夫が家を出て行き、別居が開始された場合、妻と子供はそのまま自宅住んでいてもいいのでしょうか。
その自宅が、夫名義だったら?夫の「親」名義だったらどうでしょうか?
そこで、今回は、
・どんな場合でも離婚するまでは明け渡す必要はない?
・夫の父親が所有する建物に住んでいる場合はどうなる?
についてお話していきます。
1 別居後でも相手名義の自宅に住み続けられるの?
「同居していた自宅から夫が出て行き、別居が開始された。夫からは売却したいから、家を出て行けと言われた。」
「自宅は夫の名義だし出ていかなければ行けないの?」
このような場合、妻は自宅から出ていかなければならないのでしょうか?
いいえ。妻は家を出ていく必要はありません。
妻には、夫婦間の同居・協力・扶助義務(民法752条)に基づいた自宅に住み続ける権利があるのです。
この自宅に住み続ける権利は、婚姻関係が破綻していたとしても婚姻関係が続く限り継続して存在するとされ(東京高決昭31・7・16下民7巻7号1902頁)、特別の事情がない限りは、婚姻の解消ともに当然に消滅するとされています(東京地判昭28・4・30下民4巻4号641頁)。
そのため、夫から家を出ていくように求められても、それに応じる必要はありません!
また、自宅が名義上も共有である場合には、各共有者は共有物の全部についてその持分に応じた使用をすることができます(民法249条)。そのため、法律上も自宅を占有する権原があるので、財産分与により夫の単独名義となるまでは住み続けることができます。
2 離婚するまでは出て行かなくても安心?
別居中でも自宅に住み続ける権利があるとはいえ、いかなる場合でも無条件に認められているわけではありません。
裁判例の中には、明け渡しを認めた例や損害金を認めた例もあります。
妻の父親が、購入資金を負担した妻名義の自宅で婚姻生活を送っていたところ、夫の猜疑心や暴力、脅迫行為などが原因で妻と子供が家を出て、妻が夫に自宅の明け渡しと損害金を求めた事案では、「原告(妻)の同居拒絶には正当な理由があると認められ、被告(夫)は本件建物の占有権原を有するものではな」いとして、自宅の明け渡しと賃料相当額である月5万円の損害金の支払いを夫に命じる判決が出されました(東京地判昭61・12・11判時1253号80頁)。
また、多数回にわたる妻への暴力や妻への嫌がらせ等、夫に婚姻関係破綻の原因がある事案では、妻から夫に対して直ちに建物明け渡しを求めうる特段の事情があるとした例(徳島地判昭62・6・23判タ653号156頁)や、夫がホステスとの男女関係があり、妻への暴力もある事案で、妻からの明渡請求に対し、「破綻状態に導いた原因ないし責任は専ら被告(夫)にある」「被告(夫)が本件建物について居住権を主張することは権利の濫用に該当し到底許されない」とした例(東京地判昭47・9・21判時693号51頁)もあります。
このように、占有している側に婚姻関係の破綻の原因があり、別居後、相手名義の自宅に住み続けていることが権利の濫用と認められる場合は、明け渡しをしなければなりません。
3 夫の親が所有する自宅に住んでいた場合はどうなる?
それでは、夫の父親が所有する自宅に無償で住まわせてもらっていた場合、夫が家から出て行ったら、妻は家から出なければならないのでしょうか。
夫の母親が夫婦に婚姻の住居として無償で貸していた建物の明渡しを求めた事案では、離婚問題は解決していないものの、夫婦関係は既に破綻しており、夫婦とその家族が共同生活を営むための住居として使用するという使用貸借上の目的に従った使用収益は既に終了しているとして、夫の母親からの明渡請求は権利の濫用にはあたらないとして、明け渡しを認めた例(東京地判平9・10・23判タ995号234頁)があります。
このように、夫の両親から明け渡しを求められた場合、既に夫婦関係が破綻しているかどうかが重要なファクターとなるといえます。
まとめ
・婚姻関係破綻の原因を作った側が自宅に住んでいる場合、裁判例条明け渡しが認められる場合がある!
・夫の父親が所有する建物に住み続けられるかは、婚姻関係が破綻しているかが重要!
離婚調停や離婚訴訟では、財産分与についても取り決めることが多いです。財産分与の結果、妻に自宅の所有権も持分権も得られなかった場合、妻には自宅に住む権利はありません。
そのため、離婚時には、夫から自宅の明け渡しを求められたら応じなければならないことがあります。
自宅の明け渡しについては、調停の際には、具体的な取り決めがされて条項に入れられることになります。
離婚訴訟の場合でも、財産分与の一環として自宅を明け渡すように命じる判決が出されることになるでしょう。
この点について、最近、令和2年8月6日付最高裁決定があり、財産分与審判において不動産の明け渡しを命ずることができる判断されました。離婚訴訟で財産分与を争う場合も同様に考えられるでしょう。