横浜の弁護士の青木です。
先日、とある相談者の方から言われたことがあります。
「前に相談した弁護士には、離婚原因がないから離婚できないと言われました。今回のお話は全然違うので驚きました。」
私はこの言葉を相談者の方よりお聞きし、逆に驚きました。
前に相談した弁護士というのは、一体離婚というものをどのように考えているのだろう。
法律上の離婚原因がなければ離婚はできないなどというアドバイスにどんな価値があるのだろう。
離婚という「事件」を本当に処理したことがあるのだろうか。
今回は、離婚原因がなければ本当に離婚できないのかについて、お話したいと思います。
1. 法定離婚原因
法律上の離婚原因として挙げられるものは以下のとおりです(民法770条)。
1 配偶者に不貞な行為があったとき。
2 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
4 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5 その他婚姻を継続し難い、重大な事由があるとき。
いずれも、婚姻関係が破綻しており、元に戻って夫婦生活を継続することが見込めず、その夫婦関係を戸籍上維持することに社会的にも意味がない場合を列挙しています。
逆に言えば、夫婦関係が元に戻る可能性があれば、未だ婚姻関係が破綻しているとは言えず、離婚が認められないということでもあります。
別居期間が1年に満たないケースなどは、婚姻関係が破綻したとまでは認め難い典型例です。
なお、有責配偶者による離婚請求は、別途高いハードルがあります。
これについては「不倫をしても離婚請求が許される時代が到来した?」をご参照ください。
2. 法定離婚原因が問題になるのは、判決のときだけ
世の中の離婚のほとんどは、法定離婚原因のない離婚と言えます。
日本では、夫婦が合意して離婚届を役所に提出することで、離婚が完成します。
誰の許可も必要ありません。法定離婚原因なんか一切問題になりません。
法定離婚原因が問題になるのは、あくまでも裁判所が、夫婦の一方の離婚請求に対して判決をするときだけです。
離婚には、協議離婚、調停離婚、和解離婚、裁判離婚と種類がありますが、この最後の裁判離婚の時だけ問題になるにすぎないというわけですね。
そういうわけですから、「離婚原因がないから離婚は難しい」などというアドバイスが全く意味を成さないことをお分かりいただけるかと思います。
私は、良く言われる「法定離婚原因」あるいは「法定離婚事由」という言葉も良くないと思います。
条文(民法770上)を見ればわかりますが、法定離婚原因を定める条文は、表題に「裁判上の離婚」と記載されています。
しかも、その条文が位置するのは、「第四節 離婚」のうち、「第二款 裁判上の離婚」の箇所です。
ですので、この法定離婚原因というものは、慣例としても、「裁判離婚原因」と呼ぶべきだと思います。
3. 離婚できる「確率」を考えてみよう
離婚というものは、断じて、法律を当てはめて処理するような問題だけではあり得ません。
その過程の中で、意識を変えていく、それに向けて関係者が努力をしていく、それが離婚です。
いわば、離婚というのは、一回的な「点」ではなく、変化を伴う「活動」といえるでしょう。
法律上離婚ができるかどうかは、ほとんど意味を持ちません。
大切なのは、様々な人が関わりながら、離婚という「活動」に参加をし、夫婦関係の解消のために努力をしていくという過程に重きを置いた視点です。
実際、法律上の離婚原因がなくても、弁護士が間に入り、離婚を実現することは良くあります。
判決になると離婚ができないわけですから、どこかで和解して離婚にこぎつけるのです。
相手が離婚に応じないのに、離婚ができるかどうか。
その確率を、ちょっと掛け算をして考えてみましょう。
ちょっと乱暴になりますが、相手が離婚に応じてくれない場合、本人が一生懸命説得しても、9割の可能性で応じてくれないとします。
その後弁護士が入って説得をしても、8割の可能性で応じてくれない。
調停になっても、調停委員の説得でも7割の可能性で応じてくれない。
裁判になっても、裁判官の説得によっても6割の可能性で応じてくれない、とします。
以上を前提とした場合、判決の前に離婚ができる可能性はどのくらいになるでしょうか。
簡単ですね。
以下のとおりです。
1−(90%×80%×70%×60%)
=1−0.30
=70%
法律上離婚原因がなく、判決の場合に離婚ができないケースであっても、弁護士や調停委員、裁判官による説得をも考慮にすれば、離婚ができる可能性は、だいぶ高いと思われるのではないでしょうか。
もちろん、上記の前提は相当に楽観的なものかもしれませんが、それぞれの方々が当初思っていたよりは相当高い確率になるということは言えるのではないでしょうか。
離婚は、夫婦関係解消に向けた、一連の活動です。
法律上の知識を当てはめれば良いというものではありません。
こうした視点を持っている専門家と、ぜひ信頼関係を構築しながら、ご自身の離婚問題に取り組まれることを願います。

離婚の話し合いが、調停でも裁判でもうまく行かなければ、裁判所の判決に委ねざるを得ませんので、労力や費用のリスク判断のためにも、離婚原因の考慮は不可欠です。
でも、それに囚われてはいけないでしょう。離婚という、人生の最大級の転換点であるからこそ、判決の前の段階で、どれだけの努力ができるかが大切です。