面会交流を不当に拒否されたら。慰謝料の請求も検討しよう!

弁護士

プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

今回は、面会交流を拒否された場合に、配偶者(または元配偶者)に対して慰謝料請求ができるかどうか、できるとしてどの程度の金額が認められるのかについて、お話しします。

1 面会交流を拒否された場合の対応方法

面会交流制度には裁判所の権限の点で大きな不備があり、実際には子供を監護している配偶者(または元配偶者)の任意の協力がなければ実施ができません。これについては、以下の記事をご参照いただければと思います。

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上の記事でも紹介しましたが、面会交流の取り決めを行うのに、数年単位の時間がかかるケースも多くあります。その間、試験的に面会が行われる場合もありますが、「きちんと条件が決まるまでは会わせられない」という、曖昧な理由で面会を拒否されることも多いです。そして、ようやく面会交流の取り決めが調停や審判で決まったとしても、1、2回実施されただけで、その後実施されなくなるという場合もあります。

そこで、ようやく面会交流の条件が定められたとしても、配偶者が面会交流の取り決めに従わない場合は、以下の方法を取ることが考えられます。

①履行勧告の申し出
②間接強制の申立て
③慰謝料請求

①は、調停や審判をしてくれた裁判所に対して、その裁判所で決まった内容を配偶者が守ってくれないとして、働きかけを行うよう求めるものです。裁判所は、配偶者に対して、書面や電話などの方法を使って、決められた内容を守るよう試みてくれます。ただし、裁判所の対応に強制力はありませんので、配偶者が無視を決め込んでしまえば実効性がありません。

②は、配偶者が裁判所で定められた条件を守らない場合に、過料の制裁を課すよう申し立てるものです。配偶者は、決められた内容を守らないごとに一定の金額を支払わなくてはならなくなります。間接的な形で強制をするものなので、「間接強制」と呼ばれています。

とはいえ、裁判所で取り決めを行ったとしても、全ての場合で間接強制ができるわけではありません。いつ(毎月第何曜日の何時)、どこで(JR○○駅の改札口など)という細かい取り決めがなければ、間接強制は認められません。そして、面会交流の条件の取り決めは、このように細かく決められるケースはむしろ少ないです。多くの場合、「月に1回程度、具体的な時間・場所・方法はその都度協議して決める」という定め方をされます。

以上の状況下、面会交流の実施を促すもう一つの方法として、配偶者が約束を守らないことを理由に、慰謝料を請求するという③の方法が考えられます。

2 具体的な取り決めがあれば慰謝料請求が可能

面会交流について、調停や審判において、一定の具体的な条件が決まっている場合は、面会交流を行う権利が具体的に発生し、それを侵害された場合は慰謝料を請求できることになります。

東京地裁令和2年12月10日判決も以下のように述べています。

(東京地裁令和2年12月10日判決(ウエストロー・ジャパン))

(当事者は)可能な限り両者間で調整せずに済むよう,面会交流の日時・場所,方法等の条件が一義的に定まるよう詳細な取決めをして本件調停条項に合意した。そうすると,本件調停条項において面会交流に関する合意が形成され,それに基づき長男との面会交流の機会を持つこととなった控訴人は,同条項に基づく長男との面会交流を不当に妨げられないという法律上保護された利益を有するということができ,被控訴人によって不当にその機会を奪われた場合は,被控訴人に不法行為ないし債務不履行が成立すると解するのが相当である。

上記の裁判例は、面会交流の条件として「一義的に定まるよう詳細な取り決め」がなされていたケースです。しかし、そこまで詳細でなくとも、具体的な面会交流権が認められる場合があります。

例えば、別の事案(東京地裁令和3年2月24日判決)では、面会交流の要領として、①1か月に1回・毎月第1日曜日・3時間程度と定める一方、②面会交流の開始時刻、受渡場所及び面会交流の場所については、子供の意向を尊重し、当事者間で協議して定めるとされていました。そして、判決では、以下のように、場合によっては不法行為に該当する(慰謝料を請求できる)ことを認めています。

(東京地裁令和3年2月24日判決(ウエストロー・ジャパン))

前記のような原告と長男との面会交流に関する給付内容の特定の程度に照らせば,本件審判によって具体化された原告の長男との面会交流権は,あくまでも長男の意向や被告との協議結果に沿う範囲内で認められているものというべきであるから,長男の監護者である被告による原告と長男との面会交流の不実施が原告の面会交流権を違法に侵害する不法行為に当たるというためには,被告が単に面会交流を実施しなかったというだけでなく,長男が原告との面会交流を拒否するよう不当に誘導したり,面会交流を認めた本件審判の時点とは異なる状況が新たに生じていないのに面会交流の実施を拒んだりするなど,面会交流の不実施につき正当な理由がないことが必要と解するべきである。

以上の裁判例を解釈すると、毎月第何何曜日に実施をする、という程度の取り決めがあれば、一定の具体的な面会交流権が生じているものと理解できます。それが不当に侵害されれば、慰謝料請求が認められることになります。

もちろん、権利があるとしても、単に面会交流が実施されなかっただけで慰謝料の請求が認められるわけではありません。面会交流権が不当に侵害されたかどうかが重要になります。例えば、配偶者の他方配偶者に対する感情的な部分や、養育費を払ってくれないなどの別次元の問題が理由であれば、不当に侵害されたと評価されることになるでしょう。また、子を監護している配偶者からは、「子供が会いたくないと言っているから」といった反論が行われることが多いですが、その場合は、子供が実際にそのような気持ちなのか、また、そのような気持ちになるような誘導が配偶者からあったかなど、多方面で審理されることになります。

3 具体的な取り決めに至らなくても、誠実協力義務違反が認められる場合も!

面会交流の取り決めを行う際、実際には、「毎月1回程度実施することとし、具体的な時間・場所・方法については当事者間で別途協議をする」という程度の取り決めにとどまるケースが多いです。

その場合は、具体的な面会交流権までは発生していませんので、面会交流権を侵害されたという意味での慰謝料請求はできません。

もっとも、このような抽象的な取り決めであっても、面会交流を実施するために誠実に協議をすべき義務はあるとされており、その違反があれば、慰謝料請求ができることになります。

東京地裁令和2年12月16日判決も、以下の通り述べています。

(東京地裁令和2年12月16日判決(ウエストロー・ジャパン))

面会交流の日時,場所等の決定に関しては当事者の協議に委ねられていることに加え,面会交流を円滑に実施することが本件和解の趣旨のひとつと解されることにも照らせば,当事者は,互いに,本件和解に従って原告と長女の面会交流を実施するため,具体的な日時,場所,方法等の詳細について誠実に協議すべき条理上の注意義務(以下「誠実協議義務」という。)を負担していると解するのが相当である。

したがって、調停や審判で決められた面会交流条件が抽象的なものであれば、この誠実協議義務違反を理由に慰謝料請求をすることが考えられるでしょう。

もっとも、配偶者がそうした協力義務に違反しているかどうかは、しっかりと請求者側が証明していかなければなりません。具体的なメールやラインのやり取りはしっかりと証拠として保存し、相手が話に応じない、協力する姿勢を示さないという有り様を証明していくことになります。

4 実際の慰謝料額はどのくらい?

それでは、実際に面会交流を拒否された場合に、具体的に、どの程度の金額が慰謝料として認められるかという点を紹介します。

・東京地裁令和3年2月16日判決(ウエストロー・ジャパン搭載)の例

この事例では、面会交流に関する審判が確定した(詳細な取り決め)にもかかわらず、相手が一度も面会交流に応じていないこと、裁判所の履行勧告にも応じていないことを理由に、面会交流の不実施1回につき3万円を慰謝料額として認めました。

一見、金額としては低いように思えますが、チリも積もれば山となります。年間36万円、5年間で180万円程度と考えれば、決して小さい額ではありません。

また、この判決では、相手が裁判所の決定や履行勧告にも従わない状況を重視し、将来分の慰謝料請求も認められています。したがって、相手が面会交流の実施に応じない限り、毎月3万円の慰謝料が発生するという内容です。

・東京地裁令和2年11月2日判決(ウエストロー・ジャパン搭載)の例

この事例では、審判により月1回の面会交流の実施が決められたにもかかわらず、子供が3歳から9歳までの6年間にわたって、元妻が一度も面会交流に応じなかったというものです。

裁判所は、審判の決定や履行勧告にもしたがっていない点や、3歳から9歳までという、子供との触れ合いが最も大事な時期に一度も面会交流に応じなかったことを重視し、元妻に対して120万円の慰謝料の支払いを命じました。

・考察

以上の事例は、どちらも具体的な面会交流の取り決めがなされていたケースのものです。どちらも、子供を監護している側が、裁判所の履行勧告にも従っていない点を重視していることは注目されます。

また、後者の例の判決文を読むと、子供が最も可愛い時期に触れ合えなかった父親の心境に、裁判所が大変な同情を寄せていることがわかります。それでも、慰謝料の金額としては120万円にとどまっています。これは、他の多くの不法行為事案との均衡を図るためと言えるでしょう。

なお、誠実協力義務違反が認められた近年の判例は乏しいですが、認められるとしても、他の不法行為事案との均衡を考えると、数十万円程度の金額にとどまる可能性が高いと言えるでしょう。

弁護士の本音

弁護士 青木
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今回は、面会交流を拒否された場合に慰謝料請求をする道があることをご紹介しました。認められる金額は、決して請求する側が満足できる額ではないかもしれません。しかし、このような「牽制できる手段」が存在することは、それがないよりはずっと良いことも間違いありません。

不当な対応に対してどのように対処をすれば良いのか、今後も情報発信をしていければと思います。

なお、当事務所では、離婚に関する問題の無料相談を承っています。お気軽にお問い合わせくださればと思います。

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