1 はじめに
「配偶者が不倫していたけれど、私も不倫してしまっていた。こんな私でも離婚はできるのだろうか?」
そんなふうに、自責の念と相手への怒りの狭間で苦しんでる方もいるでしょう。
離婚は感情だけでは進みません。特に双方に不貞行為があった場合、法的にはどのように判断されるのか、冷静な視点が必要です。
本記事では、実際の事例や判例、そして離婚専門弁護士の現場での実感も交えて解説します。
2 不貞行為は立証できるか?まずは「証拠」の有無が重要
そもそも、双方に不貞行為があったとしても、それを証拠で立証できるかどうかが重要です。
配偶者が不貞行為を行っている可能性が高いと思っても、証拠がなければ、裁判において不貞行為が認定されることはありません。
証拠として考えられるものは様々ですが、探偵業者の報告書、不貞相手との性行為をうかがわせるようなLINEやメールのやり取り、配偶者が不貞を自白した時の記録などが挙げられます。
探偵業者の調査の際は、実際に配偶者が不貞相手の自宅、またはホテルに入ったところを写真で撮れているかどうかが重要となります。また、配偶者が現在不貞の事実を認めていたとしても、裁判になった場合に否定することは考えられるので、録音などを残しておくことが大切です。
なお、証拠がなければ不貞行為は認められません(相手が認めた場合は別です。)。その場合、相手が不貞をしていることが確実なことはわかっていても、自分だけの不貞が認められ、相手の不貞は認められないという事態に陥ることになりますので、その点注意が必要です。
不貞行為の証拠について、詳しくは「【不貞・不倫】探偵の証拠写真、どこまで撮れてれば良い?弁護士が解説」をご覧下さい。
プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間20[…]
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3 不貞をした側は「有責配偶者」になる
まず、一方だけが不貞行為をした場合を考えます。不貞をした配偶者の責任について整理をしておきましょう。
不貞行為をした側は有責配偶者となり、有責配偶者による離婚請求は、原則として認められません。ただ、一定の要件が満たされる場合には認めるとされております。
その判断枠組みを示した昭和62年9月2日最高裁判決は、その要件として以下の3点を挙げています。
・夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと
・その間に未成熟の子が存在しないこと
・相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められないこと
(最高裁大法廷昭和62年9月2日判決(民集41巻6号1423頁))
有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。けだし、右のような場合には、もはや5号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。
この枠組みより、有責配偶者からの離婚請求は、たいていの場合は、10年間程度の別居期間がなければ離婚が認められないという判断がされています。
判例の枠組みについて、詳しくは、「有責配偶者による離婚請求を認めないとする最高裁。判例変更はされるか?【弁護士の考察】」をご覧下さい。
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4 双方に不貞行為があった場合は、有責性の程度を比較する。
次に、双方に不貞行為があった場合を考えます。
この場合は、一方だけに不貞行為があった場合と異なり、双方の有責性を比較する必要があります。
なぜなら、判例では、有責配偶者について、「離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者」と判示しているからです。そのため、双方に不貞行為があっても、専ら一方だけに責任がなければ、どちらかを有責配偶者と判断することはできないと考えられます。
その有責性の考慮要素としては、不貞の期間、回数、悪質性などが挙げられ、双方のこれらの事情から有責性の程度を比較することになります。
そして、比較の結果、①有責性の程度に大きく差がある場合、②大きく差はないが少し差がある場合、③同程度の場合のそれぞれが考えられるでしょう。
したがって、それぞれの場合でどのような判断がされるか検討していく必要があります。
(最高裁大法廷昭和62年9月2日判決(民集41巻6号1423頁))
5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合つて変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。
5 自分の方が有責性が大きい場合
双方の不貞行為を比較した結果、自らの不貞行為の方が有責性がはるかに大きかった場合、自らが「専ら責任のある一方の当事者」として有責配偶者となるため、自らの離婚請求においては、通常の有責配偶者の枠組みが適用されるでしょう。
また、はるかに大きいとまでは言えないが、自らの有責性の方が多少大きい場合、厳密には有責配偶者とは言えないと考えることも可能ですが、実務上は(特に夫側は)有責配偶者とみなされてしまう傾向にあります。とりわけ、夫側の不貞行為は厳しく判断されるのが実情です。
(弁護士の経験談)
例えば、夫の不貞行為がある場合は、妻にも暴言や手荒な行為があった場合でも、夫のみが有責配偶者とみなされることが多いです。
一方で、妻に不貞行為があっても、夫にも粗暴な言動が認められる場合は、仮に夫側に肉体的な暴力や不貞はなかったとしても、双方に問題があるとして、妻は有責配偶者にならない、というケースが実際にあります。
男女平等の観点から、こうした取り扱いが適切かという問題はありますが、現状、裁判所はこうした判断を行う傾向にありますので、その点は「現実」として知っておかれると良いでしょう。
6 配偶者の方が有責性が大きいか同程度であった場合
一方で、双方の不貞行為を比較した結果、配偶者の有責性の方が強ければ、相手配偶者が「専ら責任のある一方の当事者」になりますので、「配偶者に不貞な行為があったとき」(民法第770条1項1号)として、離婚原因(法定離婚事由)が認められ、離婚請求は認められます。
また、お互いに責任が同程度の場合は、どちらかを「有責配偶者」と言うことはできませんので、この場合も、「配偶者に不貞な行為があったとき」(民法第770条1項1号)として、離婚請求ができることになります。
まとめ
☑️夫婦双方に不貞行為があった場合でも、離婚が認められるかは有責性の程度によって異なります。
☑️証拠の有無を前提として、不貞の質や悪質性を比較し、まず、どちらかが「専ら一方に責任がある」当事者と判断されるかを検討することが重要です。
☑️自らの責任が大きければ離婚請求が難しくなりますが、相手側の責任が大きい場合や同程度であれば、離婚が認められることになります。
弁護士のホンネ

法律事務所
双方に不貞行為があるというケースは、実務では意外に多く当たります。こうした場合に大事なのは、自分自身の立場、証拠、相手の行為の程度を冷静に見極めて対応することです。
なお、ここまでの話はすべて「裁判で争った場合」の視点です。しかし、実際には、多くの離婚は調停や話し合い(協議)で解決します。
そして、交渉では柔軟な解決が可能です。もっとも、その交渉も「裁判ならどうなるか?」という法的見通しを正確に理解してこそ有利に進められるという実情があります。
そのため、少しでも見通しに不安がある場合は、離婚専門の弁護士に相談することをお勧めします。
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