
はじめに DV・モラハラの被害者の方へ
離婚を決意したとき、多くの方が不安に感じるのが、相手方(配偶者)に自分の新しい住所を知られてしまうのではないかという点です。特に、配偶者からの暴力(DV)やモラルハラスメント(モラハラ)が原因の場合、住所を知られることは、新たな危険や再被害につながるおそれがあります。
もっとも、日本の法制度には、DV・モラハラの被害者が住所を秘匿したまま離婚手続きを進めるための仕組みが複数整備されています。本記事では、具体的にどのような制度が利用できるのか、手続ごとに正確な情報をまとめて解説します。
裁判所での手続き:住所の秘匿措置
(1)「当事者秘匿申出」(離婚訴訟、離婚調停共通)
離婚調停・離婚訴訟では、原則として申立書には申立人の住所を記載しますが、DV等の事情がある場合、申立書や訴状に現住所を記載しない取扱い(秘匿)が可能です。
ただし、住所秘匿は申立人の一方的な希望のみで認められるものではなく、以下のような事情を記した申出書や、一定の疎明資料(警察相談記録、診断書、保護命令、相談支援センターの証明など)を提出して、裁判所に必要性を判断してもらう必要があります。
- なぜ住所を知られてはならないのか
- DV被害の具体的事情
- 住所秘匿をしない場合の危険性
裁判所が申出を認めれば、相手方に当方の住所が記載された書類が送付されることはありません。
ただし、調停の段階では、以下の「非開示希望」を申し出ることで対応するのが一般的です。
(2) 調停記録の「非開示希望申出」(調停・審判事件のみ)
調停記録の中には、以下のような資料が含まれ、そこから住所が漏れる危険があります。
- 住民票
- DV被害を示す証拠
- 参考資料として提出した書類
そのため、申立時または調停中に、非開示希望の申出を行うことが重要です。
これは、相手方による記録閲覧について、住所記載部分を含む一部の資料の閲覧や謄写を制限するよう申し出るものです。
裁判所は職権に基づき、記録の中から住所情報が漏洩しないよう、住所記載部分のマスキング(黒塗り)や閲覧の拒否といった運用をします。
ただし、開示したくない情報については、自分で黒塗りしてコピーをし、それを提出する形で隠すことも可能です。そのため、自己防衛をしながら手続に対処することで、こうした制度を使わずに済むことが多いと言えます。
(3) 住所地として別住所を記載する方法
ネットの情報などでは、従前の住所や実家の住所を「本人住所」として記載する、という扱いが一般的に認められているかのように誤解されがちです。しかし、現住所と異なる住所を本人住所として記載する方法は、裁判所の運用上、常に許容されるものではありません。
特に、以下の点は念頭に置いておきましょう。
- 「実在しない住所」や「本人が生活実態を有しない住所」を記載することは不可
- 原則として、現住所は裁判所が把握し、相手方に非開示とする扱いになる
もっとも、従前の住所地や、住んでいない実家を住所地として記載することは、実務では、事実上黙認されている状況(もしくは裁判所が気づかないふりをしてくれている状況)であることも事実です。ただ、裁判所が正面から認めているものではありません。
なお、代理人弁護士が就いている場合、送達先を弁護士事務所に指定することができますので、裁判所との直接の書面のやり取りを行う必要はありません。
行政機関での手続き:住民票等の閲覧制限(支援措置)
(1) DV等被害者のための支援措置(住民基本台帳閲覧制限)
DV・ストーカー等の被害者のために、市区町村が住民票や戸籍の附票の交付・閲覧を制限する制度が設けられています。
正式名称は自治体によって若干異なりますが、内容は概ね共通です。
手続の流れ
- 警察署、配偶者暴力相談支援センター等へ相談し、証明書を取得
→ 証明書がなくても申出自体は可能ですが、審査のため提出が推奨されます。 - 市区町村役場に「支援措置」の申出をする
→ DV等の被害状況を記した申出書を提出します。 - 審査のうえ、必要性が認められれば交付制限が開始
→ 有効期間は自治体によるものの、1年ごとに更新可能です。
※自治体は「加害者からの住民票請求かどうか」を判断できないため、加害者と思われる者からの請求を広く制限する扱いとなります。
(2) 弁護士・司法書士の職務上請求が拒否される場合
弁護士などからの職務上請求であっても、支援措置が講じられていれば自治体は交付を拒否します。
年金分割の手続き:情報通知書の住所秘匿
年金分割の前提として「年金分割のための情報通知書」を日本年金機構に請求します。
この通知書には通常、請求者の住所が記載されます。
しかし、「年金分割のための情報通知書」は、原本を提出しなければなりませんので、黒塗りはできません。そして、調停調書にも綴られることになります。
そこで、以下の対処をしてください。
・住所の記載省略を依頼する
DV・ストーカー等の事情がある場合、「年金分割のための情報通知書」について、住所の記載省略が認められる運用があります。
ただし、これは法律上明文があるわけではなく、日本年金機構の裁量的な取扱いに基づくものです。
DV案件であることを説明できるように、一定の資料を持参して年金事務所と相談をしてください。
まとめ
DV被害を受けてる方は、以下のような形で住所を秘匿して手続を進められます!
☑️「当事者秘匿制度」を使って、申立や訴状に記載する住所を非開示にできます!
☑️「非開示希望申出」を行うことで、調停期間中に提出する各種資料について、住所記載部分を相手が閲覧できない状況にできます!
☑️とはいえ、提出する資料の中に住所が記載されていれば、それを黒塗りしてコピーして提出することで、自己防衛も可能です!
☑️「年金分割のための情報通知書」においては、通常住所が記載されてしまっており、原本で提出しなければなりません。そのため、年金事務所と相談して、住所が記載されていない情報通知書を発行してもらいましょう!
弁護士のホンネ

法律事務所
住所秘匿を伴う離婚手続きは、複数の機関との調整が必要で、通常の調停よりも明らかに複雑です。
被害者ご本人がすべて対応することは精神的にも負担が大きく、1か所でも漏れがあれば住所が知られてしまう危険が残ります。
「住所を知られずに離婚したい」という願いは、DV被害者の生命と生活を守るために当然の権利です。
不安を抱えている方は、どうか一度ご相談ください。法制度を適切に利用すれば、安全に離婚を進めることができるはずです。
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