や離婚調停において、どうしても離婚をしたい夫としては、妻に対して、本来渡すべき財産分与のほかに、「解決金」という名目の、実態は手切れ金のようなものを支払うのが、一般的な光景となっています。
しかし、こうした解決金を支払うのはどうしても納得がいかないという夫も多いです。その場合は、妻としては、離婚を先延ばしにして、その間婚姻費用をもらい続ける選択に魅力を感じることになります。なぜなら、その後数年後に離婚する場合に、財産分与は離婚時に別途もらうことができるからです。したがって、「婚姻費用をもらい続ける戦略」は、交渉力学上、とても合理的とも思えます。
ただ、財産分与としてまとまったお金を受け取れるのは、あくまでも離婚時です。そして、財産分与の金額次第では、早期離婚により早い段階で財産分与を受け取るメリットの方が、大きいかもしれません。
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2 財産分与を受け取って早期離婚した方が得の場合も!?資産運用の観点
時間をかけて離婚をするか、早期離婚をするか、経済的なところを考えると、前者の方が得かもしれません。しかし、財産分与額を早くもらって運用に回した方が得かどうか、という観点も考慮に入れると、必ずしも判断は容易ではありません。
具体的に検討してみましょう。
(1)基本的な考え方
婚姻費用については、双方の収入額に応じて金額が決められることが通常です。そして、婚姻費用額は、現在裁判所で使われている、養育費・婚姻費用算定表(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)に当てはめて決定されることになります。
ここでは、話を単純化するために、夫の収入が700万円(正社員)、妻の収入が300万円のケースを考えます。
その場合、離婚をしなければ、妻は別居中でも、夫から、毎月6万円の婚姻費用をもらうことが可能です。年間ベースで72万円です。
一方、離婚をした場合は、妻は生活費をもらえなくなります。したがって、以下の表のように、一旦は整理が可能です。
A.離婚は数年先→月額6万円(数年間)+離婚時に財産分与
B.すぐに離婚 →離婚時に財産分与
差額・・・数年間毎月6万円
⇨離婚するメリットは乏しい??
一見、妻にとっては明らかに離婚するメリットはなく、離婚を先延ばしにするのが望ましいようにも思えます。
もっと具体的に、比較的富裕な夫婦のケースで、財産分与として1000万円をもらえる場合を想定します。
その場合、早期離婚の場合でも、5年後10年後の離婚の場合でも、もらえる財産分与額は1000万円と変わりません。そうであれば、やはりできるだけ後ろ倒しにするという選択が魅力的に映るでしょう。(もちろん、妻自身の再婚の可能性もあれば、早期離婚が得策になるかもしれませんが、ここでは経済的な損得を中心に説明します。)
・得られる金額 1000万円
<5年後離婚の場合>
・得られる金額 72万円(年間婚姻費用)×5年+1000万円=1360万円
<10年後離婚の場合>
・得られる金額 72万円(年間婚姻費用)×10年+1000万円=1720万円
明らかに離婚は先延ばしの方が良さそうに思えます。
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(2)「資産運用」という観点を考慮に入れると・・・
しかし、ここで、「運用に回す」という観点を取り入れてみましょう。
つまり、早期離婚により、すぐに1000万円の財産分与額をもらい、運用に回すケースです。
昨今は新NISAの登場も相まって、日本人の金融資産が運用に回される傾向が強まっています。したがって、運用に回すという観点は、今後徐々に重要になっていくように思います。
どんな運用に回すかは各人によって異なりますし、リスクもあります。もっとも、例えば全世界や米国のインデックス投資であれば、長期で見ると年5%から8%の右肩上がりであることはデータにより示されています(これらの投資先は新NISAの積立枠の対象でもあります。)。
そこで、財産分与額1000万円をネット証券で米国株式インデックスに連動した投資信託で運用すると仮定し、利回りを年率7パーセント程度と設定してシミュレーションをしてみます。
・5年間
(三菱UFJアセットマネジメントHPの一括投資シミュレーション結果を抜粋)
さて、どうでしょうか。もちろん、実際には振れ幅(いわゆる「リスク」)があるので、このような綺麗な右肩あがりにはなりませんが、平均を取れば上記のような上がり方を期待することができます。投資元本1000万円は、5年後に1400万円程度を期待できることになります。
・10年間
(三菱UFJアセットマネジメントHPの一括投資シミュレーション結果を抜粋)
相手が有責配偶者であれば、その気になれば10年間近く別居を続け、婚姻費用をもらい続けることも可能です。
もっとも、資産運用という点では、上記の期待利回りを前提とすると、10年間の運用で、元本1000万円は、1967万円と、約2倍になります。これは、10年間別居をするのではなく、すぐに離婚をして受け取った財産分与額を10年間運用した場合に期待される金額です。
もちろん、運用といっても投資ですから、実際には年によって大きく下がることもありますし、想定する期待利回り次第でシミュレーション結果も異なります。しかし、現在の新NISAでも特に人気で手堅いとされる米国インデックスの平均利回り7パーセントを前提とした場合、上記のようなシミュレーションが成立するのも事実です。
それでは、この結果をさっきの表に反映してみましょう。
・得られる金額 5年後:1400万円、10年後:1967万円
<5年後離婚の場合>
・得られる金額 72万円(年間婚姻費用)×5年+1000万円=1360万円
<10年後離婚の場合>
・得られる金額 72万円(年間婚姻費用)×10年+1000万円=1720万円
先ほどのシミュレーション結果を反映すると、早期離婚をする選択が有力になりそうです。
もちろん、この結果は期待利回りに基づく計算ですので、この通りになることが保証されているわけではありません。期待利回りを何パーセントに設定するかによっても、計算結果は変わります。ただし、長期間の過去の平均的なデータをもとに合理的に計算をすれば、以上のような計算になることは、十分に考慮に値するものと思います。
なお、今回は経済的利益の観点から、婚姻費用をもらい続けるか、早期離婚に応じるかの話をしましたが、実際には、自分の再婚可能性など、他の観点も大切です。慎重に検討をしていきましょう。
今回の弁護士からのアドバイス
婚姻費用をもらい続けるか、離婚に応じて財産分与をもらうかについては、、、
☑️早期に財産分与額を受け取って資産運用に回す視点も持ってみましょう!
☑️ただし期待利回りの設定により計算結果は変わるため、慎重に判断をしましょう!
☑️経済的な損得だけでなく、自分の再婚可能性など、他の要素も検討しましょう!
弁護士のホンネ

これまで、日本の中間層では資産運用が一般的ではありませんでしたので、本文で載せたような観点で、離婚に応じるか、婚姻費用をもらい続けるかの判断をする人は少なかったと思います。しかし、貯蓄から投資への流れの中(この流れは少子高齢化社会においてはもはや避けて通れない流れです。)、新NISA制度の始動とともに、資産運用の観点は欠かせない視点になってくると思います。
今回の記事の内容は、人によっては経済的な利得に大きく関わるものだと思います。離婚に応じるか、婚姻費用をもらい続けるか、そうした帰路に立っている方は、資産運用という視点もありうることを念頭に、問題解決に当たっていただくと良いかもしれません。
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