FIRE(経済的自由)と別居・離婚の相性が最悪であることについて【弁護士の解説】

1 FIREという言葉

最近、FIREという言葉を良く聞くようになりました。
Financial Independence, Retire Earlyの略で、早期にリタイアして経済的自由を獲得することです。

一般的に、インデックス米国株式と債券のポートフォリオを構築すると、運用資産の4パーセントを毎年削っても、資産の目減りはほとんどなく、むしろ数倍の資産形成の可能性もあるとされています。このことから、毎年の生活費の25倍程度の資産があれば、仕事をやめて自由な生活を達成することも可能と言われています。

そのため、通常の会社員の方々でも、こうした生活を目標にし、日々の節約と、証券会社への可能な限りの入金に勤めている方々が多くいます。

ところが、もしその人が家庭を持っている場合、日本の離婚率が3分の1であることを考えると、その達成可能性に重大なリスクがあることがわかります。

以下、弁護士が解説します。

2 別居すると入金力が著しく低下する

例えば、FIREを目指している夫婦は、同居期間中、かなりの節約に勤しんでいると思います。賃料を極力低くし、携帯も格安のものを使い、外食を控え、衣服もユニクロ一択にするなど、方法は様々です。そして、頑張って毎月の生活費を15万円程度に抑えられているとしましょう。

しかし、もしここで夫婦仲が悪化し別居に至ると、夫は妻に対して、通常、婚姻費用を支払わなければならなくなります。その金額は、裁判所が定めている計算手法によって決定します。例えば、夫の年収が700万円で、妻の年収が200万円だと、子供がいなくても、婚姻費用額は8万円(子供がいると13万円程度)になります。

注意が必要なのは、別居をすれば、夫は、妻に渡す、上記8万円の他に、自分自身の生活費も捻出しなければならないということです。

そうすると、これまで夫婦で協力して15万円程度の出費で済んでいたのが(収入費が7:2だと、夫の負担は11万円)、妻に渡す婚姻費用と自分自身の生活費を捻出しなければならないため、同居の際よりも圧倒的に出費が重なります。同居時の負担額11万円に収めようとすると、自分の生活は3万円で賄わなければなりません。賃料や携帯料金、食費を3万円で賄うことは不可能です。そのため、別居後は、証券会社への入金力は著しく低下すると考えて間違い無いでしょう。

ここで注意が必要なのは、同居期間中は夫婦協力して一般的な家庭よりもずっと節約をして生活をしてきたとしても、別居後に婚姻費用額を決める際、そうした節約を前提とした金額にはならず、あくまでも一般家庭と同じ水準で婚姻費用額がほぼ機会的に決定されてしまうということです。

一方で、婚姻費用をもらう妻側は、逆にこれまで以上に自分の証券会社への入金力を高めることができるでしょう。

3 別居後に増えた部分も財産分与の対象になる

別居をしてすぐに離婚になる場合、日本では財産分与の制度があり、その分与割合も2分の1とするルールが適用されます。そのため、同居期間中に形成した運用資産も、2分の1を渡すことになります。

一方、離婚は、妻が婚姻費用をもらう権利を失うことも意味しますので、もし妻が、婚姻費用欲しさに離婚に応じない場合、夫としては、離婚が認められるようになるまで、別居期間を稼ぐ必要が出てきます。離婚に必要な別居期間は、概ね3年から5年です。

その間、婚姻費用の負担により、新たな入金は難しくなったものの、すでに運用中の資産は徐々に増えていくことが多いでしょう。

ところが、実際に離婚をするタイミングになった際、夫は、別居時点の運用資産の評価額ではなく、別居後3年から5年たった、現在の評価額をもとに、その半額を妻に渡さなければならなくなります(別居後の入金部分は別)。(別居と証券口座の問題は、『別居したら必ずこれをやろう!証券口座を見直して資産を守る!』(https://riko-net.com/divorce-money/protect-financial-assets)も参考にしてください。)

資産運用はリスクを耐えた対価として、その増加益を享受できるのですが、財産分与では、そのリスクを目の当たりにしない妻側も、増加益の恩恵に預かることが可能なわけです。

ただし、もしその運用資産の評価額が減っている場合は、妻に渡す金額も下がることについては述べておきます。

4 別居・離婚するのはFIRE後が良い?

以上の事態からすると、FIREを目標としている夫婦が別居や離婚を考えている場合、特に通常は収入が多い夫側は、なかなか別居に踏み切れなくなるかもしれません。
そうすると、FIREをした後に別居・離婚をした方が良いのでしょうか?いいえ、その判断は簡単ではありません。

目標とする資産額(例えば生活費の25倍)に達成するまでは、ある程度の長い時間がかかるでしょう。そのため、FIRE後の別居・離婚を考えると、長時間、離婚したい相手との共同生活を堪える必要があります。

また、FIRE後にいざ別居・離婚をしたい場合でも、別居後に妻に渡さなければならない生活費は、節約を前提とした金額にはなりません通常の家庭を前提とした金額が設定されることになります。別居により、FIREそのものが継続不可能になる可能性が高いでしょう。

一方で、資産形成中に別居・離婚をする場合は、FIREそのものが、婚姻費用の負担により、相当先になってしまうことを覚悟する必要があるでしょう。

5 戦略的な方針を検討し続けよう

以上述べたような制度状況のため、FIREと別居・離婚の相性は極めて悪いということが理解できたと思います。

そうした中で、相手との離婚を検討する場合は、FIREをするための運用手法や、現在の目標額達成状況、さらにFIRE後に仕事に戻れる余地があるかなどにより、方針は変わってくるでしょう。

それは一人ではなかなか判断ができるものではありません。専門家に相談をするなどして、より戦略的な離婚に向けての方針を検討していきましょう。

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今回の問題の根源は、婚姻費用制度です。この制度は、払う側には一切の対価のない一方的な義務として、本当に公正な制度なのか、疑う声もあります。しかし、現在の裁判所の運用上、離婚手続の大きな柱として揺らぐことはありませんので、これを前提として、離婚に向けての戦略を立てていく必要があるでしょう。

FIREでも、副業的なものを平行して行うサイドFIREなど、様々な種類があります。自らの可能性を狭めず、よりオープンな姿勢で選択肢を見出し、解決方針を決めていくことが肝心です。私たちも、皆様の離婚問題の解決を応援できればと思います。

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