こんにちは、横浜の離婚弁護士の青木亮祐です。
今回のテーマは、財産分与を請求できる期限です。
1 離婚のときに必ずしも決めなくてもいい財産分与
離婚の際によく行われる財産分与。
夫婦が婚姻生活で築き上げた資産は、平等に分けるべきという思想から行われるこの制度。
しかし、実際には、こうした財産分与をしないうちに離婚をするということも少なくありません。
財産分与は、不動産や預貯金、生命保険、株式、借金など多岐にわたることから、非常に時間と労力がかかります。
しかし、通常、離婚したい人は、なるべく早く離婚して、この不毛な婚姻生活に終止符を打ちたいのです。
そういうわけで、こうした財産分与の手続きを経ずに、先に離婚をするという方々は多くいらっしゃいます。
決めなければ離婚できないという条件というのは、一つしかありません。
それは、子どもの親権です。
夫と妻、どちらが子どもの親権者になるかということです。
それは子どもの将来に係ることですから、当然かもしれません。
しかし、それ以外のこと、つまり、養育費の金額や、慰謝料額、そして財産分与額については、決めなくとも離婚することができます。
2 財産分与の請求期限は2年!
それでは、不毛な婚姻生活を一刻も早く解消したいという理由で、財産分与の金額を決めずに離婚した場合、もう、財産分与などの請求はできないのでしょうか。
そんなことはありません。
離婚してから2年以内であれば、財産分与の請求を行うことができます(民法768条2項ただし書)。
もっとも、2年以内に、ただ単に元夫に請求するだけではなく、家庭裁判所に審判の申立をしなければなりませんので、そこは注意してください。
2年以内に裁判所外で請求をして、離婚から2年経過後に裁判所に申立をしても、期限切れということで却下されてしまいます。
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3 財産がないと思って諦めていたのに、実はあった場合は??
一方、離婚をするに際して、相手にほとんどお金がないと信じて、財産分与の請求をしなかったけど、後からそれがあることを知った場合はどうでしょう。
実はこうしたことは時々あります。
夫の給与口座を管理しているつもりであっても、その副収入については知らなかったり、そもそも給与口座自体管理しておらず、実際にどの程度の金額が夫にあったのかが分からないということもよくありますよね。
それでも、やはり、すでに離婚から2年経過してしまった場合は、財産分与の請求は不可能なのでしょうか。
裁判例をみると、相手にお金がないと信じていたことが、「やむを得ない」といえるかどうかにより、結論が変わってきます。
例えば、夫に副収入があることを知っていたけれども金額は知らなかったり、あるいは夫の給与口座を管理していないため、給与額が分からない場合などは、難しいでしょう。
夫にお金がなかったと信じたことが「やむを得ない」とは言えないからです。
なぜなら、「あるかもしれない」という思いがあった以上は、その時点で裁判所に財産分与の審判請求ができたはずです。
基本的に、離婚後の財産関係というものは、もはや他人同士となった男女間のものであるため、早急に決める必要があります。
それぞれの新しい人生のため、財産の帰属を早いうちにはっきりさせておく必要があるということです。
そういうわけで、2年という期限が設けられているわけですね。
そうですから、裁判所に財産分与の審判の請求が期待できたような場合は、やはりこの2年の期限にひっかかってしまうことは争えないでしょう。
一方、例えば、夫が財産状況を偽ったり、財産を隠していたような場合は、結論が変わってきます。
そういう場合は、妻としては、夫に財産がないと信じても仕方ありませんし、裁判所に審判の請求をすることも期待できないでしょう。
逆にいうと、嘘をついたり資産を隠したりしていた者には、法律は手助けしないということです。
東京高等裁判所が平成3年3月14日に行った決定では、財産分与の協議において、協議の重要な前提事実に誤りがあり、錯誤があったとした上、そういう場合には裁判所への財産分与の申立が「期待できない」として、離婚から2年を過ぎた財産分与の申立について、これを認めました。
また、浦和地方裁判所川崎支部が平成元年9月13日の決定では、夫婦の共有財産に属していたはずの国債を元妻が隠していたことについて、元夫による財産分与の請求をする機会を喪失させたとして、不法行為による損害賠償請求を認容しています。
つまり、財産分与については2年の期限を経ていたけれども、それによって元妻に得をさせるわけにはいかないとして、当時の裁判所が思いついた策だったといえるでしょう。
本来財産分与されるべき財産を隠していた妻の行為を違法なものとして、夫に損害賠償請求を認めたのです。
結局、離婚から2年以内に財産分与の請求ができなかったことが、本当にやむを得なかったものなのかどうかを、慎重に判断することになるでしょう。
