
プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
離婚後も、子どもの養育には多くの費用がかかります。そのため、離婚時にしっかりと取り決められるのが「養育費」です。ですが、人生は予定通りにいくとは限りません。
転職や体調不良などで収入が減ってしまった場合、毎月決まった額の養育費を支払い続けるのが苦しくなることもあるでしょう。そんなとき、「もう決まったことだから」とあきらめる必要はありません。
今回は、収入が下がったときに養育費を減額できる可能性があるということ、そしてその際に注意すべきポイントを、実際の裁判例を踏まえて、わかりやすく解説します。
養育費は「将来にわたるもの」だから、事情が変われば見直し可能
養育費は、原則として子どもが成人するまで(通常は20歳に達するまで)、継続的に支払っていくものです。しかし、数年、十数年という長期にわたって支払いを続ける間に、支払う側(義務者)の事情が変わるのは、当然起こり得ることです。
例えば、
- 勤めていた会社が倒産してしまった
- 転職したが年収が大きく下がってしまった
- 病気や怪我で働くことが難しくなった
- 再婚して新たな家族を支える必要が出てきた
など、さまざまな「生活の変化」が起こり得ます。
このような変化が生じた場合には、養育費の金額を減額してもらうよう、家庭裁判所に申し立てることが可能です。もちろん、「やむを得ない理由」でなければなりませんが、決して「一度決まったら終わり」というわけではないのです。
【重要判例紹介】東京高裁令和5年1月31日決定
東京高裁令和5年1月31日決定は、養育費の金額が、その時の状況に応じて決定しているため、事情が変わった場合は金額を変更できることを述べています。
また、この決定は、自分の意思で転職をして収入が下がった場合でも、養育費の減額が認められることを明言した点でも、注目に値します。
(東京高裁令和5年1月31日決定 ウエストロー・ジャパン搭載)
養育費は、将来にわたるもので、当事者に身分関係、経済状態等の変化が生じることはやむを得ないことであり、それらが生じて養育費算定の基礎事情が変更し、それに照らして義務者が負担する養育費が不相当とみられる事態になったときは、養育費の増減額を求めることができる性質のものである。
したがって、定められた養育費の支払義務は、性質上、将来生じた義務者の経済状況、身分関係の変動を考慮できないものではなく、義務者に養育費を免れるためなど不当な目的が認められない限り、義務者がやむを得ない場合でなく、その意思で転職や婚姻等をした場合は、義務者の責任であって権利者に転嫁できないとして養育費の増減額を認めない考えは、義務者の意思決定の自由を不当に拘束しかねないものであって採用することはできない。
この判決がポイントとしているのは、以下の点です。
- 養育費は「将来にわたるもの」だから、状況の変化を前提としている
- 経済的状況が変わった場合には、養育費の増減が可能
- 義務者が自らの意思で転職・再婚した場合も、それだけで「減額不可」とするのは不適切
つまり、「自分の意思で転職したから減額は認められない」と一方的に断じるのではなく、転職後の状況もきちんと考慮されるべき、という考え方が支持されているのです。
※本決定については、以下の記事でも紹介していますので、参考にしてください。
1 事件の概要今回ご紹介する判例(東京高等裁判所令和5年1月31日決定)は、離婚後、自分の意思で転職や再婚・子の出生をした場合でも、離婚時に取り決められた養育費の減額が認められることを確認した、東京高裁決定です(ウエストロー・ジャパン搭[…]
減額が認められないケースもあるので注意!
ただし、何でもかんでも「収入が減ったから」といって減額が認められるとは限りません。「不当な目的」があるとみなされる場合には、減額は認められません。
不当な目的とは?
- 養育費を免れるために、意図的に転職や退職をした
- 本来得られる収入があるのに、あえて(養育費を下げるために)低収入の仕事を選んだ
- 無職になっても働く意思がない
このようなケースでは、「わざと収入を減らして養育費を下げようとしている」と判断され、裁判所は厳しく対応します。
一般的な転職ならOK?
一般的には、転職して仕事を継続しているのであれば、よほどのことがない限り、「不当な目的」はないと判断されます。つまり、
- 収入は下がったが、まじめに働いている
- 転職先でも正社員として就労している
- 生活を維持しようと努力している
といった事情があれば、減額は認められると考えて良いでしょう。
完全に仕事を辞めた場合は要注意
一方で、「完全に無職になってしまった」「収入がまったくゼロになった」という場合は、時に減額が認めらない場合があります。
理由は、「本来仕事をしようと思えばできるのに、あえてしていないのでは?」と見られてしまうからです。
例えば、
- 高年収だったが、退職後に収入がゼロ
- 転職せず、働くことを避けている
- 何の病気もなく、就労できるはずの状態
このような場合、裁判所は「従前の収入力が未だ存在する」として、養育費の減額を認めないこともあります。また、年齢や性別に応じた平均的な年収を適用し、それに基づいて支払額を決められる場合もあります。
当サイト運営・プロキオン法律事務所では、相談室(渋谷駅徒歩5分・横浜駅徒歩6分)またはオンラインにて、無料相談を実施しています。
病気や身体的な理由がある場合は?
では、病気や身体的な事情がある場合は、無条件に無収入とみなされるのでしょうか。
この点でも、状況によって裁判所の判断は分かれます。
- 肝炎などで一時的に就労が難しい→平均的な年収に引き直される可能性あり
- 重度のうつ病や重大な身体障害→収入力ゼロと認められる可能性あり
つまり、「実際に働こうと思えば働けるかどうか」が大きなポイントとなります。
病気を理由に仕事を辞めた場合は、医師の診断書や治療記録などを添えて、現在の健康状態をきちんと立証することが重要になるでしょう。
【再確認】自分の意思による転職でも、減額の可能性はある!
もう一度、東京高裁の決定に立ち返ってみましょう。
この決定は、「義務者がやむを得ない場合でなく、その意思で転職をしたとしても、必ずしも不当な目的とはいえない」と明言しています。
つまり、「自分の意思で転職して収入が下がった」場合でも、原則として減額は認められます。
将来を見据えてキャリアチェンジを選んだり、心身の負担を減らすために職場を変えたりすることは、ごく自然な人生の選択です。それによって収入が一時的に下がった場合、その間は養育費額を下げてもらえることになります。
まとめ|原則として養育費の減額は可能です
☑️養育費は事情が変われば見直し可能です!
☑️自分の意思による転職でも原則として減額が認められます!
☑️ただし、「不当な目的」(養育費を下げる目的)と思われかねない行動には注意しましょう
☑️仕事を辞めて無職になった場合は、本当に仕事ができない状況なのかが慎重に審理されます!
☑️病気がある場合は、証拠をそろえて事情をしっかり説明するようにしましょう!
弁護士のホンネ|「早めの相談」が減額成功のカギ

正直に申し上げて、養育費の減額は、申立てのタイミングや提出資料の内容によって結果が大きく変わります。例えば、仕事を辞めて無職になる見込みなのであれば、そのタイミングでご相談いただいた方が良いです。なぜ仕事を辞めることになるのか、仕事を辞めるのはやむをえないことなのか、それを示す資料を今のうちに集められるか、がポイントになります。裁判所から、「この人は養育費を下げるためにあえて仕事を辞めたのではないか?」と疑われないためにも、しっかりと説明材料を取得しておくことが重要なのです。
逆に、「こんな感じで進めれば養育費の減額は認められるだろう」と、楽観的すぎる形で仕事を辞めたり、転職をしたりした場合、養育費の減額が認められないケースも実際にあります。
安定的に、現実可能な金額の支払いを続けるためにも、しっかりと説得材料を準備しておきましょう。それが、お子様のためにもなります。
そして、無理をせず、一緒に最善の道を探っていきましょう。
当事務所では、離婚や養育費に関する無料相談を実施しています。どうぞお気軽にお問合せください。
当サイト運営・プロキオン法律事務所では、相談室(渋谷駅徒歩5分・横浜駅徒歩6分)またはオンラインにて、無料相談を実施しています。