今回は、この婚姻費用というものと、子供の学費の関係について見ていきたいと思います。
「養育費・婚姻費用算定表」
まず、妻に支払わなければならない婚姻費用は、「養育費・婚姻費用算定表」というもので定められることになっています。
この「算定表」は、本人同士の話し合いでも金額が決まらず、また、婚姻費用の支払いを求める調停でも話がまとまらない場合に、裁判所が決める審判手続で利用される基準です。
逆にいえば、裁判所が決める審判手続外では、合意によって自由に決めることができるわけです。ですので、必ずしもこの「養育費・婚姻費用算定表」に基づかなければならないわけではありません。
もっとも、妻としては、審判の場合に、算定表に基づいて決めてもらえる以上、それを大幅に下回るような金額で合意に応じるということは、普通に考えればあり得ないでしょう。
結局、話し合いの段階でも、この「養育費・婚姻費用算定表」に基づいて金額を決めることが非常に多いといえます。
「養育費・婚姻費用算定表」の金額の他にも払わないといけないものがある?
では、この婚姻費用だけでは足りないものについても、妻から請求された場合に払わないといけないものがあるのでしょうか。
よくあるのが、子どもの学費でしょう。高校や大学に入学する場合の入学費などは、一時的にお金がかかりますよね。
しかし、学校にかかる費用ついても、基本的にはこの算定表の中で既に考慮されているとみなされます。特に、公立の学校の学費分は既に含まれているものとみなされているため、それを請求されても基本的には応じる必要はありません。
一方で、私立学校の学費が請求された場合には問題が生じます。
これについては、原則として支払う必要はないといえます。
私立学校に入学するかどうかは、その子供と、その面倒を見ている妻が決めたことでありますから、子の進路に事実上関わりをもてない別居中の夫が、その入学金まで負担しなければならないということには直ちにはなりません。
ただし、同居期間中に私立学校に入学していた場合の、別居後の学費や、同居期間中に私立学校へ入学させることを明確に同意していた場合は違ってきます。
この場合は、子が私立学校で学ぶことについて夫も十分な関わりを持っていますので、一部の負担が認められることはあるでしょう。
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私立学校の学費全部を負担する必要はない!
ただし、その際も、負担しなければならない金額は、その学費の全額ではありません。
さきほども申し上げたとおり、既に「養育費・婚姻費用算定表」において、公立学校の学費分は考慮されています。ですので、私立学校の学費を負担しなければならない場合も、負担する部分は、当該学費と、公立学校の学費との差額分が限度です。
公立学校の学費については、上記の算定表が最初に登場した論文に引用されている、国の統計資料が利用されるのが通常です。
800万円程度の世帯年収の場合、公立中学だと15万円程度、公立高校だと33万円です。
そして、その差額をあなたが全部負担するわけではなく、あくまでも別居中の妻と負担をし合うという形になります。
負担割合については、比較的最近である平成26年8月27日に大阪高等裁判所が判断した例があります。
大阪高等裁判所は、
標準的算定方式による婚姻費用分担額が支払われる場合には双方が生活費の原資となし得る金額が同額になることに照らして,上記超過額(公立学校の学習費を超過する部分)を抗告人(夫)と相手方(妻)が2分の1ずつ負担するのが相当である。
として、負担割合は半分と明示しました(!)。
もっとも、裁判所によっては夫婦の収入割合に応じた按分で負担すべきとする判断も多くあります。
いずれにしても、私立学費を全部負担する必要はありません。
皆様も、別居中の婚姻費用については、今一度計算をし直して、適切な金額であるかどうかを確認してみると良いでしょう。
子どものためではありますが、昨今は奨学金制度なども充実している世の中です。
別居によって二重の生活費の負担がのしかかる状況下、子の私立学校の学費までは、とても負担できないという方は多いのではないでしょうか。
そういう場合は、ぜひ上に述べた考えをもとに、払うべき金額を見直していただきたいと思います。
実は、専門家の中にも、これに関して熟知している人は少ないという現状があります。
そのためか、学費も負担しなければならないという強迫観念のもと、無理をして払う方もいらっしゃるわけです。
しかし、実際の裁判例を見ると、夫が私立への進学を了承しているかどうか、そして今後も通い続けることを認めているかどうかが重要なファクターになっていることが分かります。
さらに、仮に負担する場合であっても、それは公立学校の学習費を超過する部分の2分の1とする裁判例もあります。
別居による二重の生活費の負担の重みは、想像以上のものですから、あなた自身の生活を守るためにも、今支払っている婚姻費用の額をしっかりと精査してみましょう。