横浜の弁護士の青木です。
妻が家事を全くしないことを離婚の理由にする男性は多くいます。
平日は遅くまで残業をして仕事をしている夫にとっては、家事すらしてくれない妻を身勝手と思ってしまうかもしれません。
でも、家事をどのように分担するべきかどうかは、法律が干渉すべきものではありません。
また、性交渉についても、全く応じないのであればともかく、体調や気分によらざるをえないものですから、拒否されたことだけで離婚の理由にするのは難しいでしょう。
今回はそうした点について述べた裁判例をご紹介しながらお話したいと思います。
1 妻が当然に家事を行わなければならないわけではない
結婚生活は非常にプライベートなものです。
例えば家庭内での窃盗事件は刑が免除されますので、警察は取り扱ってくれません。
「国や法律は、家庭の中での揉め事にはできるだけ干渉しない」、それが大原則となっています。
そうですから、結婚生活において、どのような役割分担をするかは、その家庭内で決めることであって、国や法律が決めたり、非難したりすることはできません。
妻が家事をしないということについても、それが夫を全く顧みないものであって、結婚生活の破綻の直接的な原因になるのであればともかく、通常はそれだけでは離婚の原因にはなりません。
つまり、裁判所に妻が家事をしないことを訴えても、受け入れてもらえないということですね。
平成17年6月14日の東京地方裁判所の事案をご紹介します。
この事件は、美容外科医として働く夫(原告)が、妻(被告)が家事をしないことを離婚理由の一つとして主張して、裁判所に離婚を求めたものです。
裁判所は、そのような主張をする夫に対して、次のような言葉を使って非難しています。
「被告は,原告と婚姻した後も前記美容外科医院での勤務を継続していたのであり,原告もこれを積極的に評価していたのであるから,被告が当然に家事全般を行わなければならないものということはできず,原告の洋服の片付けや靴磨きは原告自身が行えば足りることであって,これを一方的に被告に押し付けようとする原告の考え方は,身勝手というほかない(原告が被告による家事の不十分な点として原告の洋服の片付けや靴磨き程度のことしか指摘できないということは,かえって,それ以外のほとんどの家事や育児については,被告が怠りなく行っていたことを自認するに等しいというべきである。)。」
妻が家事をすべきということは、夫の一方的な考えに過ぎないことを、このようにはっきりと述べられています。
2 妻が当然に性交渉に応じなければならないわけではない
家庭生活の中で一番プライベートなものといえるのは、やはり性交渉に関してでしょう。
これは非常にデリケートな問題ですので、性交渉の拒否を離婚理由とすることに対して、裁判所は非常に慎重になります。
結婚後一切性交渉に応じず、それが夫婦関係を破綻させた直接の理由になった場合であれば、離婚原因となることはあります。
しかしながら、そうした極端な例でなければ、これを離婚原因とすることは非常に難しいでしょう。
先ほどの平成17年6月14日の東京地方裁判所判決は、この点について次のように述べています。
「被告が一切原告との性交渉を拒否するというのであればともかく,いかに夫婦といえども,被告が原告の要求するままに性交渉に応じなければならない理由はないのであり,前記美容外科医院での勤務の傍ら家事と育児のほとんどを行っている被告が疲労等のために原告との性交渉を拒むことがあったとしても,無理からぬことというべきである。」
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3 むしろ気をつけるべきは「一方的な」同居拒否
むしろ、こうした妻の対応が気に入らないというだけで、話し合いを通して夫婦関係の改善を計ることなく、一方的に別居をするに至った場合、当面の間離婚が認められないという事態になりかねません。
平成17年6月14日の東京地方裁判所判決の事例では、家事を十分にやらず、性交渉にも応じてくれない妻を見放し、夫が一方的に別居を強行した事例でした。
裁判所はこの点について、次のように述べました。
「仮に,被告による家事の不十分さや性交渉の拒否が原告において被告との離婚を決意させるに至った一因になったとしても,そのことについて被告に責任があるとはいえず,むしろ,夫婦間の家事の分担や性交渉のあり方について自己の一方的な考え方や要求を被告に押し付けようとし,それが受け入れられないとなるや,被告との考え方の相違を解消するための努力もせず,直ちに同居義務を放棄して別居を開始した原告の側にこそ,責任があるというべきである。」
この判決の恐いところは、一方的に別居を断行した夫を、有責配偶者としたことです。
夫婦関係を故意に破綻させた当事者(有責配偶者)は、裁判所に離婚を請求しても、原則として離婚を認めてもらえません。
詳しくは【保存版】これで完璧!不倫・浮気と慰謝料に関する基礎知識をご覧いただきたいと思いますが、このような「有責配偶者」に該当してしまうと、相当に長期の別居期間や、子供が成人することなどの、高いハードルを乗り越えなければ、離婚ができないのです。
通常、10年程度の別居期間が必要とされます。
そして、この判決では、別居期間も同居期間と比べれば短く、未成年の子供もいることを理由に、離婚の請求を棄却しました。
そういうわけですから、むしろ一方的に別居を始めることには慎重になった方が良いでしょう。
妻とはしっかりとコミュニケーションをとり、それでもダメな場合に別居に踏み切りましょう。
別居について妻に同意をしてもらうか、別居を決意した理由をメールや置き手紙にするなど形に残して別居に踏み切る方が、離婚をするためには安全といえます。
このことはもちろん、夫と別居をしたい妻の方も同様です。
もちろん、コミュニケーションを取る中で夫婦関係が改善されればそれにこしたことはありませんしね。