プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、婚姻費用の具体的な計算方法について解説します。
多くのケースでは、婚姻費用を算出するさい、いわゆる「婚姻費用算定表」(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)を使います。しかし、そこには書かれていない、子供が4人以上の場合や、年収が2000万円を超えるケースでは、算定表を作り上げた計算式に立ち戻って計算する必要があります。また、2人以上の子供が、妻側と夫側に分かれている場合も、計算式を使う必要があります。
しかし、そうした計算式は決して難しいものではありません。
今回の記事で、とてもわかりやすく整理しましたので、どうぞご活用ください。
1 ステップ1:それぞれの収入を確定する
まずは、夫と妻、それぞれの収入を確定します。
会社勤めの方であれば、昨年分の源泉徴収票を利用するのが通常です。
ただし、昨年より勤務条件が大きく変わっているケースや、昨年の中途から入社をしたケースでは、直近の給与明細3ヶ月分の平均と、想定される賞与を考慮して年収を推定することになります。
自営業者の場合は、売上から経費を控除した後の事業所得をベースに計算することになります。したがって、直近で提出済みの確定申告書が必要になります。
その上で、以下の式を使って収入額を決定します。
自営業者の収入の認定について、詳細な説明に関しては、以下の記事も参考にしてください。
婚姻費用を決める際に、直近の収入で決めると聞きましたが、自営業の場合の収入はどのように計算するのでしょうか? 配偶者(夫または妻)との別居後、高確率で問題となるもの、それが婚姻費用です。つまりは、別居後の配偶者や子供の生活費です。[…]
2 ステップ2:基礎収入割合を掛け合わせる
さて、夫と妻の収入が決定したら、そのうち生活費に回すべき金額を決めることになります。
生活費に回すべき金額は、それぞれの収入に、「基礎収入割合」というものを掛け合わせて導きます。
基礎収入割合は、給与所得者と事業所得者で異なりますし、さらに収入によっても異なります。以下に一覧します(司法研修所編『養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究』法曹会、35ページ(資料3)より)。
<給与所得者>
収入額 | 基礎収入割合 |
0万円〜75万円 | 54% |
〜100万円 | 50% |
〜125万円 | 46% |
〜175万円 | 44% |
〜275万円 | 43% |
〜525万円 | 42% |
〜725万円 | 41% |
〜1325万円 | 40% |
〜1475万円 | 39% |
〜2000万円 | 38% |
<自営業者>
収入額 | 基礎収入割合 |
0〜66万円 | 61% |
〜82万円 | 60% |
〜98万円 | 59% |
〜256万円 | 58% |
〜349万円 | 57% |
〜392万円 | 56% |
〜496万円 | 55% |
〜563万円 | 54% |
〜784万円 | 53% |
〜942万円 | 52% |
〜1046万円 | 51% |
〜1179万円 | 50% |
〜1482万円 | 49% |
〜1567万円 | 48% |
ざっとご覧いただけると分かる通り、自営業者の方が基礎収入割合が高めです。また、上限が、それぞれ2000万円、1567万円となっています。
給与収入が2000万円以上だったり、事業収入が1567万円以上のケースでは、収入をこの上限額とみなして婚姻費用を計算するケースもあります。配偶者の生活を扶助する義務は、あくまでも生活の保証であって、蓄財をサポートする義務ではないからです。
ただし、これに関しては様々な考え方があり、養育費については上記金額を上限とする一方で、婚姻費用に関しては、基礎収入割合を収入額の増額に応じて小さくさせるという扱いが行われる場合もあります。例えば、以下のような試算値が提示されるなどしています(松本哲泓著『即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務』60ページ)。
<高額所得者のケース>
給与収入額 | 基礎収入割合 |
2000万円〜2500万円 | 37% |
〜3000万円 | 36% |
〜3500万円 | 35% |
〜4000万円 | 34% |
〜4500万円 | 33% |
〜5000万円 | 32% |
〜6000万円 | 31% |
〜7000万円 | 30% |
ただし、この考え方は収入があればあるほど生活費も高くなるという考えに基づいていますし、生活扶助義務の正当性や婚姻制度の正当性とも衝突します。したがって、私自身は賛同できません。
いずれにせよ、それぞれの収入額に、上記の基礎収入割合を掛け合わせてでた数字を足し合わせたものが、家族の生活費に使われるべき金額ということになります。
(例)
年収1000万円の夫、年収500万円の妻のケース
1000万円×40%(=400万円(夫の基礎収入))+500万円×42%(=210万円(妻の基礎収入))
=610万円(家族の生活費)
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3 ステップ3:生活費を割り振る
次は、以上の計算で導かれた家族の生活費を、別居中のそれぞれの家計に割り振ります。
生活費の割り振りにおいては、生活費指数というものが重要になります。
つまり大人一人にかかる生活費を100とした場合、そのほかの家族はどの程度になるのかという指標です。
具体的には、以下の通りとされます。
家族メンバー | 生活費指数 |
夫 | 100 |
妻 | 100 |
子供一人(15歳以上) | 85 |
子供一人(15際未満) | 62 |
これを基準として、それぞれの家計に生活費を割り振ります。
例えば、夫が自宅を出て、妻が子供二人(15歳と12歳)と生活をしている場合を考えましょう。
「2」の計算で、家族の生活費は610万円でした。これをそれぞれの家計に割り振ります。
(夫の家計)
610万円×100/(100+100+85+62)
≒176万円
(妻の家計)
610万円×(100+85+62)/(100+100+85+62)
≒434万円
したがって、夫は176万円の生活費を享受でき、妻は子供達と合わせて434万円の生活費を享受できることになります。
今回は、子供が2人のケースで計算しましたが、上記の計算方法がわかれば、子供が4人以上といった、婚姻費用算定表に記載されていないケースについても算定ができるようになります。
4 ステップ4:具体的な婚姻費用額の決定
いよいよ、具体的な婚姻費用額が算出できます。
上記では、妻の家計は434万円の生活費が享受できます。
先ほどの計算では、夫の基礎収入は400万円、妻の基礎収入は210万円でした。
妻は自分の基礎収入を全て自分の家計で使おうとしても、224万円足りません。したがって、この224万円を夫に請求できることになります。
224万円は年間の金額ですから、月ベースに直すと、約18万7000円です。
したがって、妻が夫に請求できる婚姻費用は月額18万7000円となりました。
まとめ
婚姻費用の手順は以下の通りです!
☑️ステップ1:それぞれの収入を確定します。
☑️ステップ2:基礎収入割合を使って、生活費に使うべき金額を決定します。
☑️ステップ3:生活費指数を使って、それぞれの家計に振り分ける生活費を計算します。
☑️ステップ4:自らの基礎収入を全額使っても足りない部分が、相手に請求できる婚姻費用額となります。
弁護士の本音
以上、具体的な婚姻費用額の計算方法を解説しました。
専門家でも、実務では婚姻費用算定表を見て金額を把握することが多いですが、本文でも述べたとおり、子供の人数が4人以上のケースや、収入が2000万円以上のケースでは、上記の数式を使った計算に戻って確認をする必要があります。また、子供たちが別々に住んでいるケースも、上記の数式を使わなければいけません。
今回の記事が、皆様の離婚問題解決のためにお役に立てれば幸いです。
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