婚姻費用の減額調停を申し立てるときは、審判前の保全処分を忘れずに!

弁護士

プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

今回は、婚姻費用の減額を求めて調停を申し立てる時には、審判前の保全処分も同時に申し立てるべきことを解説します。

1 婚姻費用の減額調停とは?

以前に調停や審判で婚姻費用の金額が決まった場合であっても、その時に前提となっていた事情に変更が生じた場合は、婚姻費用の減額ができます。そのために使われるのが、婚姻費用の減額調停手続です。

(千葉家裁松戸支部令和4年7月13日決定 ウエストロー・ジャパン)

家庭裁判所は、婚姻費用に関する調停が成立した場合であっても、その調停の基礎とされた事情に変更が生じ、その調停の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には、事情の変更があったものとして、その内容の変更または取消しをすることができる。

(津家裁令和2年6月2日決定 ウエストロー・ジャパン)

家庭裁判所は,扶養関係に関する協議又は審判がされた場合であっても,その協議又は審判の基礎とされた事情に変更が生じ,従前の協議又は審判の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には,事情の変更があったものとして,その内容の変更又は取消しをすることができる。

前提事情が変更したとして、よく挙げられるものは以下のとおりです。

☑️夫が転職して収入が大きく変わった。
☑️夫が独立して会社を立ち上げ、収入が大きく変わった。
☑️夫が定年退職するに至り、収入が減少した。
☑️夫が他の女性との間に子供を設け、被扶養者が増えた。
☑️妻が不貞をしていることが発覚したため、支払い義務がなくなった。
☑️妻が仕事を始めて収入を得るようになった。
☑️夫または妻が病気をして仕事ができなくなり、収入がなくなった。

このような事情が生じた結果、新しい条件のもとで婚姻費用を再度計算すると、以前の取り決め額よりもずっと金額が低くなる場合があります。その時に、婚姻費用の減額調停を申し立てることになります。

2 前の取り決めに基づいて強制執行される危険がある!

婚姻費用の減額調停を申し立てる際、注意点があります。それは、すでに以前に取り決められた調停調書や審判の決定書は、「生きている」状態だということです。

したがって、あなたが一方的に金額を減額して支払ったり、支払いを止めるなどした場合、相手が調停調書や決定書に基づいて、あなたの給与などを差し押さえてくる可能性があります。

婚姻費用の減額調停ですぐに話し合いがつくのであれば、その時に金額が確定しますので、強制執行はされないか、取り下げられることになります。しかし、婚姻費用の減額調停は、相手が合意に応じないことも多く、2、3ヶ月で終わることは少ないです。通常は審判へ移行し、解決まで、半年から1年程度の時間がかかりますので、その間に強制執行が実現してしまう危険があります。

それを避けるために必要なのが、「審判前の保全処分」ということになります。

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3 審判前の保全処分を申し立てて強制執行ができないようにしましょう!

審判前の保全処分は、家事事件手続法に定められている手続きです。調停や審判での解決を待っていては、利害関係人に急迫の危険が及ぶ場合に、裁判所が何らかの措置をとるという制度です。どのような措置をとってもらえるのかは事案によりますが、婚姻費用の減額を求める場合は、「以前の調停調書や審判の決定書に基づく強制執行を停止する」という内容の判断をもらうことになります。これにより、強制執行はできなくなります。

家事事件手続法157条

1 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、次に掲げる事項についての審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき、当該申立てをした者の申立てにより、当該事項についての審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
一 夫婦間の協力扶助に関する処分
二 婚姻費用の分担に関する処分
三 子の監護に関する処分
四 財産の分与に関する処分

東京高裁令和3年5月26日決定は、養育費に関するものですが、審判前の保全処分により、強制執行の停止を命じることができることを明言しています。婚姻費用についても、考え方は同じです。

(東京高裁令和3年5月26日決定 家庭の法と裁判43号82頁)

本件は、抗告人が、本件公正証書第3条1項において定められた子らの養育費の減額審判事件及び同調停事件を本案として、相手方に対し、同条項に基づく強制執行の停止を求める事案であるところ、養育費の支払いに関して合意された公正証書に基づく強制執行について、裁判所は、当該養育費に関する定めの変更を求める審判又は調停の申立てがあった場合において、利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があると認めるときは、強制執行の停止を命じることができると解される(家事事件手続法157条1項)。

審判前の保全処分が認められるためには、「急迫の危険」があることと、「婚姻費用の減額が認められる可能性が高いこと(蓋然性があること)」が必要です。

上記東京高裁令和3年5月26日の決定を見ると、相手が強制執行を申し立てる旨を述べている場合は、「急迫の危険」があるとみなされるようです

(続き)

・・・前記認定の事実によれば、相手方は、抗告人に対し、本件公正証書第3条第1項に基づく子らの養育費について、155万4000円の未払があるとして、代理人弁護士を通じて強制執行手続へと移行するとの通知をしているのであるから、抗告人の急迫の危険を防止するため、本件公正証書第3条第1項に基づく強制執行を停止する必要性が認められる。

「婚姻費用の減額が認められる可能性が高いこと(蓋然性があること)」については、事案により、妥当するか分かれるでしょう。ただ、当事者の収入が大きく変化しており、婚姻費用の減額が認められるのが通常といえる内容であれば、その要件を満たすことになるでしょう。

婚姻費用の減額調停を申し立てる際は、審判前の保全処分を申し立てることも忘れずに検討しましょう。

※<以下、法律家向けの専門的な解説>

なお、実際に強制執行を受けてから、請求異議の訴えを提起し、それにあわせて強制執行の停止申立てをする方法も考えられますが、調停や審判で新たな金額が形成されるまでは、実体法上は従前の金額の支払い義務が継続するため(異議事由なし)、請求異議はもちろんのこと、強制執行の停止も認められない可能性があります。もちろん、妻側の強制執行が権利濫用に該当するとの理由で、異議事由や強制執行の停止が認められる場合もあるでしょう。とはいえ、請求異議の訴えは、訴訟手続ですから、その負担の大きさに鑑みると、やはり上記の審判前の保全手続で解決したいところです。

上記の東京高裁令和3年5月26日決定も、「新たな養育費の内容を定める前提として、従前の債務名義に基づく強制執行の停止を求めるため、請求異議訴訟を提起しなければならないと解することは、義務者に不要な負担を強いるものであり、適当とは言い難く、端的に養育費の減額を求める調停又は審判に伴う保全処分として強制執行の申立てをするのが相当である。」と述べています。

弁護士のホンネ

弁護士 青木
弁護士のホンネ

お互いに弁護士がついているようなケースであれば、婚姻費用の減額調停を申し立てれば、通常は強制執行の実施を控えてくれます。しかし、お互いに弁護士がついている場合でも、従前の経緯から敵対心が強くなっている場合や、婚姻費用の減額が認められるか微妙な事例では、強制執行に臨むケースもあるでしょう。したがって、公正証書や調停調書、審判の決定書など、強制執行ができる材料を相手が持っている場合は、今回紹介した審判前の保全処分の申し立ての検討をお勧めします。

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