プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、離婚協議書は作成されたが、妻が離婚届を提出してくれない場合にどのようなことが生じるのかについて、解説します。
※今回は、離婚をしたい男性向けの記事となります。
1 離婚届が提出されない場合、離婚協議書の効力はあるの?
離婚協議書は、協議離婚する場合の合意書(法的には、「離婚届の提出(協議離婚の成立)を条件とする停止条件付の契約」)になります。そのため、妻が離婚届を提出しない限り、離婚になることはありませんので、離婚を前提とする取り決めの部分については、効力が生じません。なお、夫が離婚届を提出しても良いのですが、通常は、離婚後の氏を選択する妻側が離婚届を提出する流れになるでしょう。
確かに、離婚協議書を締結した場合、通常、「妻は遅滞なく離婚届を提出する」という合意内容が入っています。しかし、離婚は、離婚届の提出によって初めて成立しますので、そうした合意はある意味で当然のことで、確認的な意味合い以上のものではありません。
したがって、夫が離婚を引き続き求める場合は、離婚調停や離婚裁判という手段を検討する必要があります。離婚条件に関しても、一からやり直しとなる可能性があるでしょう。
2 妻による婚姻費用の請求も認められる
ところで、夫が一番恐れるのは、離婚協議書を締結したにもかかわらず、離婚に至らない結果、婚姻費用を請求されることだと思います。
法律上、妻による婚姻費用の請求は可能です。法律上の婚姻関係にある限り、婚姻費用分担の義務が生じるとするのが裁判所のスタンスです。
(東京高等裁判所令和4年10月13日決定(判タ1512号101頁))
婚姻費用分担義務は、・・・婚姻という法律関係から生じるものであって、夫婦の同居や協力関係の存在という事実状態から生じるものではない
そのため、夫側が、妻の翻意により、離婚届が提出されなくなる事態を恐れる場合は、あらかじめ離婚協議書において、「本合意締結後、離婚届を提出するまでの間、婚姻費用の請求は行わないことを約束する。」の文言を協議書に入れておくと良いでしょう。その場合、離婚成立を前提とする財産分与の取り決めなどは無効であっても、離婚までの間の婚姻費用に関する上記取り決めは有効とされる可能性があります。
3 離婚裁判では離婚協議書の存在がどのように扱われる?
さて、妻が離婚届を提出してくれず、離婚調停でも話し合いがつかず、離婚裁判になったとします。その場合、かつて締結した離婚協議書はどのような意味を持つのでしょうか。
結論として、裁判では、離婚協議書の存在によって直ちに離婚を認めてくれることにはなりません。
なぜなら、裁判においては、法律上の離婚事由(法定離婚事由)というのが必要です。そして、多くの場合は婚姻関係が破綻しているかどうかを判断することになりますが、離婚協議書の作成の事実があるからといって、直ちに婚姻関係が破綻していると評価されるわけではないからです。
<法定離婚事由>
(裁判において離婚が認められるために必要な条件(いずれか一つが必要))
①不貞行為
②悪意の遺棄
③3年以上の生死不明
④強度の精神病
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があること
(以上、民法770条1項)
確かに、双方離婚したいというケース(妻も反訴を提起しているなど。)では、婚姻を継続できないことが認められますので、ほぼ間違いなく離婚は認められます(上記⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるとみなされます。)。
一方、妻が裁判でも離婚を拒否している場合は、婚姻が本当に継続できないのか、裁判所としては慎重に判断をする必要が出てきます。
4 とはいえ、離婚協議書の存在は婚姻関係が破綻していることを示す事情にはなる!
ただ、過去に離婚について合意をしたことがあるという点、それも正式に書面にまでしていたという点は、決して軽くはありません。
離婚協議書を作成したということは、少なくとも夫婦関係が破綻に瀕していたことを示すものと評価できるでしょう。
ただ、協議書を作成した後に、婚姻関係が回復したことを伺えるような特別な事情があれば別です。また、そもそも破綻にまで瀕してはいなかったが、夫の求めに応じてやむなく合意したに過ぎないことが判明すれば、やはり夫婦関係が破綻しているとはまでは評価されない可能性はあります。
今回の弁護士からのアドバイス
離婚協議書を作っても、妻が離婚届を提出してくれなければ、、、、
☑️離婚協議書は効力を持ちません!
☑️婚姻費用を請求される可能性もあります!
☑️ただし、離婚裁判で、婚姻関係が破綻していることを示す事情として主張はできるでしょう。
☑️不安であれば、離婚協議書の中で、「本合意締結後、離婚届を提出するまでの間、婚姻費用の請求は行わないことを約束する。」旨の取り決めを行っておくことをおすすめします。
弁護士の本音
離婚というのは、その後の人生の道のりを決めるものですので、慎重な判断が必要です。もっとも、あまりにも慎重になるがゆえに、書面を締結したものの、やはり離婚しない方が良いかもしれないと思い直すケースもまま見られます。
私たちは、離婚をしたいという別居中の相談者や依頼者の方に、離婚協議も悪くはないけど、できれば離婚調停の方が良いと、かなりの頻度でアドバイスをします。それは、離婚協議書を締結するまで多くの労力を割いても、最後に翻意をされて、それまでの努力が無駄になるケースもあるからです。
今回の記事が皆様の離婚問題の参考になりましたら幸いです。