プロキオン法律事務所の弁護士の青木です。離婚に特化した弁護士として、年間200回以上の調停や裁判に出席しています。
さて、今回は、配偶者が万引きなどの犯罪をした場合、離婚を求めることができるのかについてアドバイスします。
今回の弁護士からのアドバイス
配偶者が犯罪を犯した場合・・・
☑️単に犯罪を犯しただけで離婚原因になるわけではありません!
☑️ただし、実刑判決の場合は離婚原因と認められる可能性が極めて高いです!
☑️通常は犯罪行為以外の事実も合わせて総合的に判断されます!
1 裁判で離婚が認められる5つの事由
まず、離婚について、協議や調停で話し合いを行う場合は、離婚の合意さえできれば、たいした離婚原因がなくとも、離婚をすることが可能です。
一方で、話し合いがつかず、裁判で離婚を求める場合は、法定離婚事由が必要になります。裁判で離婚が認められる場合の事情ですので、「裁判離婚原因」と呼ぶ方が良いかもしれないですね。
法定離婚事由は、以下のようなものです。
<法定離婚事由>
①不貞行為
②悪意の遺棄
③3年以上の生死不明
④強度の精神病
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があること
(以上、民法770条1項)
今回は、配偶者が万引きなどの犯罪を犯した場合、離婚を求めることができるのかというのがテーマです。言い方を変えると、配偶者が犯罪を犯したことが、⑤の婚姻を継続し難い重大な事由に当たるのか、ということです。
2 実刑になった場合とそうでない場合で考え方が変わる
犯罪を犯すことが離婚原因になるのかという問題は、結局は、それによって婚姻関係が破綻したかと言えるかどうかがになります
そうすると、犯罪を犯したから直ちに離婚原因になるというわけではなく、犯罪を犯したことで、通常、夫婦間の関係修復が見込めなくなることが必要になります。
(1)実刑判決に至らない場合
裁判例では、夫がキセル乗車をしていた事案(浦和地裁昭和60年9月10日判決)や、タクシー運転手に対して暴行を行って逮捕された事案(東京地裁平成15年10月23日判決)があります。
それぞれの事案で、離婚請求が認められています。しかし、いずれも、犯罪行為だけではなく、夫側の様々な事情を積み重ねて、最終的に婚姻関係が破綻したものと認定されています。
例えば、上記のキセル乗車の事案(浦和地裁昭和60年9月10日判決)では、キセル乗車の事実だけでなく、ポルノ雑誌に夢中になっていたことや、妻との性交渉を拒否していたこと、ゴミ箱を漁って物を拾っていたことなど、様々な出来事が同時に認定されています。
タクシー運転手に対して暴行して逮捕された事案(東京地裁平成15年10月23日)でも、逮捕の事実のほかに、妻にも暴力をすることがあったこと、泥酔して暴れたり、性的関係を強要することがあったこと、姿見の下鏡や大皿を割って暴れたことなど、広範な粗雑な行動が細かく認定されているのです。
したがって、犯罪的な行為を一回行ったことがある、というだけで離婚が認められるわけではありません。一般的に裁判所は、複数の様々な事実を認定して、それらを総合的に評価して、婚姻関係が破綻したかどうかを評価することになります。
(2)実刑判決に至る場合
一方で、実刑判決が下り、服役までするようなケースに至ると、話は別です。その水準になると、夫婦関係それ自体に直接の影響が生じてしまいます。例えば、福岡家裁平成28年1月29日判決などは、夫が万引きをして服役中の事案で、離婚が認められました。
この事例は、万引きの問題の大きさよりも、服役の事実が重視されているのが特徴的です。服役により、別居期間が相当期間継続する見込みであることも指摘されています。
以下、引用します。
<引用>
(福岡家裁平成28年1月29日判決(ウエストロー・ジャパン搭載))
以上の認定事実によれば,①原告と被告は,婚姻の約3か月後には,被告の逮捕を契機として別居するに至ったこと,②被告が今後も服役することから,別居が相当期間継続することになること,③原告が,被告の犯罪行為による服役を受けて,離婚する意思を固めていることが認められ,これらの事情を総合すると,被告が離婚を争っていることを踏まえても,原告と被告との婚姻関係は,完全に破綻に至っているということができ,婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)があるものと認められるから,原告の離婚請求は理由がある。
以上のように、通常は、単に犯罪を一回犯したというのみで婚姻関係の破綻が認められるわけではありませんが、服役に至る実刑判決になる場合は、仮にそれが万引きのような類のものであっても、離婚は認められるとみて差し支えないでしょう。
今回の弁護士からのアドバイス
配偶者が犯罪を犯した場合・・・
☑️単に犯罪を犯しただけで離婚原因になるわけではない!
☑️ただし、実刑判決の場合は離婚原因と認められる可能性が極めて高い!
☑️通常は犯罪行為以外の事実も合わせて総合的に判断される!
弁護士の本音
実刑になるほどではないが、社会的に極めて非難されるべき行動をしたケースも問題になるかもしれません。
例えば、性犯罪をして示談をした一方で、それ以外に特に夫に問題はない場合です。まさにケースによる(それぞれの行動の問題の大きさによる)としか言いようがありませんが、このようなケースでは、例えば別居を伴っていることが多いと思われます。その場合は、離婚のために一般に必要とされる3年から5年の別居期間に達していなくとも、比較的短い別居期間で「婚姻関係が破綻している」と評価され、離婚が認められる可能性が高いものと考えられるでしょう。
なお、以上のアドバイスは一般的なものであり、具体的なケースによって異なる可能性があります。法的なアドバイスを受ける際は、専門の弁護士に相談することをお勧めします。