
1 はじめに
面会交流が決まったのに子どもに会わせてもらえない。
別居や離婚後、子どもとの面会交流を望む親にとって、調停や審判で面会の取り決めがなされたことは一つの前進です。
しかし、現実には、調停や審判で決まったのに、相手が子どもに会わせてくれないといった相談が少なくありません。
では、調停や審判後に相手が面会交流を実行してくれない場合、どのような法的手段があるのでしょうか?
本記事では、面会交流合意後に起こるトラブルへの有効な対応策を、離婚専門の弁護士がわかりやすく解説します。
2 履行勧告について
まず検討するべきなのが、履行勧告という方法です。
これは、調停や審判を対応してくれた家庭裁判所に申し立てることで、調停調書や審判書の内容を守るよう、裁判所から相手方に口頭や書面で勧告してもらう制度です。
調停で合意した内容であっても、審判で決定された内容であっても、履行勧告の申し立ては可能です(公正証書による取り決めでは利用できません。)手続きも比較的簡易で費用もかかりません。
ただし、履行勧告には法的拘束力がありません。
あくまで裁判所が「守りなさい」と注意を促すにとどまり、強制的に実行させる力はないのです。
そのため、相手が完全に無視しているようなケースでは、履行勧告だけでは不十分で、実効性に限界があるのが実情です。
3 間接強制について
履行勧告で状況が変わらない場合、次に考えられるのが間接強制です。
これは、相手が調停調書や審判書通りに面会交流を実行しない場合、裁判所に対して相手に一定額の制裁金を支払わせることを求める手続きです。
これにより、相手に経済的・心理的にプレッシャーを与えて、実行を促すことができます。
ただし、間接強制が認められるには、調停調書や審判書の記載内容が非常に重要になります。
具体的には、以下の項目がしっかりと特定されている必要があります
①日程・頻度
②時間
③引き渡しの場所・方法
これらが明確に特定されていなければ、間接強制は認められません。
具体的には、「面会交流を強制的に実現させる条件とは?」をご覧ください。
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なお、公正証書にこれらの内容が記載されていても、間接強制は認められない点には注意が必要です。(したがって、面会交流の合意をする場としては調停や審判がお勧めとなります。)
4 調停調書や審判書で日時や場所などが特定されていない場合はどうする?
調停調書や審判書の内容があいまいで、面会の日時や場所などが明確に定められていない場合、間接強制は難しくなります。
このようなときは、再度面会交流調停を申し立てて、具体的な内容で合意を目指し、間接強制ができるような状況にしておくべきでしょう。
また、公正証書しか作成していなかった場合も同様で、調停申立を通じて、明確な取り決めをしておくべきといえます。
今後のトラブルを未然に防ぐためにも、面会交流の条件は裁判所手続きにおいて可能な限り具体的に定めることが重要です。
5 その他に有効な対抗手段
また、その他の現実的な対応策も併せて検討する必要があります。
たとえば、以下のような方法も状況によっては有効です。
(1)養育費の支払い停止の検討
相手が子どもを再婚相手の養子縁組に入れていた場合、あなたがこれまで養育費を支払っていたとしても、法律上あなたに養育費の支払い義務はなくなります。
にもかかわらず相手が面会交流に応じないようであれば、本来支払いを継続する義務がないことを示して、支払いの見直しや一時停止でプレッシャーをかけるという対応も考えられます(養育費の支払い義務がある場合はこの手段は取れません)。
(2)進学の同意を保留する
たとえば子どもが私学等に進学する際、相手による養育費の学費分の加算請求が認められるためには、基本的には進学についてあなた同意が必要になってきます。
そのため、このような場面で、「面会に協力しない限り進学に同意しない」という交渉材料として使うことも、現実的な手段です。
(3)慰謝料請求を行う
相手が面会に応じてくれないことにより、精神的苦痛を被ったとして慰謝料請求をすることも考えられます。
この請求によって、相手が慰謝料を支払いたくないと思えば、面会交流を実行してくれる可能性があります。ただ、慰謝料については認められても低額になると考えられるため、あまり有効な手段とは言えないでしょう。
面会交流の合意違反に対する慰謝料請求については、以下の記事でも解説していますので、参考にしてください。
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6 親権者(監護者)変更調停の申立てについて
相手が面会に応じない場合、そのことを持って相手が親権者(監護権者)に相応しくないとして、親権者(監護者)変更調停の申立てをすることも手段の一つ考えられます。
しかし、相手が面会交流に応じないということだけを持って、親権者(監護者)変更が認められる可能性は極めて乏しいです。
ただ、令和8年5月施行の法改正後は、面会拒否は父母相互の人格尊重・協力義務等に違反とみなされる可能性があります(新民法第817条の12)。
この違反は、親権者の指定又は変更の審判、親権喪失又は親権停止の審判等において考慮される可能性があるとされています。
そのため、面会拒否の事情が改正前より親権者(監護者)変更において重視されるようになる可能性はありますが、それがどの程度かはまだ未知数です。
7 お子様の気持ちが重要
これまで、相手が面会交流に応じてくれない場合の対応策をご説明しましたが、このような対応をとることで、監護親からの影響でお子様があなたに対して悪いイメージ持つようになってしまうリスクも考えられます。
そのため、良好な親子関係を保って面会を継続していくためには、相手と敵対しすぎないことも重要になってくると言えます。
とは言っても、面会交流はあなたの正当な権利ですので、お子様のお気持ちを第一に考えつつも、このようなリスクをどこまで許容できるか考え、対応策をとっていくべきでしょう。
弁護士のホンネ

法律事務所
現行の日本の法制度では、子どもの監護者に面会交流を実行させる手段は限られています。
間接強制が使えるとはいえ、それでも相手が「お金を払ってでも会わせない」と開き直ってしまえば、それ以上の強制はできません。
直接強制(子どもを連れて来させる強制力)も、日本では認められていません。
それでも、間接強制ができるように調停条項を具体的に定めることは、最低限の備えになります。
現段階ではそれが最善の防衛策です。
なお、令和8年5月施行の法改正後は、面会交流に協力しない親が親権者や監護者として不適格とされる可能性も出てきています(新民法第817条の12)。
とはいえ、まだ法改正後にどのように運用されるかは不明であり、過度な期待は禁物です。
面会交流を実現させるには、法的な知識と、相手の対応に応じた柔軟な戦略が必要です。
お悩みの方は、ぜひ一度、離婚問題を専門とする弁護士にご相談ください。
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