
1.生活費(婚姻費用)と養育費の「上限」を知る
高所得者の離婚で最初に直面するのが、別居期間中の生活費(婚姻費用)と離婚後の養育費です。
婚姻費用は「実収入」ベース
通常、裁判所の算定表は年収2000万円までしか記載されていませんが、実務では実収入に基づいた計算が行われます。 「算定表の上限だからこれ以上払わなくていい」という理屈は通用せず、年収に応じた多額の支払いを命じられるリスクがあります。まずは自分の適正な支払額をシミュレーションすることが不可欠です。
養育費には「2000万円の上限」ルールがある
一方で、養育費については運用が異なります。現在の実務では、年収2000万円(自営業は1567万円)を上限として計算し、それを超える部分は加味しないという考え方が一般的です。 相手方から「年収5000万円なのだから、養育費も倍払え」と要求されても、法的には上限ラインで争う余地が十分にあります。
2. 財産分与の攻防:守るべきは「特有財産」
離婚時に最も大きな金額が動くのが「財産分与」です。原則は折半(2分の1)ですが、高所得者の場合は「守り」の戦略が重要です。
婚姻前の努力が報われる「修正要素」
原則2分の1のルールですが、婚姻前の資格取得がその後の高収入の基盤となっている場合、分与割合を修正できる可能性があります。 例えば、結婚前に医師免許や公認会計士資格を取得し、その個人の能力が資産形成に大きく寄与していると認められれば、分与割合を「夫6:妻4」など変動させる余地があります。
婚姻前の資産を証明する資料の重要性
結婚前から持っていた預貯金や株式は「特有財産」として分与の対象外です。 しかし、「結婚した瞬間にいくら持っていたか」を示す通帳の写しや証拠資料がなければ、すべて共有財産としてカウントされ、相手に半分持っていかれてしまう可能性があります。過去の資料をいかに掘り起こせるかが、数百万・数千万を守る鍵となります。直接の資料がない場合は、過去の収入と照らし合わせることも必要です。
3. 不動産高騰リスク:自宅を維持するコスト
昨今の不動産価格の激しい上昇は、離婚実務に大きな影響を与えています。
驚愕の「代償金」支払い
「家は自分が住み続けるから、そのままもらいたい」と考える方は多いですが、ここには落とし穴があります。財産分与では、不動産の評価は「購入価格」ではなく「現在の時価」で行われます。 購入時5000万円だったマンションが、現在8000万円に値上がりしている場合、その差額分も含めた評価額に対して相手への支払い(代償金)が発生します。「不動産を維持するために、多額の現金をキャッシュで支払わなければならない」という事態を想定し、査定書を取っておくことも必要です。
4.慰謝料の「幻想」を捨てる
離婚の原因が相手の不貞(不倫)などにある場合、「高額な慰謝料を請求してやる」と考えるかもしれません。しかし、現実はシビアです。
資産規模に比べれば「微々たるもの」
日本の離婚慰謝料の相場は、高くても200〜300万円程度です。 数千万円の資産を分与する高所得者層にとって、慰謝料の額は全体の解決金に比べれば極めて少額です。慰謝料の増額に固執して交渉を長引かせるよりも、財産分与の対象外とする資産(特有財産)をいかに確保するか、あるいは税金対策をどうするかといった「実利」に集中するほうが、最終的な手残りは多くなります。特に、婚姻費用を負担している場合は、慰謝料にこだわって手続きを長引かせることで逆に負担が大きくなる危険があります。
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5.親権争いと「収入」の関係
「自分の方が稼いでいるから、子供に良い教育を受けさせられる。だから親権に有利だ」 そう考える方が多いですが、残念ながら裁判所は収入の多寡を親権の判断材料にほとんど使いません。
判断基準は「継続性」
親権判断で最も重視されるのは「これまでどちらが主に育児を担ってきたか(監護の継続性)」です。 いくら年収が高くても、仕事が忙しく育児を配偶者に任せきりにしていた場合、親権争いでは極めて不利になります。経済力は「養育費」で解決すれば足りると考えられているため、親権を希望する場合は、収入アピールではなく、具体的な監護実績や将来の監護体制をアピールする必要があります。
6. まとめ 高所得者の離婚を「失敗」させないために
年収2000万円を超える方の離婚は、単なる感情の問題ではなく、一種の「経営判断」に近い側面を持っています。
- 算定表を超えた婚姻費用のシミュレーション
- 特有財産の徹底した洗い出しと証拠収集
- 不動産時価の正確な把握と代償金対策
- 感情に流されない実利優先の交渉
これらを疎かにすると、離婚後の生活水準が大きく低下したり、本来守れたはずの資産を失ったりすることになります。今回ご紹介した内容は、離婚に向けて手続きを進めるに際して、必ず押さえておきたい防御内容です。どうか念頭に置いていただければと思います。
弁護士のホンネ

離婚は、一般に思われている以上に、高額所得者にとって不利な制度設計になっています。働いても働いても、その成果の半分は配偶者に渡さなければなりませんし、仕事を頑張れば頑張るほど、子育てへのコミットが減る関係で、親権を取得することは事実上できなくなります。また、相手が仮に悪い場合であっても、婚姻費用の負担を考えて、逆にこちらが解決金を払うという「屈辱」を伴う場合もあります。
そうした制度の中でも、計画的に、できるだけ損失を抑えることを考えて離婚に臨むことが、納得間のある離婚につながります。
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