今回は、年金分割をしない合意が可能であるのか、可能だとしてどのようにすればいいのかいついてご説明します。
まず年金分割について詳しく知りたいという方は、下記の記事をご覧になった上で本記事をご覧ください。
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相手が応じるのであれば、年金分割をしないという合意をすることは可能
当事務所への相談時に、「調停委員に年金分割はしなくてはいけないと言われたので年金分割は拒否できないと思っていた」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
調停において、調停委員が、年金分割はしなくてはいけないものだからそこは争っても仕方ない旨の説明をすることがよくあります。
確かに、年金分割について合意ができずに年金分割の審判が申立てられた場合、ほぼ確実に年金分割は認められてしまうので、調停委員の説明は一面では当たっています。
しかし、協議離婚や調停離婚において、当事者間で年金分割を請求しない旨の合意をすれば、その合意は有効です。

年金分割をしない旨の合意のやり方
年金分割をしない旨の合意は可能ですが、離婚協議書や調停調書などにその旨を記載する時の文言には注意する必要があります。
年金分割請求権は、厚生労働大臣に対する公法上の請求権とされています。
そのため、単に「年金分割をしない」という私法上の合意をしても、年金分割請求権を直接制約することはできません。
年金分割の請求は、まずは裁判所に対し年金分割の割合を定める調停や審判を申立て、そこで決まった割合に従って、厚生労働大臣に対し(書類の提出先は年金事務所ですが)年金分割請求権を行使するという仕組みになっています。
既に述べたように厚生労働大臣に対する請求権は公法上の請求権のため、私法上の合意をしても年金分割請求権を直接制約することはできませんが、裁判所に対し年金分割の割合を定める調停や審判の申立てをしないという合意は、当事者間の手続きに関する合意として有効とされています。
したがって、年金分割をしない旨の合意をする場合には「年金分割事件の申立てはしない」という文言とする必要があります。
年金分割をしない旨の合意の効力
「年金分割事件の申立てはしない」という文言で合意をした場合の効力は次のようになります。
まず、合意に反した調停や審判の申立ては、裁判所としてその事件を取り扱わないとされたり(これを「(調停を)なさず」といいます。)、却下されたりすると考えられます。
また、合意に違反したということで損害賠償請求を行うことも可能であるとされています。
注意点
このように年金分割をしない旨の合意が有効であるのは、年金分割が合意分割による場合のみになります。
年金分割の調停や審判の申立ての必要なく年金分割の請求が可能な、いわゆる3号分割の場合は年金分割をしない旨の合意をしても年金分割請求権を制約することはできないので注意してください。
まとめ
調停では、調停委員等から年金分割をしないという解決はできないかのような説明を受けることがありますが、実際には、相手が合意さえしてくれれば年金分割はしないという取り決めをすることは可能です。
もし年金分割をしたくないという強い希望がある場合には、一度相手と交渉してみるとよいでしょう。

本文でご説明したように年金分割をしないという合意をすること自体は可能ですが、実際にそのような合意を行うケースはかなり稀です。
というのも、相手からすれば、年金分割について争われたとしても、離婚訴訟になった場合には余程の事情がない限り年金分割は認められるため、年金分割を放棄するメリットがあまりないからです。
それでも、早期解決のために相手が譲歩してくる可能性もあるため、交渉の一つの材料として主張してみてもいいと思います。