待望の共同親権!共同親権の導入により救われる人たち

弁護士

プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

今回の記事では、現在法務省の法制審議会で進められている共同親権制度によって、どのような点が改善されるのか(そしてどんな人が救われるのか)、ご紹介したいと思います。

1 法務省法制審議会が取りまとめた要綱案の概要

令和6年1月30日、法制審議会家族法制部会37回会議において、「家族法制の見直しに関する要綱案」が取りまとめられました。

そこでは、離婚後は父か母いずれかの単独親権とされていた制度が変更され、いわゆる「共同親権」が原則とされました。世界のスタンダードに近づいた形です。なお、令和2年4月に法務省民事局が公表した「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果」によると、G20諸国を含む海外24か国のうち、単独親権のみが認められているのは、インドとトルコのみでした。それ以外の国では全て共同親権が認められています。

今回取りまとめられた法制審議会の要綱案の概要は以下の通りです。

父母の離婚後等の親権者の定め

⑴ 父母が離婚をするときはその一方を親権者と定めなければならないことを定める民法第819条を見直し、次のような規律を設けるものとする。

ア 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。

裁判上の離婚の場合には裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。

ウ 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。

エ 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。

オ 上記ア、ウ若しくはエの協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をする。

カ 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。

キ 裁判所は、上記イ、オ又はカの裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の①又は②のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。

① 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。

② 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(下記クにおいて「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、上記ア、ウ又はエの協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
(引用:家族法制の見直しに関する要綱案:https://www.moj.go.jp/content/001411491.pdf

離婚後の親権が、これまでなぜ単独親権だったかを考えるに、最も大きな理由は、離婚後の元配偶者同士の生活が隔絶されることで、共同して子供を監護することが現実的に不可能だったことが挙げられるでしょう。しかし、通信技術の発達もあり、物理的な距離という障壁は、現代社会では、確実に低くさせられつつあります。新しい社会に適応した、あるべき方向に近づいたものと評価できると思います。

共同親権については、反対意見もあるようです。例えば、盛んに言われているのは、DVが絡んで離婚に至ったケースを想定したものですね。しかし、DVは離婚というものに不可避的に伴う本質的な要素ではありません。DVという問題は、社会の他のあらゆる深刻な問題と同様に、それに特化する形で対応するべきものと考えられます。そうした問題を、離婚制度の根幹そのものを形作るように波及させることは適切ではありません。もっとも、今回の要綱案では、父または母のDVが行われる恐れのある際には、裁判所が単独親権を命ずる旨の定めが設けられており、配慮がなされています。1日も早く、共同親権制度の立法と施行を期待したいと思います。

2 共同親権制度によって改善が期待されること

それでは、共同親権の導入によって、どういった点が改善されるのか、見てみましょう。それにより救われる人たちが必ず出てくるはずです。

(1)連れ去りの防止

社会問題にもなって久しいですが、配偶者が自宅を一方的に出て別居をする際に、子供を連れ去るケースが多々あります。

多くのケースで、こうした連れ去りは、その後の親権獲得を念頭に行われています。そのため、共同親権制度になることで、連れ去り別居をある程度防止できる可能性があります。連れ去りをしたとしても、共同親権になるのであれば、目標を達成できないためです。

また、離婚後も共同して子の進路を話し合わなければならなくなるのであれば、離婚になる場合も、一方的な連れ去り別居からスタートするのではなく、話し合いで解決する傾向が強まることも期待できます。離婚後も、父母の最低限度の協力関係を構築する方向に努力が傾けられるはずです。

(2)充実した面会交流の実施

共同親権になることで、これまで監護や子供の進路決定から阻害されていた非同居親の発言も尊重される傾向になるでしょう。

そのため、これまで月に1回とか2ヶ月に1回数時間の親子交流が相場であった面会交流が、より充実したものに改善される可能性があります。

隔週末、または毎週末、時には宿泊付きの面会交流の実施が一般的になるかもしれませんし、そうなれば、子育てに対する非同居親の積極的な関わり合いも期待できます。非同居親は、養育費を払うだけでなく、物理的な協力という形で本来の子育てのあり方に近づくはずです。それは非同居親の親としての義務のあり方として相応しいものと言えるでしょう。

さらに、夫婦の関係性が比較的良好であれば、共同親権になることで、共同監護という実態が一般的な現象として生じてくることも期待できます

これは面会交流ではなく、隔週または各月で子供の監護を交代し合うような形です。夫婦の関係性にもよると思いますが、子供にとっては最も望ましい離婚後の形態とも言えます。もちろん、夫婦は関係性が悪化するために離婚に至る場合が多いわけですが、今回の要綱案では、以下のことが取り決められています。

父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
(引用:家族法制の見直しに関する要綱案:https://www.moj.go.jp/content/001411491.pdf

父母は、子供の利益のために、互いの関係性が悪化した経緯を乗り越え、純粋に子供のためにどのようなあり方が望ましいのかを探る必要があります。交代制による共同監護は、その一つの選択肢として有力になるでしょう。一般的に、子供は、父母双方から愛されている経験を積むことで、自己肯定感を一層育むことができます。

(3)離婚紛争の長期化の防止

離婚紛争は、親権争いがある場合、数年がかりになる傾向があります。慰謝料や財産分与などのお金の問題はお互いに譲歩するということがあり得ますが、親権はゼロか百の問題のため、譲歩という余地がなかったからです。

共同親権になることで、そうした数年がかりの長期紛争を避けられる可能性があります。また、どちらが監護をするかについても、(2)で述べた共同監護という実態を選択することも可能になってきます。離婚後の子供の監護のあり方についても、話し合いによる柔軟な解決の可能性が開かれます。

(4)養育費の支払いへの期待

共同親権になることで、当事者の意識が大きく変わることも期待できるでしょう。

離婚後も親権者であることの意識が定着することで、養育費の支払いについても改善される可能性があります。とりわけ、充実した面会交流や、共同監護に近い形での子育てへの関わり合いのある元夫婦間では、より一層養育費の支払いを期待できるでしょう。

もっとも、養育費の支払いは、これまでモラル違反の文脈で議論される傾向にありましたが、実際は経済的な余裕の側面が大きいと考えられます。

厚生労働省の発表した令和3年度の「全国ひとり親世帯等調査」(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/f1dc19f2-79dc-49bf-a774-21607026a21d/9ff012a5/20230725_councils_shingikai_hinkon_hitorioya_6TseCaln_05.pdf)によれば、養育費の取り決め状況は、母子世帯で46.7パーセントで、父子世帯で23.8パーセントです。そして、実際に離婚した相手から養育費を受給できている率は、母子世帯(つまり父親から受給できている率)では28.1パーセント、父子世帯(つまり母親から受給できている率)では8.7パーセントです。父子の一人親世帯が母親から養育費をほとんど受給できていない状況は目を見張ります。これは、養育費の支払いがまさに経済的な余裕の問題と直結していることを強く伺わせます。

それでも、共同親権制度により、「自分が親権を持っている子のための生活費」という意識は、無視できない効果を持つのではないかと期待できます。実際に共同親権制度が開始してから、どのように社会や意識が変化して行くのか、見極めていきたいと思います。

弁護士のホンネ

弁護士 青木
弁護士のホンネ

「共同親権の導入は、現場の声を無視している」という弁護士の声を聞くことがあります。しかし、離婚に特化した法律事務所を経営し、日本で最も多くの離婚問題に携わっている弁護士の一人として言わせていただければ、全く正反対の感想を持ちます。単独親権制度により、これまで数多の人々が苦しみ、時には自ら命を絶つまでの事態に追い込まれてきました。自分の命よりも尊い我が子と会うこと自体を拒否されたり、数年にわたる紛争の末、ようやく相手の家の玄関で10分ほど子供との面会が認められたのみだったり。子供はすぐに成長してしまいます。愛する子供と、一番大切な時期に触れ合いたい、ただそれだけの願いが許されず、苦しんでいる方々の様子を私は目の当たりにしてきました。亡くなられた方もいらっしゃいます。そうした苦しみの声は、同じような苦しみを持っている人以外には届かず、社会の中にかき消されてきました。私たちも、こうした方々を守るべく、裁判所に切実に訴えかけてきました。それでも、単独親権制度の前で、屈さざるを得ない部分も多くありました。これもまた、切実な現場の声なのです。

そうした現場を知っている者にとって、今回の法務省法制審議会の取りまとめは、暗闇の中で、突如輝き出した一筋の光のように感じます。制度というものに対して、一人の人間だけでは抗うことはできません。それは弁護士であっても同じです。そうした制度それ自体が変わる可能性が出てきたことは、これまで苦しんできた方々が、かき消されながらも必死に訴え続けてきた成果だと思います。そうした声を上げ続けてきた方々に、考えられ得る最大限の敬意を表します。そして、日本という国も、ゆっくりではありながら、着実に良い方向に進んでくれることを切に願います。

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