突然訪ねてこられて動揺していましたし、署名押印をしてしまいましたが大丈夫でしょうか?
不倫をしてしまった後、不倫相手の旦那さんまたは奥さんが直接訪ねてきたために動揺し、その場で慰謝料に関する合意書や誓約書に署名押印(サイン)をしてしまう方がいらっしゃいます。
結論を先に述べますと、安易に慰謝料に関する合意書や誓約書に署名押印(サイン)をすることは絶対に避けましょう!
今回の記事では、
・慰謝料に関する合意書や誓約書への署名押印(サイン)をなぜ避けるべきなのか?
・署名押印を求められた場合の対処法
について、丁寧に解説をします。
合意書や誓約書の意味合いとは?
合意書や誓約書は、その記載内容にもよるところですが、作成者の意思や約束事項を示した書類として扱われます。
一例としては、合意書や誓約書において、
という内容の記載がある場合には、▲▲さんから■■さんに対して、●●万円を支払うという自分の意思を明確化したもの(約束したもの)として扱われることになります。
そして、法的には、そこに記載された義務が発生するものとして扱われます。
合意書や誓約書に署名押印(サイン)した場合のリスクとは?
合意書や誓約書に署名押印(サイン)した場合の具体的なリスクの最たるものは、本来慰謝料を払う義務がない場合であっても、そこに記載されている金額を払わなければならない義務が生じるということです。
慰謝料の支払いを求める裁判においては、①慰謝料の請求を受けている人がそもそも慰謝料を支払う責任を負っているのか否か、②慰謝料を支払う責任を負っていることを前提に、具体的な慰謝料の金額がいくらか、という2点が確実に問題となります。
本来であれば、▲▲さんは①と②の2点について争うことが可能なのですが、慰謝料に関する合意書や誓約書が存在するだけで、①と②の2点について争うことはほぼ不可能になります。
より具体的に例を出すと、●●万円が300万円や500万円という高額な金額の場合、▲▲さんは■■さんに対して、300万円(または500万円)を支払うことを約束したという扱いになりますので、裁判の場合にも同額の支払いを命じられます。
確かに、1億円などの非常識な金額であれば争う余地も出てきますが、1000万円を限度に不貞の違約金額を有効とした判例もありますので、注意が必要です。
不貞慰謝料は、巷で言われているほど高くありません。
本来的には、▲▲さんは200万円以下の金額を支払えば問題なかった可能性もあります。100万円を下回ること可能性さえあります。
しかし、慰謝料に関する合意書や誓約書が存在するだけで、そこに記載された300万円とか500万円の支払いが必要になってしまうのです。
慰謝料に関する合意書や誓約書に署名押印(サイン)をしてしまった場合、このような多大なリスクを負うことになります。
なお、合意書には、今後さらに不貞をした場合の違約金の定めが記載されていることがあります。こちらも、応じるだけ損です。これに関しては下記の記事をご参照ください。
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相手から合意書や誓約書を見せられて署名押印(サイン)を求められた場合の対処法
それでは、相手から慰謝料に関する合意書や誓約書を見せられ、署名押印(サイン)を求められた場合の対処法について説明します。
もっとも簡単で確実な対処法は、署名押印(サイン)をすることを絶対に避けるということです。
具体的には、「一応こちらも弁護士に相談したい。」とか、「一旦落ち着いて考えたい。」などという適当な理由をつけて、その場で署名押印(サイン)することは絶対に避けましょう。
それでも無理矢理に署名押印(サイン)を求められた場合は、一旦トイレ休憩と偽って逃げるのもありです。
また、トイレに行き、スマホアプリで録音を開始し、席に戻って署名押印(サイン)を強要してきた場面を録音するのも良いでしょう。
後で脅迫や強要があったことの証明ができるかもしれません。
ただ、何れにせよ署名押印は避けましょう。
相手から示された内容を少し修正して署名押印(サイン)することも避けるべきです。
ご相談者の中には、「慰謝料を支払う意思がある。」という記載や「●●万円を支払う意思はあります。」という記載であれば自分には不利にならないと考え、相手をなだめて帰ってもらうために署名押印(サイン)に応じてしまう方もいらっしゃいます。
しかし、合意書や誓約書において、慰謝料を支払う意思があることを記載してしまうと、慰謝料の支払いそのものについて後で争うことができなくなる可能性が生じます。
このため、内容にかかわらず、署名押印(サイン)は避けるべきです。
また、もし万が一、合意書や誓約書に署名押印(サイン)をしてしまったという場合には、そうした中で次善の策を練る必要がありますので、すぐに弁護士などに相談するのが良いでしょう。
<まとめ>
・不貞の合意書や誓約書は、署名押印(サイン)することで自分の意思と見なされる!
・仮に慰謝料の支払いを争える場合でも、合意書や誓約書があれば争えなくなる!
・仮に100万円未満の慰謝料しか発生しない場合でも、合意書や誓約書に記載した金額を支払わなくてはならなくなる!
・相手から合意書や誓約書への署名押印(サイン)を求められても、「弁護士に相談する」などと理由をつけて断ろう。
・それでも署名押印(サイン)を強要してくる場合には、トイレと偽って逃げるか、その状況を録音するのも一手!
弁護士であれば、合意書や誓約書などの書面に署名押印(サイン)することのリスクの大きさをよく理解できますが、一般の方においてはそうした認識があまり広まっていない感触を受けます。
確かに、いきなり相手が自分のもとに訪ねてきて、合意書に署名押印(サイン)しなければ帰らないなどと言われた場合、動揺してしまうのはやむを得ないことだと思います。そして、そうした状況で署名押印(サイン)しても、後でなんとかなると思ってしまうのかもしれません。
しかし、法律はそれほど甘くはありません。安易に署名押印(サイン)をした結果、弁護士であっても、それにより生じる法律上の義務は原則として変えられません。
今回の記事が、合意書や誓約書に署名押印(サイン)することのリスクを知るきっかけになればと思います。
また、もし合意書や誓約書に署名押印(サイン)してしまった場合には、すぐに弁護士に相談してください。