離婚を巡る争いにおいて、別居の開始時期は重要な意味を持ちます。
というのは、離婚訴訟では、別居が開始していない場合には、(他に不貞などの事情がない限り)離婚判決が出される可能性は極めて低いからです。
逆に、別居の期間が長期間に及ぶ場合には、他に明確な離婚事由がなくとも、離婚が認められる可能性が高くなります。
※離婚判決と別居期間の関係に関して詳しくは「別居期間が短くても離婚できる!?正しい解説!」
その他、別居の開始時は財産分与の基準日となったり、離婚紛争の中でとても大切な概念です。
※財産分与の基準日について詳しくは「離婚ではいつの時点の財産を分与すればいいの?不動産所有者必見!」
そこで今回は、
・離婚紛争における「別居」とは何か?
・いつから「別居」と見なされるのか?
・「別居」と見なされる基準
について、詳しく解説します。
1 離婚紛争における「別居」とは何か
夫婦は、互いに「同居し、互いに協力し扶助」する義務(同居義務・協力義務・扶助義務)を負い合っており(民法752条)、夫婦として共同生活を営むものと考えられています。
そして、夫と妻が別の場所で生活をしているとしても、そのことが夫婦としての共同生活を否定するものでなければ、離婚紛争における「別居」には当たりません。
つまり、離婚紛争における「別居」と言うためには、単に夫と妻が別の場所で生活をしているという客観的な状況があるだけなく、それが夫婦としての共同生活を否定するものであると言えなければなりません。
客観的な状況としての別居 ≠ 離婚紛争における「別居」
夫婦としての共同生活を否定するものかどうか(離婚紛争における「別居」に当たるかどうか)は、別居を開始した理由によって結論が異なります。
以下、例を挙げて解説しましょう。
2 離婚紛争における「別居」に当たらない場合の具体例
(1) 仕事の都合で別居の状況となった場合
単身赴任などの事情で夫が家族と離れて暮らすこととなったとの理由で開始した別居は、夫婦としての共同生活を否定するものとは言えませんので、離婚紛争における「別居」には当たりません。
そのため、たとえ単身赴任によって開始された別居が長期間に及んでいたとしても、その別居期間のみを理由に離婚判決を勝ち取ることは難しいでしょう。
(2) 長期間の入院などの事情により別居が開始された場合
長期間の入院などの事情により別居が開始された場合も、夫婦としての共同生活を否定するものとは言えませんので、離婚紛争における「別居」には当たりません。
(3) 子供の進学に対応するために別居の状況となった場合
例えば、子供が遠方の大学に進学したことを契機として、妻と子供が大学所在地に引っ越しをしたとします。
その場合も、夫と妻が離れて暮らすことになってはいますが、通常は夫婦としての共同生活を否定するものとは言えませんので、離婚紛争における「別居」には当たらないと考えられます。
(4) 何らかの理由がある終期が決められた別居である場合
何らかの理由がある終期が決められた別居(例えば実家の両親を介護する必要が生じたために実家に戻るなど)は、夫婦としての共同生活を否定するものとまでは言えないことが多く、通常は離婚紛争における「別居」には当たらないでしょう。
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3 離婚紛争における「別居」に当たる場合の具体例
逆に、離婚紛争における「別居」と見なされるようなものは以下の通りです。
(1) 離婚の話し合いを冷静に進めるための別居である場合
離婚の話し合いを冷静に進めるために開始された別居のような将来の離婚を前提とする別居は、夫婦としての共同生活を否定するものと言えますので、離婚紛争における「別居」に当たります。
(2) 不貞相手と同居するための別居である場合
不貞相手と同居するための別居である場合には、夫婦としての共同生活を否定するものであることは明白ですから、離婚紛争における「別居」に当たります。
(3) 理由も言わずに一方的に開始した別居である場合
理由も言わずある日突然一方的に開始された別居は、一般的には夫婦としての共同生活を否定するものと言えますので、通常は離婚紛争における「別居」に当たると言えることが多いでしょう。
なぜなら、そもそも別居が開始されている以上は別居を開始するだけの理由があるはずなのに、そのような理由について夫婦間で話し合いもできないような夫婦の状況であったと考えられるためです。
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(4) 別居開始後に離婚の話し合いが開始された場合
別居開始時の別居理由では離婚紛争における「別居」には当たらないと考えられる場合であっても、別居開始後に夫婦間で離婚の話し合いが開始された場合には、その時点で夫婦としての共同生活を否定する別居であることが明確となりますので、その時点から離婚紛争における「別居」が開始されたと考えることができるでしょう。
(5) 別居を開始した理由が消滅したにも関わらす別居が継続している場合
例えば両親の介護のために別居を開始した場合や、子供の進学に対応するために別居を開始した場合において、そのような別居理由が消滅したにも関わらず別居が継続されることがあります。
そのような場合は、別居理由が消滅した以降のタイミングで、離婚紛争における「別居」が開始したものとなる可能性があります。
(6) いわゆる冷却期間として開始された別居の場合
夫婦間の喧嘩が絶えずに同居生活を続けていくことが辛いとき、離婚をするまでの気持ちがなかったとしても、冷却期間として一時的に実家に帰省するなどして、別居が開始されることがあります。
このような別居であっても、当事者のいずれか一方が夫婦関係をやり直すつもりがない場合には、離婚紛争における「別居」の開始とされる場合が多いです。
他方、当事者双方に離婚するまでのつもりがなく、期間を決めて開始された別居(例えば、「1週間だけ実家に帰るが、1週間経過後には戻ってくる。」との約束のもとで開始された別居など)は、離婚紛争における「別居」とは考えにくいでしょう。
もっとも、そのようにしてとりあえず開始された別居であったとしても、別居開始後に当事者の一方が明確に「もう同居に戻りたくない!」「離婚したい!」などと宣告した場合には、その時点で夫婦としての共同生活を否定する別居であることが明確となりますので、その時点から離婚紛争における「別居」が開始されたと考えることができるでしょう。
4 離婚したいとの本心を秘して開始された別居について
別居をスムーズに開始するために、あえて相手には「離婚したい」との気持ちを秘して、とりあえずそれらしい理由をでっち上げて円滑に別居をスタートしようとすることもあると思います。
例えば、上記の例を使えば、あえて遠方への単身赴任の希望を出したり、丁度実家の母が体調不良気味であることを理由に介護のために短期間実家に戻りたいと切り出したりすることなどが考えられます。
こうして開始された別居は、あなたにとっては将来の離婚を見据えての別居ではありますが、相手には離婚ということが全く考えに上がっていないかもしれません。
そのため、別居を継続して、たとえ3年間以上の別居期間を得た上で、満を持して離婚を切り出したとしても、実際に「別居」を開始したとされる時点が離婚の話し合いを開始した時点とされてしまう可能性があります。
そのような事態を避けるためにも、別居開始した後に、相手に対して一旦は離婚を切り出しておくことが良いと考えられます。
相手に対して離婚を切り出しておけば、仮にその際には全く離婚の話し合いが進まなかったとしても、離婚を切り出した時点で離婚紛争における「別居」が開始されたと考えられるからです。
なお、相手に対して離婚を切り出すのは、口頭でではなく、書面やメール、ラインなどで残しておくことが極めて重要です。
<まとめ>
・離婚紛争における「別居」とは、客観的に別居をしていて、それが夫婦としての共同生活を否定するものをいう!
・単身赴任や療養のために帰省するのは別居と見なされない可能性が高い。
・単に別々に生活をしているだけでは「別居」とは見なされない可能性がある。離婚を切り出しているかどうかも重要!
・離婚を切り出す際は、後で証明できるように、メールやラインなど、形の残る方法で行おう!

離婚紛争において別居を先行させるメリットは多くあります。
例えば、離婚を巡る争いは、あえて言えば、相手がいくら離婚を拒絶したとしても、別居さえしていれば、絶対にいつか離婚を勝ち取れます。
離婚判決が出される概ねの目安は、有責配偶者(不貞などを行った配偶者)でなければ3年〜4年程度の別居の継続、有責配偶者である場合は概ね6年〜10年程度の別居の継続です(具体的な事情によって変動はあります。)。
そのため、離婚の話し合いに先行して別居を開始することは、いつか必ず離婚となるまでのカウントダウンをスタートすることでもあります。
逆に、同居中である場合には、余程の事情がなければ、離婚訴訟で離婚判決は出されていません。
なお、別居を開始すると、場合によっては生活費を二重に負担しなければならなくなったり、同居義務違反に対して責任を問われたりするリスクもあるので、どのように離婚を進めていくのか、早い段階で専門家と相談を始めた方が良いでしょう。