1. 大変便利な離婚調停
離婚調停は、我々弁護士も積極的に利用するほど、とても便利な手続です。
次の2つの理由があります。
解決率が高いこと!
司法統計上の調停成立率は、平成26年時点で54%を超えています(弁護士が参加したものも、そうでないものも全て含めた率)。
もっとも、弁護士が参加している調停は、その成立率はさらに高いものと思われます(離婚調停は弁護士と参加すべきか!司法統計で見る依頼のメリット)。
交渉なのに、相手の顔を見る必要がない!
調停では、調停委員さんのいる部屋に、当事者が順番に出入りします。ですので、顔を合わせることはありません。
相手と顔を合わせるのにはもううんざりという方にとっては、たいへん魅力的な手続きでしょう。
2. 離婚調停の落とし穴、「残念な調停委員」とは?
以上の通り、離婚調停は大変便利で勝手が良いです。
ですが、注意も必要です。
というのは、調停の進行役である調停委員さんの個性によって、結果が大きく変わってしまうことが多々あるからです。
これが、離婚調停に時々ある落とし穴です。
そもそも、調停委員とは、家庭裁判所が一般の方から選任された、調停における話し合いを主導する方々です。
ところが、法律や離婚の専門家というわけではありません。
どういう人がなるのかというと、
会社の役員の方
団体職員
不動産鑑定士
公認会計士
会社経営者
公務員を退職した方
など様々です。そして、バックグラウンドが様々であるからこそ、色々な個性をお持ちでもあります。
それでは、離婚調停には時々どんな調停委員さんがいて、どんなことが起こってしまうのか。以下、経験をもとにお話します。
一刻も早く離婚したいんですが、離婚調停を申し立てるべきか悩んでいます。調停を申し立てると長引いてしまうんでしょうか・・・?プロキオン法律事務所の弁護士の青木です。上のような質問をされる方は多くいらっしゃいます。つまり、離婚を早く進めた[…]
3. 「残念な調停委員」の例
① 怪しい法律知識をひけらかす調停委員
調停委員さんも、離婚に関する勉強はしていると思います。
ですが、裁判例まで含めてしっかりと研究をしているのかと言えば、そうではありません。
裁判官のレクチャーは受けていると思われますが、法律の専門家ではありませんので、限度があります。
以下は、私自身が経験したことのある、調停委員の言葉を少し取り上げ、ツッコミを入れてみます(弁護士なのでその場で反論しましたが、一般の方がこれを実際に言われたら、どうなってしまうのでしょうか?)。
別居5年ないと離婚できないでしょ。裁判になっても厳しいんじゃない?(もう少しお金を積んだ方がいいですよ。)
→そんなことない。離婚に必要な別居期間は同居期間や、別居原因も大切。1年半程度の別居期間で認められることもザラにあります。
別居中の旦那さんに住宅ローン負担してもらって、あなたはそこに住んでるんでしょ?生活費もらうのは難しいんじゃないかと思うんだよねえ。(だから婚姻費用の請求は諦めたらどうでしょう?)
→そんなことない。住宅ローンは財産形成なので、扶養義務より後回しにされる問題。
せいぜい数万円が相場の婚姻費用から引かれる程度。裁判例が何度も言及している点です。
婚姻費用は、調停申し立て後の部分しかもらえないですから。これはもう、決まってるんです。(それ以前の部分は諦めるべきです。)
→そんなことない。財産分与としてならば、もらえていなかった期間の未払い婚姻費用も、請求できる場合がある。
最高裁判例でも述べられており(最高裁昭和53年11月14日民集32巻8号1529頁)、複数の裁判例がそれを受けて認めている(東京地裁平成9年6月24日判タ495号など)。
月2回の面会交流を求めたい!?それは、、、ちょっと多すぎませんか?(認められっこないですよ。)
→そんなことない。月2回の面会を認めている審判例はザラにある。
女性側の不貞ですから、慰謝料の相場はだいたい100万円程度としてですねー、
→そんなことあるわけない。そこで差を付けていたらそれこそ逆差別。
男女で相場は変わらない。現実的な支払い能力という意味でなら差はあり得るが。
② やたらとどちらかのの味方をする調停委員
女性の調停委員はどうしても女性に肩入れしがちな印象がありますが、これはやむを得ない部分があるでしょう。
仕事をしていない妻が別居によって被る不利益は、たしかに考慮する必要があります。
しかし、どちらの味方をするにせよ、度が過ぎる肩入れは、最終的に結果に響きますから問題です。
その際は不必要に相手方のペースになってしまいますので、注意が必要です。
調停委員がいずれかの味方をしてそうな場合、「調停委員さん、あなた、どちらかというと相手の方の肩を持ってる感じがするんですが・・・」と一言述べてみると良いかもしれません。
調停委員は、裁判所より、中立公平の立場であるようにと指導されていますので、必死に否定すると思います。牽制になるでしょう。
③ プライドが高すぎる調停委員
何かこちらが反論をしようとすると、俺にたてつくのか?といった姿勢を示す調停委員さんが、残念ながらいます。本当に残念です。
一番厄介なタイプですが、間に立ってくれていることに感謝の気持ちを示しつつ、当方の主張をやんわりと述べる。
そして、なんだかんだで決して譲歩しないようにする、こういう正攻法で行くべきでしょう。
④ 単純に能力不足の調停委員
単純に能力不足な人。時々います。
例えば、当事者が提出した資料(預金の履歴や株価資料、保険の返戻金、あるいはそれらを整理したエクセル表など)をじっくり解析する忍耐がない。
諸々の資料を注意深く見てくれない。
そして、なにより、あまり頑張ってくれない。膨大な資料になる場合は、うんざりした表情を浮かべ、真剣に取り組んでもらえない。
「それは弁護士さん同士でやって、次の調停期日までにまとめておいてくれないですか?」とか、
「ここは裁判ではないので、白黒付けるわけではないんですよ。」などと言われてしまうことも。
しかし、基本的には、当方の意見は、調停委員を通じて相手方に伝えてもらいます。
ですから、当方の主張を根拠付ける資料はしっかりと見てもらえないと困るわけです。
こういう場合は、調停外でも改めて、相手方に当方の意向を伝えることがありますね。
離婚調停は大変便利な手続きです。ですが、時折落とし穴がある。
そこに注意しながら調停に参加してみましょう。
以上、いかがでしょうか。
たいていの調停委員は謙虚で、非常に礼儀正しいです。本当に一生懸命です。が、そうですね、2割から3割くらいの確率で「残念な調停委員」に当たってしまうといった印象です。
我々弁護士であれば、そういう場合はガードして依頼者を守ります。ですが、無防備にお一人で調停に参加している方が、時折大きな不利益を受けているのではないか、心配になることが少なからずあります。