配偶者(夫または妻)との別居後、高確率で問題となるもの、それが婚姻費用です。
つまりは、別居後の配偶者の生活費です。
配偶者に支払う婚姻費用がいくらになるのかは、直近の収入資料に基づき、裁判所で利用されている算定表を使用するのが一般的です。
しかし、直近の収入資料の金額の中に交通費が含まれている場合、交通費を収入に含めるかどうかについて知っている方は少ない印象です。
今回は、婚姻費用を決める際の収入に交通費が含まれるかについて、以下の順番でご紹介いたします。
・交通費を収入に含むかどうかが問題となる場面とは?
・実務において交通費は収入に含まれているの?
・給与明細をもとにする場合の収入計算の方法
1 交通費を収入に含むかどうかが問題となる場面とは?
交通費を収入に含むかどうかが問題となる場面について説明します。
結論をいうと、婚姻費用を決める前提となる収入を、源泉徴収票ではなく月ごとの給与明細で計算しようとする場面です。
婚姻費用を決める際には、直近の収入資料に基づいて収入を判断することになります。通常は源泉徴収票を利用することが多いのですが、1年に1度しか発行されませんので、源泉徴収票の発行後に給与体系が変わった場合や昇進した場合などは適切ではありません。
そこで、この場合には、直近3ヶ月分程度の給与明細を利用して、年額に換算することで収入を計算することになります。
問題となるのは、源泉徴収票における「支払金額」欄においては交通費が含まれていないにもかかわらず、給与明細における「総支給金額」欄においては交通費が含まれている場合があることです(交通費額が非課税所得であることが関係しています)。
給与明細における「総支給金額」欄に交通費が含まれている場合、年額に換算した際には交通費の分収入の金額が高くなりますので、源泉徴収票を利用した場合よりも収入が増えてしまい、結果として婚姻費用が高くなるという事態になりかねないのです。
2 実務において交通費は収入に含まれているのか?
弁護士が調停に参加している場合は、婚姻費用を決める前提となる収入を確定させる際に、給与明細の「総支給金額」に交通費が含まれているかどうかをしっかりと確認します。
一方、本人のみで調停に参加しているケースでは、調停委員の方から指摘を受けず、スルーしてしまう危険がありますので、注意しましょう。
(2023年11月13日更新)元妻が親権をもった場合、離婚後も支払い続けなきゃいけない養育費。ところが、元妻が、どうやら再婚し、子どもと再婚相手と一緒に暮らしているらしい・・・元妻が再婚したことは、お子様方との面会交流の最中に[…]
3 給与明細をもとにする場合の収入計算の方法
では、給与明細の「総支給金額」に交通費が含まれている場合には、どのようにして収入を計算するのでしょうか。
まず、給与明細の「総支給金額」欄と「非課税通勤手当」欄(お手元の給与明細によっては費目名が異なるかもしれませんが、ご了承ください。)の金額をご覧ください。
「総支給金額」欄の金額から、「非課税通勤手当」欄の金額を引いて、その後に、年額に換算していただければ、収入を計算することができます。
計算方法自体は、このようにとても簡単です。なお、賞与がある場合には賞与も加える必要がある点、給与明細が複数月分ある場合には、平均化してから12ヶ月分に直す必要がある点は注意しましょう。
なお、以上のお話は養育費を決める際も全く同じです。
<まとめ>
・婚姻費用や養育費を決める際、収入を源泉徴収票ベースで決めるか、給与明細ベースで決めるかによって、差が出る場合がある!
・調停で収入を決める際、調停委員が指摘してくれるとは限らないので、交通費の取り扱いがどうなっているかをしっかりと確認しよう!
・給与明細の「総支給額」から、「非課税通勤手当」を差し引いた金額を収入として計算しよう!
今回は、婚姻費用を決める前提となる、直近の収入について、交通費が含まれるのかどうかという点を説明しました。
源泉徴収票と給与明細において、交通費が含まれているのかどうかという点については、あまり多く知られているものではないため、見落としがちです。
しかし、婚姻費用は生活に直結する要素ですので、交通費についてもしっかり処理をする必要があります。
今回の記事が、皆様の離婚や婚姻費用・養育費問題において、お役に立てましたら幸いです。