【弁護士による書評】『損する結婚 儲かる離婚』(藤沢数希著)

1 離婚紛争の真実と闇を語っているベストセラー

今回は、2017年2月に新潮社から出版され、Amazonでも評価が極めて高い、藤沢数希著『損する結婚 儲かる離婚』について書評をします。発行から5年以上が経過しているにも関わらず、話題に上ることも多く、ブロガーやユーチューバーによる要約解説なども頻繁に行われています。

私たち離婚弁護士がこの本を読んでどう思ったか。ズバリ結論から言うと、巷に多くの離婚対策本が触れている中、この本以上に、離婚紛争の真実と闇の深さを雄弁に語っているものはない、と言うことです(念のために述べておくと、この本は、離婚対策を扱ったものではなく、離婚紛争の現状とその理由に迫った一般書です。)。

おそらく、著者は知人の離婚話(これは本書の冒頭に出てきます)をきっかけに、こんな不合理なことが実際にあるのかと疑問にもち、徹底的に離婚紛争の実態を調べ上げたのでしょう。そして、弁護士や法曹関係者では言いづらい、制度の闇(もちろん、人によって感じ方はそれぞれでしょう。)の深刻さを発見したのだと思います。そこで感じた驚きと、強烈な義憤に駆られて、勢いよく本書を作り上げたのではないか、そのように感じます。

正直、ある程度の収入がある方が配偶者との離婚について考える際、本書を読むことから始めるのが一番有用ではないかと思います。それは、離婚制度により負うことになる不利益を最小限に抑えるためにも、適切と言えるでしょう。

この本が語っている、特にユニークな部分について、以下ご紹介したいと思います。

2 「結婚の経済的価値」

本書の最もユニークな点は、ズバリ、結婚を金融商品に準じて捉え、その経済的価値を数式に表している点でしょう。著者は、長年にわたり金融工学を用いて、金融商品の開発に取り組んでこられた方です。その著者が、結婚を債券とみなした場合に、その想定されるリターンを数式で表したのが以下のものになります。

結婚債券の価値=離婚成立までの婚姻費用の総額+離婚時の財産分与+慰謝料
(本書22ページ)

これをみて、パッと感情的な部分を伴って理解できる方は、離婚制度に伴って最も深刻な問題を生む部分を、かなりの程度理解されている方だと思います(もちろん、本書では順を追って解説していますので、すぐに理解できる流れになっています。)

その深刻な問題と言うのは、別居期間に支払い続けなければならない婚姻費用ですね。

3 「コンピ地獄」

本書では、別居が続く限り永遠に婚姻費用を支払わなければならない実態を、「コンピ地獄」と呼称しています。なんと極端な表現かと感じる方もいるかもしれませんが、実際に離婚事件に日頃から携わっている私たちからすると、支払う側からみればそのように感じることも理解できます。

と言うのは、婚姻費用というのは、原則として、夫婦である以上支払わなければならない生活費であり、婚姻関係が破綻していたとしても、そして、原則としてその破綻の原因が妻にあるとしても、支払わなければならないからです。
明らかに妻のみに破綻の原因があることが証拠から明らかである場合は、例外的に婚姻費用の請求が却下される場合もありますが、そのような明白な証拠があることは稀ですし、夫側にも多少の問題が認められれば、支払いは命じられてしまいます。

その金額については、いわゆる婚姻費用・養育費算定表に基づいて決められていきますが、より問題なのは、その支払い期間の長さです。

支払いは、婚姻関係が破綻するまで、ではなく、正式に離婚するまで、になります。

したがって、別居後、調停を経て裁判まで争うようなケースでは、3年から5年支払い続けることになります。その金額は、総額にすれば、財産分与や慰謝料額を凌駕してしまうことが多いでしょう。

夫が有責配偶者(暴力や不倫がある場合)とみなされてしまった場合はもっと深刻です。不倫などは、配偶者との関係がうまくいっていなかった結果として発生してしまうケースは多くあります。しかし、裁判所はそこまで優しくなく、不貞を厳しく扱います。その結果、有責配偶者となった夫からの離婚請求は原則として認められず、10年間の別居期間(子供が幼ければそれ以上)がなければ、離婚は認められません。

すると、その場合、夫は10年以上にわたり婚姻費用を支払続けなければならなくなるわけです。不貞の償いは、他の損害賠償事件と同様に、普通は慰謝料で賄うべきものと考えられますが、離婚が認められない結果、婚姻費用を支払続けることになるという「副作用」により、夫も最も大きく、深刻なダメージを受けることになります。

夫からすれば、それはもはや「地獄」のような状態なのかもしれません。

もう一度、著者が示した結婚債券の価値の数式を表します。

結婚債券の価値=離婚成立までの婚姻費用の総額+離婚時の財産分与+慰謝料
(本書22ページ)

妻からすれば、結婚債券の価値の数式からも分かる通り、婚姻費用というリターンを長期に渡り受けることになりますから、夫のダメージとは裏腹に、その利益は極めて大きくなります。

なお、有責配偶者からの離婚請求の裁判例は数多ありますが、そのほとんどは、夫からの離婚請求のものです。有責配偶者である妻からの離婚請求についての裁判例は、それに比べると本当に少ないです。(こちらの記事に裁判例を列挙していますので、ご参照ください。https://riko-net.com/divorce-column/do-not-profess
理由はわかりますね?有責配偶者である妻から離婚を請求されたケースでは、夫がそれを引き延ばすメリットはほとんどありませんから(婚姻費用を払う場合は逆にデメリットしかありません)、裁判になる前に和解で終了するのが通常です。一方、有責配偶者である夫から離婚を請求されたケースでは、妻は離婚を拒否して生活費を貰い続けるという選択が有効だからです。

4 「有名人の結婚と離婚に関するケーススタディ」

書評なのについ説明が長くなってしまいました。
本書のユニークな部分として、もう一つ。
有名人の結婚と離婚を題材として、結婚の価値がどのくらいか、離婚の際にどのようなことが想定されるのかを、解析している部分です。

結婚債券の価値の数式を念頭に、その結婚がどれほどの価値のあるものか、そしてその結婚を行うに至った選択がどれほど賢明な判断なのか論じています。
特に、スポーツ選手や上場企業、海外企業のオーナーなどはとんでもない金額が動きますから、この辺りは、読み物としても面白いかもしれませんね。

本書は、とりわけ普段から一生懸命仕事をして、一定の収入がある方が、離婚を本格的に検討し始めた際にまず読むべきものとして、お勧めいたします。どうしても一定の建前に縛られてしまう法曹関係者の書くものよりも、離婚紛争の真髄を、馴染みやすい表現で、分かりやすくついています。
一度手に取ってご覧になると良いと思います。

<弁護士のホンネ>

弁護士 青木
弁護士のホンネ

弁護士が立場上言いづらく、それによって、一般の人にとって闇がかっている部分が、離婚制度にはあると思います。
そこをきちんと正直についてくれてるのが、本書であると言えるでしょう。
また、それを超えて、本当にこんな制度で良いのか?少子化問題を促進してしまっている面がないのか?多様な家族のあり方を考えられないのか?と、より視野を敷衍し、社会問題として疑問を投げかけていく書でもあります。
いわば、「教養としての離婚」書としても、本書の価値は高いと思います。

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