プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
このような相談を時々お受けします。
今回は、特に単身赴任中の方を念頭に、なぜ別居の事実が重要なのか、そして、別居とみなされるためにどのような行動をとるべきか、解説します。
1 なぜ別居の事実をはっきりさせる必要がある?
(1)離婚が認められるために必要な「別居」
民法は、夫婦の婚姻関係を継続できない重大な事情がある場合(つまり、婚姻関係が破綻していると言える場合)には、配偶者の同意がなくても、裁判で離婚することを認めています。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
・・・
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
「婚姻を継続し難い重大な事由」としては、例えば配偶者からの暴力や暴言などがありますが、より一般的なものとしては、別居をしてから期間が経過していることが挙げられます。 一般的に、離婚が認められるために必要な別居期間は、3年から5年程度とされます。
(2)単身赴任の場合の問題点
一方で、夫または妻が単身赴任をしている場合、問題があります。
それは、一方が夫婦生活を見限って、単身赴任をきっかけに別居を始めたつもりでいたとしても、配偶者もそうした認識でいない限り、別居とはみなされない可能性が高いからです。「別居」と言うためには、単に夫と妻が別の場所で生活をしているという客観的な状況があるだけなく、それが夫婦としての共同生活を否定するものであると言えなければなりません。
その結果、10年以上の単身赴任を経て、本格的に離婚を申し出た結果、配偶者から、「これまでの別々の生活はあくまでも単身赴任だから、離婚には応じない」とされるケースが多々あります。
配偶者としては、離婚など全く予想外と考えているケースもありますが、薄々別居状態だと認識していても、婚姻費用をもらえなくなるなどの離婚のデメリットを考え、離婚に応じないことも多いです。そして、裁判所に離婚を請求しても、単身赴任の期間が別居とみなされなければ、離婚を認容してもらうことは困難です。その結果、長期の単身赴任による別々の生活状態を経て、そろそろ離婚ができると思いきや、離婚を打診してから5年経ってようやく離婚ができるという事態になりかねません。
そのため、単身赴任中で離婚を検討している方は、できるだけ早く、今の別々の生活を「別居」状態だと評価してもらえるよう行動する必要があります。
なお、「別居」については、以下の記事でも詳しく説明をしていますので、参考にしていただければと思います。
離婚を巡る争いにおいて、別居の開始時期は重要な意味を持ちます。というのは、離婚訴訟では、別居が開始していない場合には、(他に不貞などの事情がない限り)離婚判決が出される可能性は極めて低いからです。逆に、別居の期間が長期間に及ぶ場合に[…]
2 別居状態をはっきりさせる方法
以下では、単身赴任中の方が、現状を別居状態としてはっきりさせるために行うべき行動をお伝えします。
先ほども述べた通り、離婚紛争における「別居」と言うためには、単に夫と妻が別の場所で生活をしているという客観的な状況があるだけなく、それが夫婦としての共同生活を否定するものであると評価されなければなりません。
したがって、単身赴任中の方が行うべきアクションとしては、現在の別々の生活状況が、もはや夫婦としての共同生活ではないことを示すことになります。
以下、優先度の高い順でお話しします。
(1)メールやLINEで、今後は元に戻る予定はないことを相手に伝える
まずは、配偶者に直接、今後共同生活に戻るつもりはない旨を明確に述べることが必要です。メールやLINEなど、形に残るもので行ってください。電話だと、裁判になった場合に、配偶者から「そのような話は聞いていない」の一言で終わってしまいます。裁判になれば証拠が命です。
(2)家計を分離する
次が、家計をきっちり分離することです。例えば、こちら名義の通帳を配偶者が管理しているのであれば、その通帳を返却するよう求めたり、通帳を再発行して自分で管理するようにしましょう。
自分の口座から配偶者のための費用が引き落とされている場合は、配偶者自身で支払うようお願いすることも必要です。
もちろん、こちらの方が収入が高い場合や、配偶者が子供の面倒を見ている場合には、配偶者に生活費を渡す必要があります。もっとも、それは家計の分離と両立します。ですから、生活費を渡しつつ、自分名義の通帳やその他の資産は自分で管理するようにしましょう。
婚姻費用の金額はそれぞれの収入により決まります。一般的には裁判所の作成した表(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)を使って算定することになります。
なお、自分の口座から配偶者のための費用が相変わらず引き落とされている場合は、毎月相手に支払う生活費から控除することが認められます。
(3)住民票を異動させる
もし、住民票の異動がまだであれば、それもきちんと異動しましょう。住民票の記載自体は形式的なものではありますが、上に述べた(1)や(2)とあわせて行うことで、一連の別居行為を構成するものとして重視される可能性があります。
弁護士の本音
単身赴任をきっかけに別居に至るというケースは実は多いのですが、裁判でそれが「共同生活を否定する意味での別居」とまでは評価されないことも多いです。一般的な別居夫婦よりも関係が劣悪なのに、離婚できない、、、なんてケースはよくあります。
相手に共同生活に戻るつもりはないと、ラインなどで一言述べるだけでも、評価がガラリと変わる可能性があります。単身赴任の方で離婚を念頭に置いている方は、できるだけ早くそうしたアクションを取ることを検討されると良いでしょう。