弁護士から内容証明郵便で通知書が届き、300万円や500万円を請求された!というご相談が増えています。
私どもの事務所は男女トラブルが専門のため、不倫に伴う慰謝料請求に関する相談が多いですね。
その時にご相談者様から決まって述べられるのは、「本当にこんな金額を払わないといけないの?」「ネットで調べた相場と全然違うんですが?」「なんで先方の弁護士はこんなに高圧的なんですか?」というところです。そして憤りを感じてらっしゃる方が大部分です。
まさに、おっしゃる通り、請求額は裁判相場の数倍になっていることも多いですし、その口調や文面は高圧的に感じてしまう場合も多いでしょう。
でも、弁護士の書面を見て、「ムカつく!」と感じてしまった場合でも、落ち着いていただければと思います。なぜ弁護士の書面は請求額が跳ね上がっていて、また、高圧的なのでしょうか。理由が分かれば対処法も見えてきます。
以下、説明しましょう。
1 アンカリングという古典的な手法を知っておこう!
アンカリングという言葉をご存知でしょうか。ギリシャ語で「腕」を意味する言葉を語源とするアンカーは、船が港で停泊する時に使われる錨(いかり)を意味します。腕のような形をしている錨を海底に下ろして、船を止めるわけですね。
交渉学でいうアンカリングも、ここから来ているのですが、交渉の範囲をエイッと固定してしまう手法で、それは弁護士が一定額を請求するという単純な行いで実現してしまいます。
例えば、不貞で慰謝料請求をされている場合、弁護士が300万円を請求してきている場合、どうでしょうか?300万円を請求された人は、減額の交渉をしたい場合、200万円程度を打診しようか検討しているかもしれません(裁判所の相場では慰謝料額は150万円前後が一般的です。)。
実は、この時点ですでにアンカリングが完成しているのですね。無意識に、交渉の余地は200万円から300万円程度の範疇と思ってしまっているかもしれません。つまり、この場合、200万円から300万円の範疇を交渉範囲にするというアンカリングが達成されてしまっているのです。
相手が専門家であっても、こうしたアンカリングは効果を発揮するということが社会心理学の研究でも証明されています。単純で古典的な手法ではありますが、難敵です。
しかし、これがアンカリングという手法であるということさえ知っておけば、恐れることなく、交渉を行いやすくなるでしょう。相手がアンカリングを使ってくるのであれば、それが通用しないことを示すために、相場よりも遥かに低い金額を逆提示するという手法も良く行われています。
2 誇張をして本心を隠す
弁護士の文面や口調が、時に威圧的に感じられるのはなぜでしょう。交渉という側面で考えると、それは本心を隠すためである場合が多いでしょう。
弁護士としても、可能な限り裁判という時間や労力のかかる手続ではなく、話し合いでの早期解決を本心では期待しているのが通常です。したがって、ある程度の譲歩は止むを得ないと考えているわけですが、それをそのまま表現すると、当然に足元を見られます。したがって、おくびにも出さないよう、あえて強気で威圧的とも感じられる表現を使うのですね。それによって、本心としても本当に譲歩の余地はないように振る舞うのです。
したがって、弁護士はやや誇張をしながら書面を記載し、譲歩の余地が乏しいように振る舞い、あなたに判断を迫ってきます。
この構造が理解できていれば、対処もしやすくなるはずです。
3 裁判相場を確認しておこう!
それでは、あなたは具体的に何を基準に判断をして弁護士に反論すれば良いのでしょうか。
それは、裁判相場です。
なぜなら、弁護士は裁判をした場合よりも有利な内容であれば当方の提案に応じざるを得なくなりますし、逆に、裁判をした場合よりも不利な内容であれば当方の提案を蹴るだろうからです。
したがって、裁判になった場合にどの程度の金額になるのかという裁判相場を把握できていれば、それを基準に交渉を進めやすくなるでしょう。
ただ、裁判相場というのが難しい部分でもあります。弁護士によっても、判断が異なるケースもありますし、時には裁判官によっても判断が分かれるような内容の事案もあるので、裁判相場というのも曖昧です。そこが交渉を難しくする部分です。
しかし、一つ言えることは、弁護士から言われた金額が裁判相場を大幅に超える金額であれば、それをそのまま支払うということは、最もやってはいけないことと言えるでしょう。
弁護士からの請求があった場合でも、あなた自身も他の弁護士に相談や依頼をすることができます。対等な立場と知識を持って、交渉に立ち向かっていきましょう。
まとめ
- 弁護士の文面が高圧的にも見えるのには理由がある!
- アンカリングなどの弁護士の交渉手法を知っておこう!
- 裁判相場を確認して、それを基準に交渉を行おう!
- こちらも弁護士に相談をして、対等な知識を持って交渉に立ち向かおう!
弁護士のホンネ
時々、弁護士からの通知に怒りを覚えつつも、記載されている金額をそのまま支払ってしまう方もいらっしゃいます。原則として、支払った金額を返してもらうことはできませんから、ぜひ注意をしてほしいと思います。慰謝料額として300万円や500万円という額が認められることはほとんどありません。弁護士の書面の記載ぶりには理由があることを理解していただき、正しく対応をしましょう。
そのことが、公正な解決につながりますし、不当な請求が通用しない社会の構築につながるはずです。